教育係とモヒカン頭
薬草採取クエストを終えた翌朝、私とユキノちゃんはギルドに向かっていた。
キール君にクエスト報酬を渡さなきゃだし何より、余計な心配をかけてしまったことを謝りたい。
ユキノちゃんは昨日とは打って変わってご機嫌だった。気持ちを吐き出したおかげでスッキリしたらしい。その精神力は見習わなければ。
「にしても来訪者の情報ぜんぜん集まらないですねー」
「まぁギルドマスターが不在だからね。ギルドの職員も知らないみたいだし、地道に探すしかないかな」
そう。このセカンドに来てから来訪者の情報が全くつかめていないのだ。ギルドの職員もギルドマスターからなにも知らされておらず進展なし。
そもそも情報を流したギルドマスターが不在なのが、どうにもきな臭さを漂わせていた。
「早く帰ってきてくれればいいですね、セカンドのギルドマスター」
「そうだね…………うん?」
私たちの進行方向に人だかりができていた。その一人一人がギルドの入り口からがどんどん中へ入っていく。装備品も上等な物を身に着けていることから、おそらく彼らがこのギルドの高ランク冒険者に違いない。
ここ数日全然姿を見なかったのに、今日に限ってぞろぞろと集まったのはなんでだろう。
列の一番後ろに並び、私たちもギルドの中へ入った。
「セカンドの冒険者諸君!」
ギルドに入るなり、大声で誰かがしゃべっている。
「諸君らの捜索の甲斐あって、昨日ついに異界化した場所を見つけることができた」
「異界化?」
ユキノちゃんが首をかしげる。当然の反応だ。異界化という単語が出回ったこと自体数か月前の事であり、冒険者にとってもなじみが浅い。
異界化が絡むクエストは、高位ランクの冒険者しか行うことが出来ず、低ランクの冒険者はそもそもクエストボードの性質上見ることができないからだ。
「魔物が活性化している周辺に、元から高レベルの魔物が住み着いて周りの危険度を上げてしまうことだよ。まさかセカンドで起きているとはね」
異界化については私もあまり詳しくはない。新米冒険者の面倒を見ていた私に危険が及ばないようにと、プレミアが教えてくれたのだ。
もちろん今までオリジンでの異界化は確認できていない。せいぜい低レベルの魔物が活性化したくらいだ。だが今にして思えば、この間のグリンドラゴンの一件は異界化がらみの事だったのかもしれない。
「今回異界化した場所は、この付近の森の奥にある洞窟である。そして勇敢にもその場所を見つけられた冒険者がこの方だ!」
男性が後ろを向き、手で案内する。
赤い鎧に身を包んだ強面の男性。背には大剣を装備し、その佇まいはまるで歴戦の王者のように堂々としていた。
「あれ? あの人は…………」
真紅の鎧に身を包んだ赤髪の男性。私は昨日彼に会っている。
「みんなも知っていよう。この冒険者ギルドで一番の実力者である、『赤獅子』ガリウス・ライオネットだ!」
「あの人が!」
「ガリレ……じゃなかった、ガリウス!」
この街に入る前、門番が話していた低ランクの冒険者をよく思っていない冒険者。
なるほど。ただの冒険者じゃないだろうって予想はしてたけど、まさかギルド一の実力者とは。そりゃあそんな人物が低ランクのことを迫害してちゃ、誰も文句は言えないよ。
冒険者の力関係は今のところランクで決まっている。もちろんあまりに横暴なことを高ランク冒険者が行えばギルドから制裁が来るけど、基本的にギルドは関せずだ。だって冒険者って荒くれ者が多いからね。いちいち取り締まってたらきりがない。
それを考えたらオリジンのギルドはよくやっているほうだ。プレミアが管理統治しているだけのことはある。
ガリウスが前にでた。そして集まった冒険者たちを見渡し背中の大剣を抜く。
「今回集まったのはCランクからBランクの猛者たちだ。普段魔物と対峙している勇敢な戦士たちだ」
すみません。Dランクがこんなところにいてすみません。
「この街の付近が異界化した。いつも相手にしている魔物とはけた違いの魔物が出現している。ならばどうするべきか」
ガリウスが大剣の切っ先で地面をたたく。
「答えは一つ! 戦え! 俺たちの領地に侵入してきた不届きな奴らを、一匹残らず殲滅するのだ!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」
ギルド内が歓声にあふれる。まるで勇者の演説だ。聞いていた噂とだいぶ違う。
もっと野蛮でいけ好かない男かと思っていたけど、統率力もあるし何より冒険者から慕われていた。こんな男が低ランクの冒険者を迫害なんてするのだろうかと、疑問が生まれる。
「あん? ねーちゃんたち見慣れない顔だな。どっから来たんだ」
ふと、近くにいた冒険者が声をかけてきた。この頭の一定部分だけ髪を残しそれ以外は刈ってしまう髪型はなんと言っただろう。前にプレミアが教えてくれたが思い出せない。
「私たちはオリジンから来たんだ」
「ほーう。冒険者ランクはどのくらいだ?」
「この子はBで、私は……Dだよ」
「Dだって!?」
その瞬間、ガリウスの方を向いていた冒険者が一斉にこっちを向いた。ユニークな頭の男が続ける。
「このクエストを受けられんのはCランクからだ! 低ランクの冒険者は家にでも帰って大人しくしてんだな!」
「ちょっと! そんな言い方ないでしょ!」
隣にいたユキノちゃんが反発する。まぁ異界化のクエストを受けに来たわけじゃないんだけど、今の言い方には少しイラっときた。
「お嬢ちゃんはBランクだからまだしも、こっちのねーちゃんは実力が伴ってねーんだよ!」
「なんですって……!」
ボウっとユキノちゃんの右手に炎が宿る。い、いかん。このままじゃここで火災が起こってしまう!
「いいよユキノちゃんっ。いこいこ」
私はユキノちゃんの手を引っ張って奥の席に向かっていった。どうせもうすぐ出発だろう。今はやり過ごして、あの連中が去ったら情報収集を始めますか。
私たちが離れると冒険者たちの視線は再びガリウスに戻っていく。
「なんなんですかあのモヒカン頭! 世紀末みたいな恰好して。リタさんが止めなければ焦がしてやったのに!」
ドカッと乱暴に椅子に座るユキノちゃん。めちゃくちゃいら立っているユキノちゃんとは裏腹に、私は先ほどの疑問を解決できてすっきりしていた。
「あ、そうか。『モヒカン』か」