教育係と見慣れない服装
オリジン。
冒険者組合があり、冒険者を目指す者にとって一番初めに訪れる街だ。
大昔の英雄が最後に立ち寄りそのまま住み始め、冒険者組合の基礎部分をくみ上げたともいわれている。
遠くからこの街にやってくる人も大勢いて、そのこともあってこの街は宿屋が多い。
「ただいまー」
かくいう私もこの『狐の館』に長いことお世話になっている身だ。Dランクになっても宿屋暮らしをしているのにはいくつか理由がある。
「あらリタちゃん、おかえり」
まだ冒険者になり立てだった私を快く泊めてくれたのがこの女店主ファラさんだ。私のことを妹のように思っているらしく、良くしてくれている。狐の館の料理はファラさんがすべて作っており、ほかのどの店よりもおいしい。私が外食をせずクエストが終わったらまっすぐ帰る理由がこれだ。
「もうご飯食べる? それともお風呂入ってからにする?」
「お風呂入ってからにするよ。あがったら降りてくるね」
私はファラさんから部屋の鍵を受け取る。もう三年近くお世話になっている『銀の間』と名称がつく部屋だ。本来だと今の家賃の四倍相当の部屋だが、当時改装中だった狐の宿を色々手伝った結果格安で借りさせてもらっている。ファラさんほんと神。
「あっ、そうそう。今朝リタちゃんがここを出た後に、入れ替わりで一人泊めてほしいって子が来たのよ」
その瞬間私は察した。ああ、また新米の冒険者が来たのか、と。
狐の館を訪ねる人種は大概『新米教育係のリタ』に用がある新米冒険者だ。大方ギルドで冒険者登録を済ませた後受付の人に言われたのだろう。
「リタちゃんを探してたから多分冒険者の方じゃないかしら」
「わかったよファラさん。じゃあ先にその人に会いに行くね」
ファラさんが言うには部屋は二階の右奥。私が止まっている銀の間とは反対方向だ。
華奢な女の子で見たことない服を着ていたらしい。
私はドアの前に立ち深呼吸をしてノックをする。
「こんばんわ。リタ・フレイバーです。店主のファラさんに聞いて来ました。いらっしゃいますか?」
いったいどんな人物が出てくるのだろうか。ファラさんは妹が増えたとか言っていたが。
「は、はーい! 今出まーすっ!」
少し慌てた様子で返事が返ってくる。もしかして寝ていたのだろうか、それだったら悪いことをしたな。
ガチャリとドアが開けられ、中からぴょこりと女の子が顔を出した。
私は彼女の姿をまじまじと見てしまう。白と黒の色合いの服を着ており、首よりやや下には赤いリボンが装飾されていた。なるほど確かにこの服装は見たことがない。冒険者は装備によってさまざまな服装になれるが、このような服装は初めてだ。
「あ、あのー」
彼女の言葉にハッと我に返る。どうやら少し長く見すぎたみたいだ。
「ごめんなさい、あまりに珍しい服装だったからつい」
「あーそれ、受付のお姉さんにも言われました」
はにかみながらそう答える彼女。
「そんな服装見たことありませんが、いったいどちらから来られたんですかーって」
「そうでしょうね。私もいろんな冒険者を見たけど、その服装の人に出会うのは初めてよ」
珍しい服に興味がわいたが、そこで当初の目的を思い出した。その服について聞きたいことはあるがそれは一旦置いておこう。
私は咳払いをして場を整えた。
「自己紹介が遅れました。私はリタ・フレイバー。冒険者ランクDで、Fランク冒険者のクエストのサポートをしています」
「初めまして! わたしはコウズキユキノ……じゃなかった。ユキノ・コウズキ十七歳です! 受付のお姉さんからここに行くようにって言われました!」
なんという元気の良さだろう。年も私より下だ。妹が増えたとファラさんは言っていたが、私にとっても妹のような存在になるのだろう。
「ということは、ユキノ……ちゃんでいいかな」
「はい、大丈夫です」
「うん。じゃあユキノちゃんはギルドで冒険者登録をして、私を訪ねるように言われたんだね」
「はい、金髪のお姉さんにそういわれました」
金髪の受付嬢、おそらくは知り合いだ。それもゴルドとかと同じくらい昔なじみの。
最近はギルドに行っても仕事で遠出しているとかで姿が見えなかったけど、戻ってきたのだろうか。
「わかった。今日はもうこんな時間だから、明日からサポートに入るね。この街の事とかいろいろ案内しつつ、簡単なクエストをやろうか」
「わかりました! 明日からお願いしますリタさん!」
「じゃあ今日はお風呂に入ってから三人でご飯ね」
「おわっ、ファラさんいつからそこに」
いつの間にかファラさんが私の後ろに立っていた。ここまで気配を感じさせない宿屋の店主っていったい……。
「じゃあそうしようかな。ユキノちゃんもそれで平気?」
「はい! むしろお二人を誘おうと思ってました」
にこやかな顔でそういうユキノちゃん。この子積極的でいい子だな。
「はいはい、じゃあリタちゃんはお風呂入ってきなさい。ユキノちゃんはご飯の準備手伝ってくれるかしら?」
「もちろんです!」
ファラさんとユキノちゃん、すっかり意気投合したみたいだ。私も早くお風呂に入って二人を手伝おう。
その日の夕食は狐の宿フルコースが提供され、私もユキノちゃんも表情が緩み切るほどおいしい思いをした。