教育係ともう一人の客人
投稿いたします。
読んでいただければ幸いです。
ベガルタ・ゾ・ディルムンド。
剣を高らかに掲げ、彼はそう言い放った。
私の知る限りだが、ディルムンド帝国というものが存在したという文献はない。
これでも昔はオリジンにある図書館で様々な本を読みふけり、冒険に必要な知識を蓄えていた。
魔物の種類や行動パターンなど細かく書いている本や、多くの武器や防具の種類が載っている本など、それこそジャンルを問わず。
そしてもちろん世界情勢のことも本で知ることが出来た。どんな国がどこにあり、どんな歴史を歩んできたかを。さすがにそれは流し見程度だったけど、それでもディルムンド帝国なる文字は出てこなかった。
「どうした女。今になってディルムンドの偉大さに気づき声も出ないか。少し頭が高いがなに、許そう。先ほども言ったが余は寛大である。小娘の粗相くらい大目に見よう」
玉座に座り直し大きな声を上げてベガルタは笑った。
何だろう。雰囲気が変わったというか、急に接し方が軽くなった。さっきまでの威圧的な態度は消え去り、まるで友人に話しかけるような距離感になっている。これもベガルタの寛大さ故だろうか。
「それで? 貴様、名はなんという」
「リタ・フレイバーです」
いったん状況を整理しよう。
現在キール君はあの剣、ベガルタに精神支配されていて本人の自我はない。
そしてベガルタはキール君と会う前に赤い鎧の男と接触している。赤い鎧の男は自身の目的のためにベガルタを利用しようとするが失敗。ベガルタの力で洞窟の外に追いやられる。
今の段階ですべきことはやはりベガルタからキール君を開放することだ。赤い鎧の男も気になるが、最優先はこちらだろう。
「リタよ。そう身構えなくてもよい。余はこのキールという小童をどうにかする気などない」
私が警戒していることに気づいたのか、ベガルタは玉座から立ち上がり私の方へ向かってくる。
「貴様は余がこの小童の体を乗っ取ったかに思っているようだが実際は違う。その考えは大きな間違いだ」
「……どういうこと?」
「そもそもこの洞窟の中をふらふらと歩いていたこやつを危険な魔物に襲われる前に保護したのが余なのだ」
ベガルタの話では、洞窟の入り口付近に微弱な魔力の反応があり、その奥の森には強大な魔力がいくつも感じ取れたという。
「森の方に戻っては魔物に殺されていただろう。それを避けるために多少の暗示をかけ、余はこの小童をこの広間に呼び寄せた」
ベガルタの思惑通りキール君は洞窟の奥まで進み、そこで膨大な魔力が込められた剣と出会ってしまった。
「あとはこの小童と話をし、利害が一致したので余をあの玉座から抜かせたのだ」
「あなたとキール君の利害が一致? いったい彼と何を話したのっ」
「ごくごく普通なことだ。むしろ男児として健全である。この小童の望みは―――――――――」
だがベガルタの言葉が最後まで続きはしなかった。突然の爆発音。崩壊する玉座。
爆発音の正体は炎系統の魔法『ファイアカノン』だ。
「ほう。招かれざる客がもう一人きたか」
私は後ろを振り返る。
燃えるような赤い髪。灼熱の鎧に身を包み、その男は洞窟の奥からゆっくりとこちらに歩いてきた。
「久しいなベガルタ。まだ健在だったか」
男もまた剣を手にしている。ベガルタとは違い禍々しい形状をしたものだ。
やがて広間にその姿をさらした男の顔を見て私は驚愕する。
「なんで…………」
赤獅子ガリウス。ギルドで冒険者たちを纏めていたはずの男が今、私の目の前にいた。
読んでいただいた皆様、誠にありがとうございます。
この調子で更新できればと思いますので、どうかお付き合いくださいませ。




