不気味な笑み
投下します。
冒険者たちとともに森に入ったわたしを待っていたのは、凶暴化した魔物だった。
オーガやゴブリン、スケルトンといったファンタジーの定番モンスターはもちろん、リッチーや竜騎兵なんてレアな魔物までいる。
数日前薬草採取のクエストで入ったときはこんな魔物はいなかった。多分これが異界化ってやつの影響なんだろう。
「恐れるな!!」
多くの冒険者たちが足を後ろにずらす中、冒険者たちの先頭に立つ赤い鎧の男ガリウスは剣を魔物に向けた。
「やつらは俺たちの領地にのこのこやって来た侵入者だ。思い知らせてやれ、ここにお前たちの居場所はないと!」
ガリウスの激とともに取り巻きの冒険者が迫ってきていたスケルトンを薙ぎ払う。それが合図となった。
「うおおおおおおおおおお!!!!!!」
「奴らを殲滅しろ!!!!!!」
「生かして返すなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
強大な魔物を前に臆していた冒険者が一人、また一人と魔物に向かっていく。
さながらその姿は冒険者というより狂戦士そのもの。先ほどまでの恐怖に染まった表情が嘘のようだ。
「わたしも行かないとっ」
襲ってきたゴブリンの群れを覚えたての魔法で薙ぎ払う。
無数の炎の槍を生成し敵を串刺しにする『フレイムランス』は複数相手にするとき便利だと、教えてくれた冒険者が言っていた。
まさにその通り。これなら少ない魔力消費で何体でも行けそうだ。
「ほう、やるじゃねえかお嬢ちゃん。さすがBランクなだけはあるぜ」
ふと後ろからそんな軽口が聞こえる。この声。忘れるはずがない。
振り返ると、どこぞの世紀末にいそうな姿をしたモヒカン頭がへらへらと笑いながら歩いてきていた。
「なに? なんかよう?」
「おお怖っ。なんだよせっかく声かけてやったのに」
「余計なお世話よ」
「へへっ。まぁまぁ、そんなつれない態度をとるもんじゃねえぜ」
ふと周りを見渡す。いつの間にか人の気配がなくなっていた。魔物が襲ってくる様子もない。
「へへへっ、お嬢ちゃんこういった魔物との戦闘はどうやら初めてっぽいなぁ」
「……だったらなによ」
じりじりと距離を詰めてくるモヒカン頭。この感じはあまり良くない。
魔物との戦闘に便乗し、気に入らない冒険者を陥れる。読んだことのある漫画にあった展開。今の状況はまさにそれだ。
「こないでっ」
わたしはフレイムランスを展開する。魔法で人間を攻撃したことはまだない。したいとも思わない。
だけどこんな時、どうしたらいいんだろう。そもそも魔物を倒す威力の魔法を人に向けたら、確実にその人はただじゃすまない。最悪死んでしまう。
わたしの葛藤なんてお構いなしに、モヒカン頭はさらに距離を詰めた。
打つしかない。打たなきゃやられる。
「あと一歩でも近づいたら、打つよ…………」
わたしの最後の警告にモヒカン頭の足が止まる。だが表情は相変わらず不気味な笑みを浮かべていた。
「お嬢ちゃんよ、先輩として一つ教えといてやる」
そういったモヒカン頭は、すでにわたしの懐に入っていた。
おそらく肉体強化系の魔法で移動速度を上げたのだろう。フレイムランスはもう間に合わない。
「うおらぁっ!!」
モヒカン頭はわたし―――――――――――を通り抜け、そのまま何もない空間にアッパーカットを繰り出す。
「ギギィィィィィ!!!!!!」
モヒカン頭の右こぶしが何かをとらえ、そのまま回し蹴りを炸裂させた。
「あっ!?」
空間がゆがみ徐々にその姿があらわになる。そこには黒衣に身を包んだリッチーが二体倒れていた。
「背後には気をつけな。リッチーは姿を隠して襲ってくるんだ。ほかにも数体いたから纏めて片付けたが、こいつらで最後っぽいな」
モヒカン頭は変わらず不気味な笑みを浮かべている。どうやらこの人はわたしを助けてくれたらしい。正直なところ後ろにリッチーがいただなんて全く気付かなかった。
それなのに、わたしはひどい誤解をしてしまった。
「あの、ありがとう」
「へへへっ、気にすんなよ。困ったときはお互い様だ」
それにしても。
「うん。ところでさ、あなた他人から誤解されやすいでしょ」
「おおっ、なんでわかったんだ? お嬢ちゃんもしかして占術系統の魔法もいけるのか?」
うーん。なるほどー。そういう類いの人かー。
初めはリタさんを馬鹿にしてたけど、この分だとそこにも何か理由がありそう。一度ゆっくり話してみてもいいかもしれない。
そんなことを考えていた矢先、森の奥ですさまじい爆発音が響いた。
「な、なに!?」
衝撃で地面が揺れる。何かが崩れる音が森全体に響き渡った。
煙が立ち込めているのは出発前に説明のあった洞窟の方角だ。
「…………リタさん?」
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