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新米冒険者の教育係  作者: ユトナミ
第二章
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プロローグ

 その日の天気は最悪だった。


 昼過ぎから雨が降り出し、瞬く間に地面がぬかるみ始める。


 足場の悪い中、幾万もの男たちがそれぞれの得物を持ちある場所へ向かっていた。


「急げ! もうすぐそこだぞ!」


「今こそ愚かな皇帝に正義の鉄槌を下すのだ!」


 誰が言ったのかは確認のしようがない。が、男たちの士気を上げるには十分すぎる言葉だった。


 圧政に苦しめられ、耐えに耐え続けてきた民の反乱。

 その様子を当代の皇帝は冷ややかに眺めていた。


「哀れだな。何をそこまで憤る。余に従っておれば良いものを、自ら死を選ぶとは滑稽だな」


 血の通わないその言葉はまさに暴君と蔑まされた男のあり様を現していた。

 自分こそが頂点であり、それ以外は虫けら同然。


 今回の反乱もこの男からすれば虫が攻めてきたとしか思っていない。


「全軍に伝えろ。害虫駆除は抜かりなく行うようにとな」


「ははっ!」


 戦士長、軍師長、その他皇帝の側近たちが一礼をしそれぞれの持ち場へと向かう。


 彼らとてこのようなことはしたくない。だがそれ以上に皇帝の命令は絶対なのだ。


 やがて反乱軍が皇帝の住まう居城にたどり着く。

 忌まわしい皇帝の首まであと少し。


 だが現実はそう簡単にはいかなかった。


「放てっ!」


 城から放たれる無数の矢。


 矢の雨が降り注ぎ、反乱軍は悲痛な声を上げる。


 陣形が崩れ、まともな統率が取れていない。


「はっ、しょせんは虫けらの行進であったか」


 高みの見物を決めていた皇帝はもはや見る価値なしと、寝室へ移動する。


 あの様子では間もなく制圧するだろう、あとは大臣たちに任せればよい。


 そう思って背を向けた見晴台から、


「おいおい、どこへ行くんだよ」


 まさか声が聞こえるとは思わず、ぎょっとした顔つきで振り返る。


「へぇ……冷徹な皇帝様でもそんな顔ができるんだ」


「貴様、どうやってここに」


 そう言いかけてやめた。

 侵入者の後ろには見知った顔が並んでいる。つい先ほどまでここにいた臣下たちだ。


「なるほど、な」


 皇帝は自分の置かれた状況を理解した。


 駒はいない。逃げ場も塞がれている。武器は剣が一本のみ。


 皇帝はゆっくりと剣を侵入者に向けた。


「この状況でお前に勝ち目はない。大人しく降伏しろ」


「戯言をほざくな痴れ者が! 余は皇帝なるぞ!!」


 漆黒の剣を振りかざし、そのまま侵入者の元へ突進する。


「阿呆が」


 皇帝の剣は難なくいなされ、侵入者の剣が深々と皇帝の腹に突き刺さった。


「ごふっ! がっ……ぁ……」


 腹に刺さった剣を抜かれ、そのまま後ろに仰向けの状態で皇帝は倒れる。


 出血の量が、何をしても助からないことを現していた。


「皇帝が倒れたぞ!」


「これで俺たちは自由だ!」


 皇帝が倒れたことによって反乱軍の勝利となり、喜びの雄たけびが方々から聞こえる。


 周りが喜んでいる中、皇帝を刺した男は倒れた皇帝を見つめ神妙な顔つきをしていた。


「これで、よかったのか……」


 誰にも聞こえない、心の叫び。

 

 空は晴れず、雨はさらに激しさを増していた。

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