教育係と異界化案件ご案内
ギルド中央では、相変わらず多くの冒険者たちが出発のときに備えている。
ガリウスとその取り巻きは準備を整えると言って一旦その場を後にしていた。
「あれが終わるまで、クエストは受注できそうにないね」
「迷惑な話ですねまったく」
ユキノちゃんの声がトゲトゲしい。まだ先ほどのモヒカン頭とのやり取りに腹を立てているようだ。まぁ実際言われたのは私であってユキノちゃんではないのだけれど。
「それにしても、ギルドマスターがいないのによくあれだけの冒険者を集められたね」
「それは、ガイウスさんがギルドマスターの親友だからです」
カップを手に持ち現れたのはロールさんだ。挨拶を交わし、私の隣に座ってカップに口をつける。
「ロールさん、親友って?」
「ギルドマスターとガリウスさんは二人でパーティを組み、近隣のダンジョンを攻略しセカンドの治安を守っていました」
ロールさんの話ではセカンドの治安を安全なものにした後、片方はギルドマスターとして統治管理することを。もう片方は冒険者として戦うことを選んだという。
それはセカンドにいる冒険者は誰もが知っている事実で、ギルドマスターが不在の今だからこそ、冒険者はガリウスに従っているのだという。
「でもわたしたちが街に入るとき門番のおじさんに言われたよ。ガリウスには気をつけろって」
「うん。でも今の彼を見ていると、聞いていたうわさとだいぶ違うね」
「それは……」
ロールさんは下を向いてしまう。彼女もギルドの職員だ。何かしら事情は知っていそうだけど、全部は分からなさそう。
「あの人も以前はそんなうわさが立つような人ではなかったんですよ。確かにランクの低い冒険者に対しての仕打ちの話はギルド内でも広がっています。でも、あの人が実際にやったというわけではないんです」
「どういうこと?」
「被害に遭った冒険者は実際にガリウスさん本人にやられたわけではないんです。ガリウスからの指示でやったという者たちに、手を下されているのです」
つまり、ガリウスの名を語り低ランクの冒険者を陥れているが、それが本当にガリウスからの指示だったか確認していない。そういうことだ。
「本人は何か言ってないの?」
「なにも。元々言葉より行動で示す人ですから」
声はあきれていたが、その表情は優しいものだった。
「ところで、今日はキール君はいないんですね」
ユキノちゃんが周りを見渡しながら言う。確かにまだ彼の姿を見ていない。ランクもBじゃなかったから向こうの異界化クエストに交じってることもないはずだ。
もし交じってたらあのモヒカン頭が騒ぎそうだし。
「え? 朝早く出て行ったので、てっきりお二人とまたクエストに行くものかと……」
…………おや?
薬草採取のクエストで訪れた森の奥。
キールは赤い鎧に身を包んだ冒険者を追っていた。
本来であれば一人で追跡していい相手ではない。見つかって戦闘にでもなったらまず敵わないからだ。
だが今追っている男はそんな危険を冒してまで追わなければならない。
赤い鎧の男が森の奥の洞窟に入っていく。討伐クエストをこなしてきてある程度森の中を探索し終えていたつもりだったが、キールにとってあの洞窟は初めて見るものだった。
「この奥で、何をしてるんだ……」
赤い鎧の男を追って、キールも奥へと進む。
中はさほど入り組んだ構造もしておらず一本道が続いていた。
やがて光が見え、キールは広い空間にたどり着く。
「なんだよ……これ」
祭殿。その単語が頭の中に浮かんだ。まるでなにかを奉っているかのような作りをした石像が何体もおかれている。
そして奥には石でできた柄に刺さった一本の剣。
「あれは……」
キールは間近で見ようと剣に近づく。もしかしたらすごい力を持った魔剣かもしれない。あの剣を手にすれば、強くなれるかも。
そんな願望が少しだけ心の中に湧き出る。
それだけで十分だった。
「ということは、キール君一人で森に行っちゃったってことですか!?」
「そうなるね」
なにが目的で一人で森に行ったのかはわからないけど、今単独行動は危険すぎる。
Eランクの冒険者が討伐できるほど、異界化した場所の魔物は弱くない。むしろCランク、Bランクでも単独ではきついところだ。
「あの連中に協力を……って雰囲気でもないか」
ギルド中央ではガリウスたちが戻り、いよいよ異界化した森に出発するところだ。
こうなってしまってはやむ負えない。
「ユキノちゃん、異界化探索のクエストに参加してきてくれる? あの連中と混ざったほうがキール君を見つけやすいと思うんだ」
「それはいいですけど、リタさんは?」
「私は別で動くよ。一つ気になる場所があるからそこに行くつもり」
「だったらわたしも一緒に!」
そういったユキノちゃんを私は手で制す。
「二手に分かれたほうが見つけやすいでしょ。大丈夫、そう何度もヘマはしないよ」
それに、と私は付け加えた。
「先輩冒険者として、そろそろいいところ見せないとね」