教育係と皇帝の真の姿
このペースを保てるように頑張ります。
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「貴様が探してる小童は、今まさに貴様の目の前にいるぞ」
まるでいたずらが成功した無邪気な子供のように、キール君でない何者かは楽しそうに笑みを浮かべた。
「精神操作……というよりは乗っ取りに近いか」
キール君は操られているわけではない。むしろもっと厄介だ。
憑依系の魔法はあまり使用者がいない。というのも、あまりに複雑な術式を必要としなおかつリスクが高いからだ。
相手より魔力が低ければ当然魔法を反射されるし、もし憑依に成功したとしても最悪元の体に戻れない場合もある。
そんなリスクを冒す者は自身が死の淵に追いやられてどうしようもないか、若い肉体を手に入れたいがために使用する外道のどちらかだ。
「どんな経緯でキール君の体を乗っ取ったのかはわからないけど、その子は将来有望な冒険者なんだ。返してもらうよ!」
私はキール君目掛けて突っ込んだ。本来であればもう少し考えて行動する場面だけどそうも言ってられない。
憑依系の魔法は時間が経つにつれ、元の体の人格が徐々に薄くなり、最後には完全に消えてしまうのだ。手遅れになる前になんとしてでもあの自称皇帝をキール君の体から引きはがさなくてはならない。
「ほう。余に逆らうか。まったくいつの世もままならぬものよな」
自称皇帝が持っていた剣を振りかざす。
まばゆい光の後に、すさまじい衝撃が私の体を襲った。
「あぐっ!?」
宙に浮いた私は壁にたたきつけられ、そのまま真下に落下する。
今、何が起きた? 何をされた?
痛みが全身を駆け巡る。喉の奥からこみ上げてくる自身の血を吐きながら、私は目の前の少年を見据えた。
「なんだ、もう終わりか? つまらん。余の国の暴徒の方がまだ楽しめたぞ」
そういって再び自称皇帝は玉座に腰を下ろす。
あれは高位の魔物なんてもんじゃない。どちらかと言えばむしろプレミアやユキノちゃんのような規格外の冒険者の力に近い存在だ。
憑依の魔法を使っている時点で気づくべきだったと若干後悔する。相手は高ランクの冒険者と同等の実力を持つ魔術師。今の衝撃波もおそらく魔法だろう。どんな魔法を使ったまでは分からないが。
「それは失礼を皇帝陛下。すさまじい魔法だったから思わず吹き飛ばされちゃったよ」
軽口を言いながら、私は自称皇帝と少しづつ距離を取り始めた。
まともに相手をしたらまずい。なんとかして隙をついてキール君を奪い返さないと。
「ふむ、魔法とな」
そう言って自称皇帝は頬杖を突き玉座にもたれかかる。
「この間の赤い鎧の男もそんなことを言っていたな。やれ魔法だ奇跡だなどと。我が力をそのような無形なものと同列にしてほしくはないのだがな」
「赤い……鎧?」
その単語に私は反応した。
「やつめ。最初は話し合いだとか抜かしていた癖に、あろうことか余を自分の目的のための道具にしようと迫ってきたのだ。冗談ではない。即刻この洞窟から吹き飛ばしてくれたわ」
自称皇帝の話を聞いていくにつれ私の中に違和感が生まれる。
キール君と別れたのは昨日の夜。クエストが終わりギルドに報告を終えた後だ。今の話だと、それより前にこの自称皇帝は赤い鎧の男に会っていることになる。
そしてその時も、今私にしたような衝撃波を赤い鎧の男に浴びせたっぽい。
そして。
「あの、皇帝陛下。一つ質問しても?」
「良かろう。余は寛大である。申すがよい」
今の話の中の最大の違和感は、赤い鎧の男と会った自称皇帝の姿。
「皇帝陛下のお姿は、その……」
「察しがいいな女。そう、これだ」
自称皇帝は持っていた剣を高らかに掲げた。
そう。最初から間違っていたのだ。
憑依でもなく操作でもない。そう、これは。
「我が名はベガルタ・ゾ・ディルムンド。誇り高きディルムンド帝国最後の皇帝であり、今はこの剣に魂を宿している」
紛れもなく、支配だ。
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