怒り方
ユニコーンが立ち去った教会内にラスは呆然と立ち尽くしていた。
「なにをしているのですか!?早く追いなさい!!」
ガーディアンに逃げられたのに追おうともしないラスに神父は怒声を飛ばす
「ガーディアンは一人に一体しか神は与えてくれません。この世界でガーディアンのいない者いないのですよ!?」
「け、けど嫌われているのに無理やり追いかけてももっと嫌われるだけですし・・・」
「そんなこと言ってる場合ですか!?あなたの人生がかかいるのですよ!?ガーディアンがいないで生きていくなんて半身を奪われたまま生きるのと同意義です!!いいから早く追いなさい!!」
「は、はい!!」
神父の怒声に追い立てられ教会を飛び出す。
飛び出したラスの目に入ってきたのは長蛇の列に並んでいた人々の猜疑心がこもった眼差しだった。
「おいおいラス、いま白馬が一頭出て行ったがお前のガーディアンか??」
「ゼ、ゼロス」
人々を代表するかのようにをかけてきたのは近所に住むゼロスという少年。
「ん??どうなんだよラス?まさかガーディアンに逃げられたのかよ??」
「き、嫌われちゃったみたいで・・・」
「へ??」
あまりの事実に呆けた顔で言葉を失うゼロス。
「・・・ひひ・・ヒャヒャひゃひゃぁハハハハ!!マジかよ!!ラス!!!お前親に捨てられただけじゃなくてガーディアンにも捨てられたのかよ!ひゃはははははは!!」
ゼロスの笑い声につられて周囲の人間たちも笑い出す。
ラスは生まれて間もなく孤児院の前に捨てられており十五になった今日まで孤児院で育てられていた。
その生い立ちを孤児院の近所にいる同級生達に馬鹿にされて生きてきた。その馬鹿にしてきた筆頭がこのゼロスであった。
「はー腹いてぇ・・・お前ってホントしょうもねぇな」
「へへへへ・・・じゃぁごめん探しに行かないといけないからごめんね」
「おう、いけいけ!西の森のほうに歩いて行ったからよ!!すてないでぇぇぇぇって泣きついて来いよ。ギャハハハハハハハ!!」
「あ、ありがとう」
ラスは羞恥心を押さえつけて愛想笑いを浮かべながら西の森に歩き出した。
「はぁはぁはぁ・・・」
フラインの町は北は王都に続く道がありほかの三方を森で囲まれていた。其のうちの西側にある森にラスは走り出す。広い森なのでどこを探せばいいかわからない物だがラスはユニコーンがどこにいるか何となく感じることができた。
しばらく走ることで森の奥深くにたどり着いたラスは純白の姿を視界にとらえることができた。
ユニコーンは木々の隙間から差し込む光に照らされた場所で寝そべっていた。
「何しに来た??」
「えっと・・・謝りに・・・・」
「謝る??何にだ」
ユニコーンは眉間に皺を深く刻みラスを睨みつける
「女性と間違われちゃったから・・・」
「・・・そうやって何にでも謝ってれば満足か?」
「え・・・」
「先ほどの男もそうだ、ゼロスといったか。なぜ馬鹿にされて謝る。お前は何かあやまるようなことをしたのか??」
「な、なんで?」
見ていないはずのさっきの出来事を言うユニコーンに疑問の声がでる。
「おまえの守護獣だからな。ああ、お前らはガーディアンと呼んでいたか。そんなことはどうでもいい、なぜ自分が悪くもないことを謝る?」
「その方が誰も傷つかないから・・・」
「傷つかない?お前の心は傷ついているではないか。親に捨てられる俺には逃げられる。周りには馬鹿にされる。孤児院でも剣術ではだれにも勝てない、相談できる仲間もいない。お前の心は傷ついている。」
「そんなことも、ガーディアンはわかるの?」
「わかるさ、ガーディアンとはそういうものだ。一心同体の存在それがガーディアンだ。お前が馬鹿にされるということは俺自身が馬鹿にされると同じことだ。」
「ごめんなさい・・・」
下を向きうつむくラス。
「だからなぜ謝る必要がある。悔しくないのか、怒ればいいではないか。自分の誇りを守るために立ち向かえばいいではないか。」
「で、でも怒っても何も解決しないから、だったら僕が耐えればそれでいいじゃないか」
「耐えてどうなる、それはお前が逃げているだけだ。怒りは悪か?俺はそうは思わない。誇りを守るためには怒りは必要な感情だ。」
「・・・」
「自分を馬鹿にされたら怒り誇りを守れ。抗え!俺がお前を嫌いなのはそういうところだ」
下を向き黙り込むラスにユニコーンは言葉を畳み込んでいく。
ラス自身が気づいていたこと、気づいていたが気づかないようにしていた。
自分が望んだわけでもないのに生まれた時から恵まれない環境にいた。
そこで抗うにも自分は無力で現実はいつでもラスの心を打ち砕いていった。
そしてラスが出した結論は耐え忍ぶこと、耐えて耐えて耐えてその場をやり過ごす。
理不尽だと叫びたかった馬鹿にするなと怒り狂いたかった。けれどラスにはそれができなかった。
怒りという感情を表に出すことができなかった。自分のなかでそのピースが抜け落ちているように感じる。
言葉ではうまく説明できず唇をかみしめる。あまりに強く噛みしめたせいか鉄の味が口に広がり赤い液体が口から流れる。目からは涙が零れ落ちる。
「お、おきょりきゃたが・・・怒り方が・・うぁきゃりゃにゃい・・・分からないんだ」
ラスは思いを言葉にして叫び、その場にうずくまった。
ゆっくりと起き上がりラスの目の前まで進むユニコーン
「顔を上げろラス・・・」
見上げたラスの目に入ったのはユニコーンの真っ赤な瞳だった
「やっぱり俺はお前のことが嫌いだ。」
「・・・っ!!」
「けど不本意ながら俺はお前のガーディアンになっちまった。それはもう変えることはできねぇ。だから
・・・・」
「怒り方がわかんねぇなら俺が代わりに怒ってやるよ!感謝しろよラス!!守護獣最高位が七獣の一人”憤怒”のペインが今日からお前のガーディアンだ!!!」