回る口
投下します。
よろしくお願いします。
放たれた光弾がレクトに襲い掛かる。ウォーロックは瞬時にレクトに駆け寄り体をつかんで放り投げた。
「ぐあっ!」
壁にたたきつけられたレクトだったが、何とか息を整え顔を上げる。
「ウォーロックさん!」
自分がいた周りの地面は光弾によって抉られ、その威力の強さを物語っていた。
煙が晴れ人影が一つ。そこにはレクトの代わりに光弾の雨を浴び負傷したウォーロックが片膝をついていた。
「がふっ!」
たまらず吐血しつつもウォーロックは立ち上がった。そしてレクトの安否を確認すると再び光弾を放ったアリスティアに向き直る。
「生きていたか。まったくしぶといやつだ」
「お前、アリスじゃないな? 誰だ!」
聖女の体がぐにゃりと曲がる。背丈と体格が変化し、大神官ロズウェル・フォードが憎々し気な顔でレクトをにらみつけた。
「大神官、ロズウェル・フォード……」
「私の擬態は完璧のはずだ。声、容姿はもちろん細かなしぐさまで本物同様にすることができる。いわば複製に近い」
実際のところウォーロックはロズウェルの擬態を見破れなかった。先ほどまで本当に、目の前に現れた聖女を本人だと認識していたのだ。今まで戦った魔物や魔人で、知り合いに擬態し襲い掛かってきた敵は少なからずいる。だがどれも声やしぐさといった、何かしらが違っていたためすぐに見破ることができた。
だが今回は違う。目の前に現れた聖女は間違いなくアリスティア本人。そう思わされるほどロズウェルの擬態は精密なものだった。
「凄女にも見破られたが、あの女なら致し方ないと割り切れる。だが小僧、なぜ貴様は見破れた」
あの凄女であれば、業腹だが見破られても致し方ないと思える。だが冒険者でもないただの子供に明確な疑問を持たれたのだ。完璧ともいえる聖女の擬態に。
「色が、違うから」
「……は?」
色。なんのことだ。それは何を指している。
レクトの返答に疑問が浮かぶ。もしや装飾品のことだろうか。はたまた髪の色。もしくは目の色かもしれない。様々な可能性が出てきては瞬時に消えた。そしてロズウェルはそれらの可能性はすべてありえないという結論に至る。
「おい坊主、何のことだ? 俺には本人にしか見えなかったが」
「なんていうか、体から湧き出てる色が他の人たちとは違ったんです。黒く禍々しい、そんな色をしていて」
「黒くて禍々しい……そりゃあもしかして魔力のことを言ってんのか?」
魔力は基本目に見えない。魔法を発動する際に流れとして感じ取ることはできるが、色の判別ができる者をウォーロックは聞いたことがなかった。もしかしたら教皇ならとよぎったが、今は目の前の荒事に集中する。
魔力の色で偽の聖女が大神官とわかったのはよかったが、状況は芳しくない。レクトでは大神官相手に戦っても勝ち目はないし、ウォーロック自身は負傷している。二人をこの場で始末することなど、大神官にとっては些細なことだ。それをさせる前になんとか時間を稼ぐ必要がある。
「大神官様よぉ。ちょっと聞きてぇことがあるんだけどいいかい」
そういってウォーロックは腰を下ろし座り込む。戦闘態勢を解いたウォーロックにけげんな表情を浮かべつつも、ロズウェルはその会話に乗った。
「冒険者ウォーロック。いや元、か。今は宿屋の店主だったな。なんだね」
「あんた本当に教皇様を、聖教会を裏切ったのかい。こんな大惨事まで起こして、何を企んでいるんだい?」
「言う必要はないと思うのだが?」
「どうせ俺たちじゃあんたには敵わねぇ。立ち向かっても死ぬだけだ。なら死ぬ前に疑問は晴らしときてぇんでな」
「ふむ。……いいだろう。なに、そこまで難しい話ではない」
手を後ろで組み、威厳を見せつけながらロズウェルは語る。
「私はこのヴァレスタで聖女を討ち、その首をもって魔族領に行き魔王を名乗る。そして魔族の軍勢を率い聖教会を滅ぼすのだ」
「魔王を名乗るだと?」
「ああそうだ。今の魔族領は魔王候補と呼ばれる魔人たちが日夜、自分こそが魔王にふさわしいと競い合っている。魔族同士で争い武勲を立てる者、領地を円滑に収める者、そして人間を滅ぼし支配する者」
饒舌になったロズウェルの口は、今までの鬱憤を晴らすかの如く止まらない。
「私は、私を認めない聖教会を滅ぼすために人間から魔族になった。そしてヴァレスタを中心に勢力を拡大し、魔王となり、聖教会を滅ぼす! 聖女は殺すが教皇は、そうだな。見せしめの為に磔にでもして凱旋しようか」
下卑た笑みを浮かべるロズウェル。そこにはかつて大神官と呼ばれた男はもう、いやとっくに居なかった。
「気分が乗ってしゃべりすぎたか。どうだ、疑問は晴れたか?」
「ああそうだな。おかげで色々謎が解けたよ」
「それはよかった。では死ね」
ロズウェルが再び光弾を放つ。ウォーロックはレクトに覆いかぶさり自らの身を盾にした。
「ウォーロックさん!?」
「バカめ! 貴様ごと貫通してやる! 小僧もろとも死ぬがいい!」
「バカはあんたの方よ!」
ウォーロックに向かった六つの大きな光弾。それらすべてを拳のみで叩き落す。地面や壁に穴が開き、脆くなっていた建物がさらに崩れた。
「ぐぅ……貴様らぁ!」
ウォーロックの前に立ちふさがる二つの影。
「レクト、無事!?」
聞きたかったその声に、レクトは安堵しはっきりと答えた。
「はい、リタさん!」
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