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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第四章
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教育係と頼み事

更新が滞ってしまいすみません。

投下いたします。

 ダガーを振る腕が重く感じる。息が荒い。よけ方が徐々に雑になってきた。


「まだいるのか」


 どのくらいの魔物を倒したのだろうか。途中から数えるのが馬鹿らしくなってしまい、正確な数はわからない。けど、魔物の勢いは止まらなかった。減るどころか、むしろどんどん増えている。


 ゴブリンは低級の魔物であり、おもに冒険者になりたての初心者向が討伐する魔物だ。基本的に群れを成して行動するが知能が低く、一網打尽にできる場面も多々ある。武器を使うこともあるが木の棒や石を投げてくる程度で、そこまで脅威ではない。


 だがそれは普通のゴブリンの場合だ。


「はぁ!」


 振るったダガーの切っ先が目の前のゴブリンを切り裂く。奇声を上げて倒れこむゴブリンを踏み越え、別のゴブリンが剣を手に襲い掛かってきた。


「ギギィ!!」


「あぶなっ! このっ!」


 切り込んできたゴブリンの攻撃をよけたつもりだったが、わずかに腕を掠る。肌を切られた痛みを感じながら、ダガーを合わせて切り込んだ。


 周囲の異常な魔力の影響なのか、ゴブリンに多少の知能が芽生えているらしい。どこからか拾ってきた剣や盾を身にまとい、追い詰めた獲物を前にニタニタ下卑た笑いを浮かべ、その距離をジリジリ詰めてきている。


「ヒール!」


 覚えたての回復魔法。さっきから使い続けているが、そろそろ魔力切れが近いのか効き目が薄くなってきた。もう腕の切り傷を直す魔力も残っていないらしい。


 後ろの教会には避難した人たちが大勢いる。もし私が倒れてしまったら、次の獲物は彼らだ。


「少しでも、時間を稼がないと……っ」


 ここでゴブリンと戦っていれば、騒ぎを聞きつけて誰かが来てくれるかもしれない。聖職者でも聖徒でも騎士団でも。誰でもいい。私がゴブリンに倒される前に誰か。


 ガクッと膝が折れる。体から一瞬力が抜け前のめりに倒れる寸前で、私は両手を前に突き出し突っ伏すのを防いだ。


「うそでしょ……」


 体が重い。腕を振ることはおろか、もう立つ力さえ残っていなかった。体力の限界を迎えた私を、ゴブリンどもは待っていたかのように囲んだ。持っていた武器を捨て、鋭利な爪を研ぎ、舌なめずりをしながらゆっくりと近づいてくる。


 ゴブリンの危険度は確かに低い、だが一人で討伐はするな。冒険者になったものなら誰もが教えられる教訓である。突然変異を起こしたゴブリンの巣に入ったソロの冒険者が帰らぬ者となったという話は、冒険者になるための講習の定番だ。運よく生きていた女冒険者も中にはいるが、その惨状は悲惨なものだと聞く。


「あぐっ!」


 力を入れなおし立ち上がろうとしたが、ゴブリンに頭を踏みつけられた。手足も動かせないように踏まれ、ゲラゲラと笑い声が響き渡る。


 私だって、今まで新米の冒険者たちにさんざん教えてきた。命あっての物種。蛮勇は愚行。そう、教えてきたはずなのに。


「最後がこれって、あんまりじゃない? はは、は……」


「いや、あんまり笑えないなこれ」


 冷たい声と同時に私を踏みつけていたゴブリンたちの首が飛ぶ。緑色の血しぶきを噴水のように放出しながら、首から上を失った体は糸が切れた人形のように倒れた。


「ギギィ!?」


「ほら、よそ見しなさんな!」


 取り囲んでいたゴブリンの首が次々と飛ぶ。武器を拾おうとしたゴブリンも間に合わずその首を上に飛ばされ一匹、また一匹と倒れていく。


「ロ、ロイ?」


「ようリタ。元気……ではなさそうだな」


「ちょっと疲れちゃったかな。助けてくれてありがとう」


 ロイの手を借り立ち上がる。周囲にはまだゴブリンがいたが、後から来た騎士たちによって瞬く間に殲滅させられた。


「第一斑は周囲の警戒。第二班は教会内の住民の保護。急げ!」


 ロイの指示を受け騎士たちは瞬時に行動を開始する。その後方から大柄な男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「リタ・フレイバー」


「ヴェルグ卿」


 怒り。この男を見た瞬間、ふつふつと怒りの感情が沸き上がる。


 思えばヴァレスタにきてから、この男には振り回されてばかりだ。レクトの試験での出会いから始まり、身に覚えのない罪で捕縛。尋問という名の拷問をされ、それを彼の部下であるロイに救出される。文句の一つでも言ってやりたいが、ゴブリンとの戦いで疲弊しすぎたせいでそんな余裕はない。にらみつけるだけで精いっぱいだ。


「私が君を聖職者たちに受け渡した後、何があったか、何をされたのかはロイから聞いている」


 ヴェルグ卿はそういうと、懐から液体の入った瓶を取り出した。


「あいにくフル・ポーションは持ち合わせがなくてな。ハイ・ポーションで我慢してくれ」


 瓶を受け取り、私は少しずつハイ・ポーションを飲み込む。さすがハイ・ポーションだ。一口飲むごとに魔力が回復し傷が癒えていくのを感じる。いつも飲んでいる普通のポーションとはわけが違った。


「一応言っておくよ。ありがとう」


「礼には及ばない。当然のことだ」


 そしてヴェルグ卿は腰を折り、その頭を深々と下げた。


「本当に申し訳なかった。報告を聞いたときは絶句した。まさかあれほどの仕打ちを受けているとは思っていなかったのだ」


「ちょ、やめてよ」


「聖教会が君にしたことは決して許されることではないが……どうかこの身一つでご容赦願えないだろうか」


「だから、やめてってば!」


 何度言ってもヴェルグ卿は頭を上げない。ロイに助け舟を出すも、首を横にする始末。何かしら罰を与えないとならないみたいだが、そんなことは望んでいない。さてどうするか。


「頭を上げてヴェルグ卿。そこまで言うなら―――」


 悩んだ末に、私はヴェルグ卿に一つ頼みごとをした。


「わかった。その頼み、必ず成し遂げると教皇様に誓おう」


 ヴェルグ卿は快く引き受けてくれた。


 ハイ・ポーションのおかげで心身ともに回復し、私は再びダガーを手に取る。


「これからどうするの?」


「ロズウェル大神官を探す。彼が本当に魔に堕ちているか、この目で見定める」


「聖女様たちも別動隊として動いてるんだ。リタも行こうぜ」


「わかった。一緒にいこう」


 今回の騒動の元凶であるロズウェル・フォード大神官。彼には捕まっていた時の借りを返さなくてはならない。


 ダガーを持つ手を握り直し、私は第三騎士団とともに再び走り出す。

お読みいただきありがとうございます。

誤字脱字、ご感想等ありましたらよろしくお願いいたします。

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