教育係とその後のヴァレスタ
投下します。第四章そろそろ終わります。
よろしくお願いします。
セリスがロズウェルを倒してからの数日間、ヴァレスタにいる人たちは大忙しだった。
魔物の残党を狩りつくし、住民の怪我の手当てをし、支部や街の瓦礫撤去に丸四日かかり、大神官を失ったことでパニック状態だった支部をまとめたのはアリス。それとロイだった。
ヴェルグ卿も復興作業に出ると息巻いていたけど、第三騎士団のみんなとアリスに全力で止められ、今は静かに療養中。ウォーロックさんやほかの人とも一緒の病室みたいだから、見張りの意味で安心だ。
セリスは今回のことを教皇に報告するために一足早くヴァレスタを出た。残党狩りをしたばかりだというのに元気なことで。道中シルヴィアに会ったらよろしく伝えとくと言ってくれた。
アリスは旅の最中だったみたいで、セリスとは反対の方へと向かう。別れ際レクト君と何か話していたみたいだけど、耳打ちだったのでよく聞こえなかった。顔を真っ赤にしたレクト君に何を言われたのか聞いてみたけど何も教えてくれない。気になるけど、これ以上聞いたら口を聞いてくれなくなりそうだから止めておこう。
ラナさんにも会えてよかった。あの部屋から出て一度も会えなかったから心配してたんだけど無事で何より。なぜかめちゃくちゃ謝られたんだけど、お互い無事だったからよかった。
聖女一行がヴァレスタを去り、その後も復興作業などがあってさらに数日。私はヴァレスタの聖教会支部だった建物の周りをうろうろしている。まだ瓦礫は多いけど街もすっかり活気を取り戻して、早いところはもう商売を始めている。もちろんあの饅頭屋も。
実はもう少し病室で寝てるように言われているんだけど、体の傷も随分良くなったし、何より見ておきたかったのだ。この場所で起こったことを。
「おや。お体の具合は、もういいんですか?」
ふいに声を掛けられ振り返ると、ローブに身を包んだ知ってる顔がこちらに歩いてきた。
「イザークさん。いえ失礼しました、イザーク大神官殿」
「よしてください。仮ですよ」
ヴァレスタ内部の聖職者のほとんどがロズウェルに与していたことにより大半の役職持ちが失脚した。そのせいで支部の人員が不足し、何よりヴァレスタをまとめる顔役を早急に決める必要がある。そこで白羽の矢が立ったのがイザークさんだった。聖女の名のもとイザークさんを大神官にし、ヴァレスタをまとめてもらおうと。
当の本人は初めは渋っていたけど、残ったヴァレスタの支部員、聖職者、聖徒、そして何よりヴェルグ卿の支持もあり、最後は折れるようにその役目を拝命した。
「いずれふさわしい方がここを治めるでしょう。私はそれまでのつなぎ役として復興に力を入れるつもりです」
そう言っているが、街の人からもなじみのある人だ。歓迎されることはきっと間違いない。
「とりあえず、通行料は安くしないとね。金貨十枚はやっぱり高いと思うよ」
「そうですね。そういったところも、これから考えていかなければ」
ヴァレスタに来た時のことを思い出し、顔を見合わせて二人で笑う。
「ところでリタさん、レクト君には会いましたか?」
「え? あーそういえばここ数日あってないけど……」
レクト君に最後に会ったのは仮設の治療室だ。アリスの聖属性魔法で体の傷を消してもらって、そのあとヒールを掛けてもらいに行った先にレクト君がいた。騎士団の人たちがしている配給を手伝っていたところを見たのが最後。それ以降どこを探しても会えず仕舞いだったのだ。
「実はですね、レクト君は騎士団の見習いに志願したようでして」
「騎士団? 聖徒じゃなくて?」
レクト君がここに来たのは聖徒になり、ゆくゆくは聖職者になるためだったはずだ。聖徒の試験は確かに落ちたけど、どういう心境の変化だろう。
「正直なところ、今のレクト君では聖徒になるのは実力不足です。ですが騎士団の見習いであれば入れます。長い目での判断でしょう」
今のままでは聖徒にはなれない。だが騎士団見習いとして経験を積むことで、一歩ずつ聖徒へ近づく。そういう道を選んだのだ。
「へぇ。かっこいいじゃん」
「ええ。ヴェルグ卿も顔には出していませんでしたが内心は喜んでいるでしょう。何しろ誘ったのはヴェルグ卿ですから」
「ちょっと待って。見習いとして入るのってもしかして第三騎士団?」
「そうですが、なにか?」
「い、いやなんでも」
これからレクト君は大変そうだ。
「もう、行かれるんですか?」
「へ?」
「旅の途中だったんでしょう?」
回復魔法を習得したいがために近くの町へ寄る。リースに寄ったのはそんな軽い理由だった。まさか聖教会のごたごたに巻き込まれるだなんて予想できないよ。
目的の回復魔法習得は達成した。もうここにとどまる理由はない。
「イザーク大神官、こちらにおられましたか」
「今後の支部の運営についての会議のお時間です。さっ、こちらに」
ローブ姿の聖職者が遠くから駆けてきてイザークを催促する。
「すぐに行きます。あなたたちは先に行っていてください」
行儀のいい返事をし、二名の聖職者は一礼をして支部内へと姿を消す。
「忙しそうだね」
「ええ。ですのでこのタイミングで会えて本当に良かった」
イザークさんは右手を差し出す。私も右手を差し出しその手を握る。
「リタさんの今後の旅に、祝福あれ」
「ありがとうイザークさん。それじゃ」
握った手を放し、私はイザークさんに見送られながら支部を後にした。
誤字脱字、ご感想やご質問等ございましたらお気軽にお願いします。