教育係とランクBパーティー
お待たせしました。
投下します。
イースターとリヴァイアを繋ぐ海域に巨大な魔物が現れたのはつい最近のことだとレビルさんは続ける。
「現在イースターから外に行く船はすべて運休となっています。そのせいで貿易にも影響が出てきまして。外からの輸入を頼っていた品々の値段が何倍にもなっているんです」
「ポーションの値段が十倍だかになっていたのはそれも理由だったのね」
それも、と言ったのには理由がある。ポーションを外からの輸入で賄っているのであれば多少の値上がりは仕方ないことだろう。問題は値上がりが多少ではないことだ。レビルさんも気づいたのか顔を伏せる。
「ポーションだけでなく、武器類や食料品、生活用品といったものまで、本来ならあり得ない値段で販売せざるを得ないんです」
「ここに来る途中、商人の馬車に乗せてもらったんだけどそんなこと言ってなかったよ?」
ここまで乗せてくれた商人のおじさんはそんなことは一言も言っていなかった。知っていたのであれば教えてくれてもよかったのにと頭をよぎったが、おそらく言いたくても言えなかったのだろう。
現状のイースターにとって、外からくる冒険者は生命線だ。何としてでもイースターの中に案内したい。しかし都市内での物価が上がっているなんて言ったら目的地を変更されてしまう恐れがある。それだけは避けたいところだ。
「まぁせっかく見つけた客を逃したくない気持ちはわかるけどね」
「……その商人に代わりましてお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした」
「いいっていいて。レビルさんが悪いわけじゃないんだしさ」
頭を下げるレビルさんを見て、私はあわてて話を変えた。
「ところでその海魔のことなんだけど、ほかの冒険者はどうしてるの? 高ランクの冒険者がいれば対処できると思うけど」
「リタさんの言う通り、高ランクの冒険者へ討伐依頼は投げています。ですがイースターは元々ランクCまでの冒険者しか常駐しておらず、高ランクの冒険者も現在王都に集められているようでして」
「王都? なんでまたそんなところに」
「私も詳しくは。ただ、主要ギルドのギルドマスターにも召集が掛かっているとか」
「へぇ、それはただ事じゃなさそうだね」
ギルドマスターと高ランクの冒険者が一堂に集まるなんてなかなか聞かない話だ。高ランク冒険者だと『白の剣聖』シルヴィア・アロンハートや『凄女』セリスティア・ロードベルグといったランクSの冒険者はもちろん、ランクAの冒険者にも召集が掛かっているだろう。
「そのこともあって、現在討伐依頼を出せるの冒険者のランクはBが最大なんです」
「話を聞く限り、Bだとちょっと心もとないか」
冒険者のランク序列でBは決して低くない。常人がたどり着ける到達点とも呼ばれ、他の冒険者からも実力を認められ、隊を組めば小さな竜種とも渡り合える存在だ。
だがそれは常識の範囲内の話。
船を沈没させるほど巨大な海魔相手では戦うのはまず無理だ。挑んでもギルドの行方不明リストに名前が載るだけ。
つまり、今現在イースターに海魔に対しての迎撃手段はない。
「各ギルドを通じて冒険者を募っては見ましたが、なかなか受注してくれる方は現れず……」
「うーん、ランクAもSもいないんじゃちょっと厳しいかもねぇ」
「ですが、一組だけ受注してくれたランクBの冒険者パーティーがいるんです」
レビルさんは目を輝かせながら資料を探す。この海魔討伐を受注する命知らずのパーティーがいるとは思わなかった。パーティーってことは少人数だよね。しかも一組。
「レビルさん、さすがに一組じゃ海魔に太刀打ちできないんじゃ」
「普段は誰が受注したかは見せられないんですけど、本件は後ほど緊急クエストとして掲示板に張ります。そしてこちらが、海魔討伐を受注してくださった冒険者パーティーです」
受け取った資料には海魔の形や大きさ、その下には受注したパーティー名が記載されている。
「パーティー名は『勇猛なる炎』。聞いたことない名前だ」
炎の名がついていることから、火力重視な印象を植え付けられる。砲台型の魔法使いでもいるのだろうか。それか炎属性の剣士を揃えたパーティーの可能性もある。前者ならまだ何とかなりそうだが後者だった場合戦闘は厳しいだろう。なんたって相手は海の中から襲い掛かってくるのだ。剣士じゃ最悪間合いに入れず海魔の餌食となってしまうだろう。
勇猛なる炎。その下にはパーティーメンバーの名前が記載されている。そして一番上に書かれている名前の前には、実力のある冒険者に付けられる二つ名が記されていた。
「へーランクBで二つ名持ちとは有望だね。『竜殺し』ユキノ・コウズキ…………ユキノ・コウズキ……って、ユキノちゃん!?」
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