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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第二章
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教育係と慣れない態度

「先ほどは失礼しました。私はこのギルドの衛生士をしていますロール・ケットです。これは弟のキール」


「初めまして、キール・ケットです」


「ご丁寧にどうも。私はリタ・フレイバー。こっちはユキノ・カンザキ。オリジンから来ました」


「よろしくです」


 ギルド内の飲食スペースに座り軽い挨拶を済ます。


 ロールさんは長い金髪を後ろで束ねていて、白衣姿がとても似合う美人さんだ。オリジンの衛生士にはいないタイプである。一方のキール君は年齢の割に落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


「オリジンからですか。それは長旅だったでしょう。ここへは観光ですか?」


「いえ、ここのギルドマスターに用があったんですけどちょうど留守だったみたいで」


 タイミングの悪いのはいつものことだ。こういったのは今回に限ってではない。


 クエスト受注しようとしたら目の前で期限切れになったり、クリアの報告をしに行ったら依頼主が旅行に出かけてしまったりと、ほかにも色々あった。


「せっかく来たのに帰るのはどうかと思ったので、こちらにあるクエストを受注しようかと」


「まあ。お二人は冒険者の方でしたのね」


「ええ。クエストボードを確認しようとしたら、キール君が先に見ていたので」


 私の言葉にキール君は横を向いてしまう。

 ありゃ、なんか避けられちゃってるかな?


「この子も冒険者なんです。つい先月登録したばかりで、今ランクはEです」


「一か月でFからEに? すごいですね」


 私なんて半年かかった。


 だがロールさんの顔つきからして、弟自慢をしているわけではなさそうだ。

 先ほどのボード前でのやり取りも気になる。


 他人の事情に踏み入るのはと思ったが、私は思い切って聞いてみることにした。


「えっと、キール君。さっき三回目とか言ってたけど、いつもどのくらいクエストをこなしてるの?」


「一日二回から三回です。主に討伐クエストを中心に受注してます」


「それを一人で?」


「……ほかの冒険者はみんな高ランククエストに行ってるので」


 どうやらここのギルドは低ランク冒険者に対してはあまり補助をしていないらしい。


 それともガリウスとやらの影響でしたくてもできないのだろうか。


 どっちにしろあまりよくない現状であることは間違いない。


「事情は分かったよ。でもそんなペースでクエストをこなしていたら体を壊しちゃうよ。さっきもフラフラだったし」


「わかってます。でも、ランクを上げるにはそうするしかないんです」


 そう言ったキール君の顔は複雑な表情を浮かべていた。


 この子はちゃんと自分の行動が良くないことだと理解している。でも手段は選んでいられない。

 きっと相談できる冒険者がいなかったのだろう。


「キール! もう危ないことはやめなさい! これ以上心配かけないで……」


「ロールお姉ちゃん……。ごめん、でもランクをあげるにはこうするしかないんだ」


 冒険者家業は一人ではできない。必ずギルドや冒険者仲間に頼る場面が訪れる。

 どんなにランクが上がろうがそこだけは変わらないものだ。


 たとえ、所属ギルドが違おうともそこだけは変わらない。


「キール君」


 口論していた二人が私の方を向く。


「事情は分からないけど、きみはランクをとにかく上げたいわけだ。そうだね?」


「はい。なんとしてでもランクを上げなきゃいけないんです」


「でも私が見るに、キール君はまだ冒険者としては半人前だ。自分の引き際も見誤ってる。それじゃあランクアップの前に命を落とすよ」


 少し厳しい言い方だが事実だ。このままの調子でキール君がクエストを受注し続けるといずれ確実に命を落とす。


 そうなる前に彼の考えを改めさせなければいけない。


 それが教育係である私の役目だ。


「明日私とユキノちゃんのクエストについて来るといいよ。そこで色々と教えてあげる」


「待ってください! キールに危ないことは」


「大丈夫ですよロールさん。明日わたしとリタさんが行うクエストは討伐クエストじゃありませんから」


 怪訝な顔をする二人に、ユキノちゃんは笑顔で答えた。


「明日行うクエストは薬草の採取。戦闘は一切ないから安全です」


「さ、採取クエストですか? そんなクエストやるんだったら人数も多いし討伐系のクエストを」


 キール君の言葉を遮るように、私は勢いよく席を立った。


「それじゃキール君、また明日」


「わわっ、リタさん待ってくださいよー!」


 あっけにとられているロールさんとキール君を放置し私はギルドの外へ出る。

 ユキノちゃんも遅れて中から出てきた。


「リタさんにしては強引なやり方でしたね」


「やっぱり? ちょっとやり過ぎたかな……」


 いくら必要なこととはいえやっぱり強引だっただろうか。

 だってしょうがないじゃない、あんな小さな子が冒険者だなんて。


 周りに正してくれる冒険者がいなければ、あの子はずっとあのままだ。

 今のうちに考えをなおさせる為にもあの厳しい態度は必須である……はず。


「やっぱり、なれないことはするもんじゃないねぇ」


「あははは……」


 せめて明日のクエストで色々と教えてあげよう。


 宿屋に向かう最中、私はそう誓った。

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