教育係とうわさの正体
長らく空けてしまいすみません。
投下します。
「ほう、これはまた」
ベガルタは特段驚いた様子もなく、だが明らかに敵意をガリウスに向ける。
「どうしてくれる。貴様のせいで座すべき場所がなくなってしまったぞ」
「安心しろ。お前が収まる場所はすでに準備してある」
ガリウスはそういって自身の右腰部分を軽く叩いた。剣として腰に下げるという意味だろう。
「ガリウス!」
私は二人の間に割って入った。どうしても今、ここで聞かなくてはならないことがある。
「ギルドでBランクの冒険者たちを纏めていたはずのあんたが、なぜここにいるの」
私がギルドを出るとき、まだ冒険者たちは出発していなかった。あの集団でガリウスは冒険者を纏める指揮官的なポジションだったはず。ガリウスのみが単身ここに乗り込んでくるなど考えにくい。
そして今ガリウスはベガルタに対しこう言った。久しいな、と
外での戦闘音は今まで全く聞こえていない。ということは出発前に何かあったのか。
「ガリウス? ああそうか、まだ解いていなかったな」
その言葉と同時に、ガリウスの顔がぐにゃりと変形する。骨格そのものが変わり、雄々しい顔つきから一遍長細い顔つきになった。
「こいつの顔になってから長かったからな。つい戻すのを忘れていたよ」
完全変異。術者の体を対象者とまったく同じに変形させる魔法だ。魔力の高さによって再現度にムラがあり、なおかつ消費する魔力も尋常ではない。
「といっても、ベガルタにはお見通しだったようだな」
「無論だ。そのような下賤な魔力、そうそういないだろう」
ガリウスではない、まったくの別人。なら本人はまだギルドだろう。ギルド内での裏切りなんてことも一瞬考えたが、そうではないことに私はほっとした。
目の前の男の目的はどうやらベガルタらしい。となればこの異界化案件を鎮圧しに来たと考えるのが普通だ。招集に応じていないところを見ると、別の街の冒険者かもしれない。
そう都合のいい解釈を並べたが、その中でどうしても説明づけられないことがある。
「ところで、なぜ顔を変えていた? 闇討ちでもしようと思ったのか?」
そう、それだ。私は心の中でベガルタの問いにうなずく。
ただ鎮圧しに来たのであればわざわざ魔力を消費してまでガリウスの顔を維持する必要はない。貴重な魔力を使ってまでガリウスの顔を借りる必要が彼にはあったのだ。
「なぜだと? それは、そこの冒険者が知っているんじゃないか?」
突然男は話の矛先を私に向けた。いや、それが分かればこんな悩んではいない。
「あの街の住民にとって、ガリウスはどんな存在だった。ククッ、どんな印象を持たれていた?」
男の言葉に私はこの街の人々の言葉を思い出す。
ランクでの偏見。横暴な態度。街を代表する冒険者にあるまじき数々のうわさ。
街でのガリウスの評判は最悪の一言。私も決めつけてはいなかったが警戒はしていた。
「まさか……」
今の状況だったら何が起きてもガリウスが関与したことになるだろう。どんな事態が起ころうとも、注目されるのは赤獅子ガリウスだ。
「ガリウスを隠れ蓑にしたのね」
「ご名答。その通りだ」
男は禍々しい魔力をあふれ出している剣を私に向ける。
「ベガルタとの接触が失敗に終わった直後、俺はこの魔剣と出会った。そして注目を避けるためガリウスに扮し、やつの悪名を上げていったのさ。すべてはベガルタ、貴様を手に入れるためだっ!!」
少なくとも、こいつは味方じゃない。今のやり取りでわずかながらも存在した可能性が消え去った。
男の鎧が徐々に変化していく。猛々しい赤色が漆黒に染まり鎧の一部が破損した。そして破損した部分が厚い皮で覆われていく。完全変異ではない。元の部分が全く別物に変化している。
「我が名はポロジック。貴様の新たな所有者となるものだ。同じ轍は二度は踏まん、行くぞっ!」
「余を所有するだと? 痴れ者が。死をくれてやるっ!」
魔剣と魔剣がぶつかり合う。もはや止めることのできない打ち合いが始まった。




