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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第四章
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教育係と絶句の表情

長らく空けてしまい申し訳ございません。

投下いたします。

 ヴァレスタの内部はどこも魔物であふれていた。都市を守護する結界は発動することなく外敵の侵入を許している。聖職者や聖徒、騎士団。果ては非戦闘員まで駆り出される大規模の戦いと発展していた。


 ヴェルグ卿率いる第三騎士団とともに私は聖教会ヴァレスタ支部へと向かう。すべての元凶であるとされるロズウェル・フォード大神官。その人に会うために。


「ここまで侵入を許すとはな……」


 燃え盛る炎。崩れた家屋。響き渡る悲鳴。


 ヴァレスタの惨状を目の当たりにしロイは悲痛な声を上げる。


「ヴァレスタの結界は強固なものだった。それこそ、ゴブリンやオークどもなど近づくことさえ許さないほどに」


「その結界を張ったのは誰?」


「ロズウェル大神官だ。だが……」


「団長、もう確認する必要もないでしょ。大神官は黒だ。魔族と繋がっていたのは大神官だったんだよ」


 ロイの言葉にヴェルグ卿は答えない。無言のまま、ただひたすら進むだけだ。


 スライム。ゴブリン。リザード。ワイバーン。道中に出会った魔物はすべて低級に分類されるものだった。種類で見れば大した脅威ではない。だが数が多かった。倒しても倒しても湧き出てくる。おかげで支部の近くまで行くのに時間がかかってしまった。


「しっかし、いくら雑魚ばっかでもこうも数が多いと面倒だな」


 尚も湧き出るスライムをたたき切りながらロイはほかの騎士たちに指示を出す。低級とはいえ、いくら何でも出てきすぎだ。思うように進むことができず、騎士たちの剣先が荒々しいものとなる。


「フレイバー。冒険者観点で見るなら今の状況、どう見る?」


「え? うーん。イライラさせて焦らせて隙を作るとか、あとは……」


 魔物が出現する主な原因は、漂う魔力が瘴気によって形を成すためだ。魔力の濃度が高ければその分上級の魔物が生まれ、逆に濃度が低ければ低級の魔物が生まれる。生まれる個体数も周辺の魔力量がその数を左右するのだ。


 今のヴァレスタ内部には高濃度の魔力があふれかえっている。一体一体の魔物の強さは大したことはないが、いかんせん数が多い。そうなると進む最中魔物に足止めされ、動きが鈍くなる。


「―――時間稼ぎか」


「私も同じ意見だ。意図的にこちらの動きを妨害している」


「でも、何のために?」


「おそらく、ロズウェルは何かを準備しているのだろう。逃げる準備か、あるいは我々を打ち倒す準備を」


 倒しても倒しても魔物は無限に湧いて出てくる。騎士団にも次第に疲れが出始めてきた。


「どちらにせよ、今のままでは不味いな」


「じゃあどうします団長……よっと!」


 ロイの剣が魔物を切り裂く。


 周りの魔物を放置しヴァレスタ支部へ向かえば大神官を捕縛できるかもしれない。でもそれは無理だ。人々に襲い掛かる魔物を騎士団が、ましてやヴェルグ卿が放置できるとは思えない。かといってこれ以上時間をかけるわけにもいかない状況だ。


「おや、リタさんじゃありませんか」


 聞き覚えのあるその声に私の体が硬直する。まるでヘビに睨まれたカエルのように。


 固まった体をなんとか動かし振り返る。ああ、予想が当たってしまった。


「またあんたに会うなんてね」


 紫のローブに身を包んだ男。空間魔法の使い手。かつて、魔人アンドラスと対峙したときに居合わせた魔導士。


「うれしいですねぇ。あの程度の出会いで覚えていてくれたなんて」


 にこやかな顔を向け、友人に話しかけるように近づいてくるその男の名は。


「改めまして。ボクの名はアベル。よろしくお願いしますね、リタさん」


「何がよろしくよ。こっちはよろしくなんて気持ちこれっぽっちもないよ」


「これは手厳しいですね。せっかくの再開なのに」


 アンドラスと一緒にいたアベルが人間である可能性は低い。このタイミングで現れたのは、邪魔な私たちを消すためだろうか。握りしめたダガーを構え一歩引く。


「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。ここには偶然通りかかっただけですから。ほら聖騎士の皆さんも。そんな物騒なもの向けないでくださいよ」


「……一つ聞く」


 ヴェルグ卿が剣を構えたまま半歩前へ出た。


「何でしょう?」


「貴様、人間ではないな?」


 ヴェルグ卿の問いにアベルは冷たい笑みで返す。次の瞬間、ヴェルグ卿の剣がアベルを斬り裂いた。


 斬られたアベルの体が分散する。


「おーこわいこわい。ほほえみで返したらまさか斬りつけられるなんて。聖教会の人は手が早くていけませんねぇ」


「あいにく、魔に与する者への返しは迎撃と定められていてな」


「物騒な教えですねぇ。これじゃあおちおち話も出来ません」


 アベルが杖で円を描く。空間がゆがみ、ねじれた暗闇の向こう側に部屋が見えた。


「この人数ですと少々面倒なので、いったん退却させていただきますね」


「逃がすかっ!」


 アベルの入った空間に突貫するヴェルグ卿。私とロイも後を追うように暗闇の中へ飛び込んだ。


 たどり着いたのはどこかの一室。壁際の本棚には蔵書が並び、質のいいソファーが対面で並べられている。その先の装飾された椅子に座る男に、アベルは笑いながら近づいていく。


「すみませんロズウェルさん。逃げてきましたので助けてください」


 聖教会ヴァレスタ支部長。大神官ロズウェル・フォード。


 私たちの探していた人物が、アベルを見て絶句の表情を浮かべていた。

誤字脱字、ご感想などあればよろしくお願いいたします。

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