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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第二章
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教育係と反省

 セカンドから少し離れた森の中。


 デリルの森ほどではないが薬草や魔物が存在する、いわばこのあたりの採取ポイントに私たちはいた。


 依頼内容は薬草の補充。


 最近活性化してきた魔物との戦闘で回復薬の在庫が少なくなってきておりクエストを出したのだが、例のガリウスとかいう冒険者のせいで低ランクの冒険者がクエストを行えないんだとか。


 高ランクの冒険者は活性化した魔物の討伐でそこまで手が回らず、管理者であるギルドマスターは現在不在中。


 セカンドの冒険者ギルドの現状は思ったより悪い。


「どうしたんですか? リタさん怖い顔してますよ?」


 ふとユキノちゃんが私の顔を覗き込んできた。


「あーごめんごめん。ちょっと考え事してて」


 一介の冒険者が口出しできる問題ではない。それこそギルドマスターなら他の街のギルドに何かしら処置できる権限を持っているのかもしれないが。プレミアへの報告内容に加えておこう。


「それよりユキノちゃん、薬草は集まった?」


「はい。見てくださいよ、こんなに採れました」


 そう言ってユキノちゃんは持っていた袋を私に見せる。袋はすでにパンパンで中には薬草がぎっしりと入っていた。これならユキノちゃんの分は問題ない。


「すごいじゃないユキノちゃん。もう集め終わったの」


「実はキール君に採取ポイントを教えてもらったんですよ。そしたらいっぱい生えてて採り放題でした!」


「うん?」


 ということは、キール君は初めから薬草の採取ポイントを知っていた?


 私は向こうで薬草の採取にいそしんでいるキール君の方へ向かう。


「キール君ちょっといいかな」


「はい? 何ですか?」


 キール君の袋もすでに薬草がぎっしり入っていた。さすが採取ポイントを知っているだけのことはある。


「えっと、ここら辺に薬草があること知ってたの?」


「はい。と言っても、僕も教えてもらったんですけどね。セカンドの冒険者たちの間じゃ常識みたいなものなんだそうです」


 なるほどー。さすがは現地民、常識と来たか。これじゃあ私の『薬草の採取の仕方をレクチャーし冒険者としての考え改め計画』が台無しだよ! 長いよ!


 まあユキノちゃんのときとは勝手が違う。片やこの世界のことを何にも知らない来訪者。片や駆け出しだけど討伐クエストを何度もこなしている現地民の冒険者。冒険者としての常識の範囲が違うのは当たり前だ。


(ちょっとうぬぼれたかな、反省)


 今まで数多くの新米冒険者の手助けをしてきたので、今回もついその感覚で対応してしまった。


 相手の力量も聞かずに知らないできないと決めつけ、あげく教えてあげようだなんて。


 なんて恥ずかしいんだろう。


「あれ、リタさんまだ薬草集められてないんですか?」


「グハッ!」


 キール君の言葉が矢となって私の体を貫く。

 やめて! 今の私にその言葉は効く!


「すみません。ここの薬草僕とユキノさんで採り尽くしてしまって」


「あ……あー気にしないで。大丈夫大丈夫。私別の場所探してくるから」


「あっ、でもこの先は」


 キール君が何か言う前に、わたしはユキノちゃんの元へ戻り、


「ユキノちゃん! 私奥まで行ってくるからキール君とおやつのバナナ食べて先に戻ってて!」


「ふえ? リ、リタさん!?」


 キール君を任せ、全速力でその場を後にした。


 かっこ悪いなぁ、私…………。

























「はやく集めなきゃ」


 ユキノちゃん、キール君と別行動をとった私は森の奥まで来ていた。


 歩いている途中薬草の採取ポイントはいくつか見つけたが、どこも採られたあとみたいで残っていない。


 このままだと私のせいでクエスト失敗になってしまう。それだけは絶対に避けないと。


「しかし薬草もないけど、魔物にも遭遇しないわね」


 そう。薬草を探しかなり奥まで来ているが、これまで一回も魔物に遭遇していない。


 活性化している魔物は高ランク冒険者が討伐していると聞いてはいるが、ここまで遭遇しないと逆に不気味だ。


「低級の魔物も狩ってるのかな」


 もしかしたら低級の魔物がこぞって中級、上級の魔物に進化しているのかもしれない。そうなると、魔物が狩りつくされていると説明がつく。


 だがもし別の理由があるならそれは―――――――――――。


「そこで何をしている」


 突如後ろから低く野太い声を掛けられ私は反射的に振り向いた。


 そこにいたのは赤い鎧に身を包んだ赤髪の大男。手には大剣を持ち鋭い眼光をこちらに向けている。


 敵意を隠す気もないその男はこの街の冒険者だろうか。

 はたまた通りがかりの剣士?


 なんにせよ悪い状況に変わりはない。


「あの、私薬草を探してて」


「動くな」


 赤髪の男が大剣を構える。どうやら問答無用のようだ。完全に敵としてみなされている。


 冗談じゃない。見た感じ完全に格上だ。戦って勝てる相手じゃない。

 逃げようにもスキがなく、どうしようもなかった。


「キシャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


 突如静寂だった森に奇声が響き渡り、それが魔物の叫び声だと頭が理解するのに数秒掛かった。


 数秒遅れただけで命を落とした冒険者を、私は何人も知っている。今から体制を整えようが到底間に合わない。これで私も仲間入りだ。


「ズアアッ!!」


 赤髪の男の大剣が魔物めがけて振り下ろされる。魔物は私を喰らう前に真っ二つに割れ、体液を巻き散らかし絶命した。


「ふう。怪我無いか」


 同じ低い声だが、そこに先ほどの圧はない。この赤髪の男の殺気は私にでなく、私の背後に潜んでいた魔物に向けられていたのだ。


「え、あの……なんとか」


「そうか。薬草なら奥に採取ポイントがあるからそこへ行け。ここら辺は危険だからあんまりウロウロするなよ」


 そういうと赤髪の男は私に背を向け歩き始める。


「あ、あの! ありがとう。助けてくれて」


 赤髪の男は振り返らず、右手を挙げてそのまま森の奥に消えていった。

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