教育係と金髪の少年
「ここかな」
プレミアに渡された地図を頼りに街を歩き、ようやく私たちはセカンドの冒険者ギルドにたどり着いた。
「やっと着きましたねリタさん」
「ええ。あの不良ギルマス、手書きの地図にしてももう少しマシに書いときなさいっての……」
門をくぐってから開けるようにと言われ渡された地図には、プレミア独自の解釈で書かれた道の名前や建物が書かれていた。
右斜め下に書かれた『楽しんでね』という文字を見るたびに非常にイラ立つ。
「この件は戻ってからにして……とりあえず入ろうか」
扉を開けて、私は建物の中に入った。
オリジンのようにそこかしこに冒険者がいる、わけでなく中は静まり返っている。
何人か椅子に座ってはいるが、オリジンの冒険者のように酒を飲んでいる様子もなくなんというか活気がない。
「なんでしょうこの空気。オリジンとは真逆ですね」
「うん。静かだね。とても冒険者が集まるギルドとは思えないな」
いったいどういうことなんだろう。ボードにはちゃんとクエストがいくつか残っている。
にもかかわらず、この静まり様はいささか疑問だ。
その理由はここのギルドマスターに聞くとしよう。ちょうど今回の来訪者のあるからね。
私はユキノちゃんを連れて受付へ向かった。
「すみません。オリジンから来た者なんですけど」
「はい。どのようなご用件でしょうか」
「ここのギルドマスターに用がありまして。オリジンギルドマスターのプレミアからの紹介状を預かっています」
プレミアから預かった手紙を渡す。
受付のお姉さんは中身を確認すると、申し訳なく頭を下げた。
「申し訳ございません。ただいまギルドマスターは別の街に向かい不在中でして……」
「あれ、そうなんですか」
これは困った。ギルドマスターが不在ではどの人が来訪者なのか見当がつかない。
いるかどうか調査してこいだなんて言われたけど、いきなりこれじゃ前途多難だ。
「申し訳ございません。お戻りもいつになるか全く告げずに行かれましたので」
「それは……大変ですね」
「ええ、まったくです……」
お姉さんがため息を漏らす。どうやらここのギルドマスターもウチのと負けず劣らずらしい。
何もせずに待っているのも時間がもったいないので、私はここのクエストを受けることにした。
ボードにはFランクやEランクのクエストが山ほど乗っている。
普通こういったクエストはあまり残らないはずなのだが、どういうわけか手つかずになっていた。
「あの、ランクの低いクエストがずいぶん残ってますけどこれは」
「はい。実は……」
お姉さんが言うには、高ランクの冒険者が多く存在するこのギルドでは低ランクのクエストは受注されず残ってしまっているという。
確かに高ランクの冒険者が低ランクのクエストを率先してやる義務はない。むしろそんなことをしてしまえば、まだ低ランクのクエストしか受けられない冒険者の首を絞めてしまう。
「冒険者登録をされる方はいらっしゃいますがほとんどがCランク認定される戦闘慣れしている方でして。それでもFランク認定の方も時々いらっしゃるのですが……」
「あーなるほど」
大体わかってしまった。現状なぜこんな事態に陥っているのか、その理由。
「リタさん、それって例のガリウスって人のせいですよね」
「確証はないけどね」
受付のお姉さんがうつむく。
ギルド職員はギルドに所属している冒険者に助けられているところがあり、無下にはできないのだ。
そのためにギルドマスターがいるのだけれど、それもいなければ意味がない。
「そのガリウスって人が自分よりランクの低い冒険者に嫌がらせしてるの?」
「いえその、直接彼がしているわけではないのですが、彼の取り巻きが動いているようで。うわさでは彼からの指示だという声も出ています」
「決定的ではないけど黒いうわさはある、か」
冒険者には様々な情報や根も葉もないうわさが付きまとう。私がオリジンで一定の冒険者に蔑まされていたように、もしかしたら今回もなにかあるのかもしれない。
「一応気を付けるか」
私は受付のお姉さんに手を振りクエストボードへ向かう。
せっかくセカンドのギルドに来たんだ。なにか受注して経験値を上げとこう。
それに、この前のデリルの森でのフィールドワークはグリンドラゴンに潰されちゃったしちょうどいい機会だ。
「うん?」
どんなクエストがあったか確かめにボードの方へ行くと先客がいた。
さっきまでギルド内にいなかった金髪の少年。見た目からしてユキノちゃんより年下っぽい。
得物は背中に担いでいる長細い剣だろうか。
「キール!」
突如ギルド内を歩いていた白衣のお姉さんが金髪の少年に駆け寄る。オリジンにもあの服装の衛生士がいたことから、このギルドの衛生士だろうか。
白衣のお姉さんは両手で少年の肩をつかみ、あわただしく体中を見まわし始める。
「怪我はどこもない!? 大丈夫なの!?」
「大丈夫だよロールお姉ちゃん。ただレッドスライムを何体か倒しただけ。けがなんてしてないよ」
キールと呼ばれた少年はそう言って白衣姿のお姉さん、ロールさんの手を優しくつかみ自身の肩から離した。
「そんなことより早く次のクエストを受注したいんだけど」
「もう、また行くの? これで今日三回目よ? 少し休みなさい!」
「大丈夫だって。いいから早く――――」
そう言ったキール君がふらつき後ろに倒れ、
「おっと」
ちょうど私に寄りかかった。
「あっ、ごめんなさい」
「いやいいよ。それよりも」
「あいたっ」
私はキール君の頭を軽く小突く。
「自分の体のことも考えないと。勇敢と無謀は違うよ」
「そ、それはそうです……け、ど」
何か言いたそうだったが、そのままキール君はうつむいて黙ってしまう。
どうやらこの後のフィールドワークの参加者が一人増えそうだ。