わたしの姉と弟分
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よろしければお読みください。
今回はあの男が出ています。
ギルドでの結団式が終わり、冒険者たちはいよいよ異界化した洞窟に向けて出発しようとしていた。
「ああキール……無事でいて」
両手を組み必死に弟の無事を祈るロール。
そんな彼女の手を取り、ユキノは不安を取り除くようにやさしく語り掛けた。
「大丈夫ですよロールさん。キール君はしっかりした子です。それにリタさんも動いてくれてますし、絶対何とかなりますって」
自分にも兄弟がいたらこんなにも心配するのだろう。なおも不安そうなロールの姿を見て、ユキノはこの世界に来る前の自身を思い出していた。
一人っ子だったユキノは兄弟がいる感覚が分からない。厳密に言えばあと少しで姉になるはずだった。
弟ができると知ってからの日々は輝かしいもので、友人や教師に毎日のように報告していたのを思い出す。半ば強引に話を聞かせ、周りもうんざりしていたが、けして誰も邪険にはしなかった。
あと少しで弟に会える。
気分が有頂天になっていた帰り道。突然の事故でユキノはこの世を去った。
女神に出会い、あなたは死んだと言い渡され真っ先に思ったのは弟の事。
結局会えずじまいになってしまい、絶望しこのまま消してくれと女神に懇願した。
だが女神はその願いを叶えはせず、代わりにユキノに力を与える。一般的な魔術師を大きく超える魔力を。
『後悔したまま消えるのは許さないわ。次の世界では姉や弟に恵まれるように』
話し方はフランクだったが、女神はそういってユキノをこの世界に召喚した。
そして女神の計らいか、ユキノは一人の女冒険者と出会う。彼女はユキノを妹のようだと言ってくれた。
その言葉が無性にうれしくこそばゆい。そしてその姉と慕う冒険者と旅をし、今度は無鉄砲な少年と出会う。
自分があのまま事故に遭わず生きていて弟に出会っていたらどんな姉になっていただろうか。きっと年の離れた弟のことを溺愛し、しっかりと守っていただろう。
そんなもしもの世界を、キールに出会ってからたまに想像してしまうのだ。
「おいそこの女! そろそろ出発しねぇとおいてかれるぜ!」
モヒカン頭の男がギルドの出入り口でユキノに野次を飛ばす。
現実に戻されたユキノが周りを見渡すと、もうほとんどの冒険者が洞窟に向かって動いており、残っているのはごく少数だ。
「あんたこそ、早く行かなくていいの?」
「俺は俺でやることがあるんだよ。それよりお前の連れのDランクの女はどうした。帰ったか?」
「リタさんはわたしとは別で動いてるの。あんたには関係ないでしょ」
するとモヒカンの男はそうかそうかと下卑た笑みを浮かべる。
「おおかたクエスト参加できないからって単身洞窟に乗り込んだんだろ? ああいう向こう見ずで馬鹿なやつは真っ先に死ぬのさ。まっ、これでお前も相方が居なくなるわけだし、俺が新しい相方になってやってもいいぜ?」
モヒカンの男の言葉が終わると同時に、その体が一瞬にして氷漬けになった。
「言っていいことと、絶対に言っちゃいけないことがあるのよ」
何事かとざわめくギルド内。そんなことに構うことなく、ユキノはロールの肩に両手を置く。
「ロールさん!」
「はっ、はい」
「まだ少ししか一緒にクエストしてないけど、わたしはキール君を弟のように思ってます。待ってて、必ず連れて帰るから!」
冷気漂うギルドを後にし、ユキノは弟分を探しに勢いよく飛び出した。
読んでいただきありがとうございます。
モヒカンの男は割と気に入っています。




