第三騎士団の進軍
投下します。
よろしくお願いします。
突如現れた魔物に対し、第三騎士団を率いるヴェルグは違和感を覚えていた。
ヴァレスタには結界が張られている。そのため中に入り込んだ魔物の力は減少し、その脅威は見習い騎士でも囲めば倒せるほどに激減するのだ。訓練課程で魔物を何体か屯所に連れていき、実際に倒させたこともある。魔物への恐怖と、異形のものと対峙することへの恐れを克服させるために。
だが今ヴァレスタ内を暴れまわってる魔物はむしろその逆だ。力が増加している。
「ロイ副団長! この区域の民間人の救助完了しました!」
「よし。魔物を排除しつつ次の場所へ向かうぞ!」
普段であれば結界外の魔物ですら凌駕するのだが、今戦っている魔物は明らかにそれとは違った。一体一体の力が増しており負傷者が増えていく。斬っても斬っても増え続ける魔物の進行に対し、第三騎士団は徐々に圧されていった。
「ロイ、騎士たちを下がらせろ。道を作る」
大剣を腰の横につけ魔力を溜める。ヴェルグの言葉に副団長のロイはうなずき、前線で魔物と対峙する騎士たちに指示を出した。
「全員下がれ! 団長の攻撃に巻き込まれるぞ!」
ロイの命令により、それまで剣を必死に振っていた騎士たちが一斉に損場から離れる。残された魔物は一直線にヴェルグへと襲い掛かった。
「ぬぅぅあああっ!!!」
溜めていた魔力を開放し大剣を振りぬく。衝撃で周囲のがれきは吹き飛び、魔力は刃となって、向かってきた魔物をことごとく切り刻んだ。
「団長自ら!?」
「さすがだぁ……」
ヴェルグの一振りにより一帯に闊歩していた魔物が消えうせる。どれほどの鍛錬を積み重ねたらあそこまで強くなれるのか。騎士たちは改めて尊敬のまなざしを団長に向け先へと進む。
「いつ見ても凄まじいですね。さすが我らが団長だ。俺らには真似できません」
「何を言っている。お前も、ほかの騎士も、鍛えたらこれくらいはできるようになる。事態が収まったら全体で訓練をするとしよう」
「よ、余計な事言わなきゃよかった……」
ヴェルグ主導で行われる地獄の訓練の開催が決定した瞬間だった。ほかの騎士たちに済まないと心の中で詫びつつ、ロイは周囲を見渡す。
あれだけ綺麗に整えられていた街並みは今や崩れ果て、悲鳴と破壊音が鳴り響く戦場と化していた。ヴァレスタ内部でここまでの被害にあったことは今までない。それほどまでに結界の力は強大だったのだ。だが今その結界は力を発揮していない。結界を張り維持していたのはロズウェル・フォード大神官。ロイには結界の力がなぜ発揮されていないのか、なんとなくだがわかっていた。
「まだ確定ではないぞ」
そんなロイの考えを読み取ったのか、ヴェルグはたしなめるように副官にそう告げた。
「でも団長。ここまで来たらもう確定じゃないですか? 魔物の手引きをしたのだってきっと……」
「それは後程本人の口からきけばいい。我らの役目は都市内の魔物の殲滅。および住民の救出だ」
「はいはいすんません。わかりましたよっと!」
がれきの影に潜んでいた魔物に、ロイはナイフを投擲する。頭を刺された魔物は悲痛の声を上げると、魔力となって四散した。
「大神官の捜索に関しては、聖女様たちにお任せするんでしたね」
「そうだ。アリスティア様とセリスティア様、それにソニア殿とウォーロックもいる。問題なかろう」
「レクトくんも居ますしね」
「……ああ、そうだな」
珍しくばつが悪そうな表情を浮かべるヴェルグ。ヴェルグとしてはレクトがこの作戦に参加することには反対だった。まだ成長途中の若く幼い命。このような戦場に送り出すことを良しとはしない。最後まで難色を示していたが、聖女の説得によってしぶしぶ了承した次第だ。
「大丈夫ですって。戦力的には向こうの方が厚いんですから。聖女様もいらっしゃいますし、怪我なんてしてもすぐ治りますよ」
「そういうことでは……いや、いい」
心配しすぎか。
見どころのある少年であり、何よりヴェルグはレクトの心意気を気に入っている。気に入っているからこそ直接赴き騎士団への入団を進めたのだ。聖徒になる本人の意思も尊重したいが、ぜひとも騎士になってもらいたい。そんな気持ちもあった。気にかけてしまうのは当然である。
「団長」
ロイが示す方角。支部から離れたところでまたしても魔物の軍勢が街を破壊していた。奥には古い教会が見える。人の気配が感じられないことから、おそらくはあの教会に避難したのか。
教会の前には魔物が群がっていた。何に群がっているのかよくよく目を凝らしてみると、人影が魔物と戦っているのが見える。
「あれは……」
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