エピローグ
投下します。
よろしくお願いします。
ヴァレスタ城門前。ここも魔族襲撃の影響であちこち崩れている。
来たときは通行料に金貨十枚を求められたのが今となっては懐かしい。ぜひともイザークさんには改善を頑張ってもらいたいところだ。
「まさかこのまま黙って行っちゃうつもり?」
後ろからふいに声を掛けられる。振り返ると、レクトがむっとした顔で歩いてきていた。
「いやぁ。会えればよかったんだけどタイミングがね。それにレクトも忙しそうだったしさ」
騎士団の手伝いを一生懸命にしているレクトを見ているうちに、ついに声をかけるタイミングをなくしてしまい、その後数日会えずじまいだった。
「そういえばイザークさんから聞いたよ。第三騎士団に入ったんだって?」
「うん。ロイさんとヴェルグ卿にお願いして、見習いにしてもらったんだ」
レクトは両手を握り力強く言葉を続ける。
「今の僕じゃ聖徒にはなれない。聖女様に恩返しするためにも、まずは力をつけようと思って」
「そっか。いいと思うよ。二人とも力になってくれると思うし。そうだよね、ヴェルグ卿」
私の呼びかけに、瓦礫の影から覗いていたヴェルグ卿がゆっくりと出てきた。アリスの聖属性魔法で貫通した腹の傷が回復したとはいえまだ安静にしていないといけないはず。
患者衣に騎士団のコートを羽織ったヴェルグ卿は息を吐いてレクトの横に立った。
「邪魔するつもりはなかったんだがな」
「邪魔だなんて思ってないよ。見送りにきてくれたの?」
「ああ。先ほどイザークに会った際に聞いてな。黙って出ていくとはどういうことだ」
「そうだよリタさん。水臭いよ」
「いやーははは……」
二人の追及に笑ってごまかす。確かに一言言ってから出ればよかったかなと後悔した。
街の復興作業で忙しくする人たちを見て私の旅立ちなんかにつき合わせるのもどうかと思い、それだったら静かに出発しようと思ったのだ。
「で、でもウォーロックさんには言ったよ? みんなにも伝えといてねって」
「それはたまたまウォーロックに会ったからでお前から言いに行ったわけではあるまい」
「うっ! さすがヴェルグ卿、鋭いですなぁ……」
ヴェルグ卿は大きくため息を吐いた。
「いいかフレイバー。お前は聖女様たちと一緒にロズウェルからヴァレスタを救った英雄なんだぞ」
「英雄だなんて大げさな。とどめを刺したのはセリスだし、私は何もしてないよ」
捕まって拷問を受けたり、鉢合わせた魔物と戦ったり、セリスの手伝いをしたり。特筆的なことはしていなかった。
だからアリスが聖徒認定するのも断ったし、セリスが冒険者ランクを上げるようかけあうと言った時には猛反対した。気持ちはうれしかったけど、そういう特別扱いはしてほしくない。私は普通の冒険者なんだから。
「わかった。お前がそういうのであれば、もう何も言わん」
ヴェルグ卿は首を横に振り、右手を差し出す。
「色々と世話になったな。また訪れるといい、その時は街を上げて歓迎しよう」
「お手柔らかにね。レクトのこと、よろしく頼んだよ」
「ああ承った。達者でな」
手を放し、今度はレクトの方へ向き直る。
「思えば僕が財布を盗んだのが始まりだったね」
「またこめかみグリグリの刑する?」
「いえ結構です」
敬語で首をブンブン振るレクト。よっぽど痛かったのか両手でこめかみをガードしている。
「リタさん。また会おうね。次会う時までに見習いは卒業するから」
「おっ、その意気だよレクト。でも無理しすぎないようにね」
差し出した手を握り合い、お互いに手を放す。
そして、ヴァレスタの敷地から一歩外に出た。
「じゃあね! また来るから!」
「リタさん元気で! 絶対にまた会いましょう!」
その姿が見えなくなるまで手を振り、私はヴァレスタを後にした。
次に目指す場所は特に決まっていない。この道の先にどんな出会いが待っているのか、今から楽しみだ。
「とりあえず、まずは今日の宿を探さないと…………」
長かった第四章。エピローグとありますが次で終わりです。
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