勝利の褒美と第二王子
主人公が着々と最強クラスの力を手に入れていく。
………は?一体どういう事だ?全くもって言っている意味が分からんのだが。………とうとう俺の耳が可笑しくなったようだな。
「………すまん、俺の耳が可笑しくなければ“私はどうだ?”と聞こえたんだが?ああ、分かってる。俺の聞き間違いだよな」
「いやだから、褒美に私はどうだと言ったんだ。ああ、どうだ?と言うのは婚約してみてはどうだ?と言う意味だ」
可笑しかったのは俺の耳ではなくこいつの頭のようだな。こんな奴が第一王女って大丈夫かこの国?
「いや待て、落ち着け。一旦頭を冷やせ」
「む、さては剱崎、貴様乗り気では無いな。一体私の何処が不満なんだ?私と婚約すれば地位も名誉も、さらには美女すらも手に入るぞ」
「………その美女と言うのはお前の事か?」
「その通りだ」
………駄目だこいつ。早く何とかしないと。
「そもそもの話だが、俺はお前に模擬戦で勝っただけだぞ。それがどうしてそんな話になるんだ?」
「お前が私よりも強いからだ」
「その条件だったら騎士団長が真っ先に当てはまるんじゃないか?お前より強いから騎士団長になっているんだろう?」
「確かに昔はそうだった」
「昔はと言う事は今は違うと言う事か?」
「ああ、そうだ。はっきり言えば今の騎士団長は権力を振りかざすだけの無能だ」
いや、はっきり言い過ぎだろ。
「さらに今では、騎士団のほとんどが有力な貴族の子息だ。私が入ってからは、それがより顕著になっている」
成る程な。つまり第一王女と婚姻関係になるために入ってくる奴が増えている訳だ。
「理由は分かったが、あれはたまたま俺が勝っただけだ。もう一度戦ったら、今度は負けるだろうな」
「そうでもないと思うが。まあ、そう言う事にしておこう。で、結局私と婚約するのか」
「いや、まだ初対面だからな。お互いの事も分かってないし、決めるのは難しいだろう」
「そうか。じゃあ、私との婚約を褒美とするのは止めよう」
良し、なんとか婚約は免れたようだな。危なかった。
「では、代わりの物は何にしようか。………そうだ!宝物庫の中から一つ、好きな物をくれてやろう」
「分かった、それにしよう。しかし、なんで先にそれを思いつかないんだ」
「良し、では行くぞ!」
おい、無視かよ。でも、宝物庫と言う位だから物凄いお宝とか入ってそうだな。
そしてしばらく城の中を歩かされた後、俺達は地味な扉の前にたどり着いた。
「此処が我が城の宝物庫だ」
「そんなに豪華な見た目では無いんだな」
「それはそうだ。泥棒が入った時に一発で宝物庫と分かる様な見た目だったら駄目だからな」
ああ、成る程。そう言う理由で地味な扉にしているのか。でも、王城に盗みに入る命知らずな泥棒はいないと思うんだがな。
「そして、………これが城の宝物庫の中だ」
おお!ピカピカしていて物凄く目に悪そうだ。じゃあ宝物庫から持っていく物は何にしようか。武器は自分で創るから良いとして。やっぱりこの中で唯一気になるのは、悪魔か何かに呪われてそうな指輪と黒くて四角い箱だな。
「あの黒くて四角い箱は何なんだ?」
「あの箱か。あの箱はだな、箱を持つ者に最適な形状の服へと変化する効果を持っている箱なんだ」
あの箱にそんな効果があったのか。見た目からじゃ全く想像出来ないな。
「じゃあ、あの不気味な指輪は?」
「あの指輪は魔王の呪いが込められている。身に付けた者の精神を蝕み、やがて廃人にしてしまう」
いや、なんでそんな危険な物を宝物庫に置いているんだ。間違って触ったらどうするんだ?
「しかし、その代わり身に付けた者に絶大な力を与える指輪だ。お前はどれが一番気になったんだ?」
「あの箱だな」
「分かった。じゃあ、あの箱を手に取ると良い」
ペアに促されて俺が箱を手に取った瞬間、箱が液体になり俺の体にまとわりついた。
「おおっ、何だこれ?」
思わず念力で吹き飛ばしてしまいそうになったんだが。
「おお!服が出来てる」
確かにペアの言う通り、徐々に服が出来てきている。
「最終的に灰色のコートになったか。ポケットが多いから沢山物が隠せそうだな」
「気に入っている様だな」
まあな。でも、これで皆の所に戻ったら流石に不味いな。
「これって元の四角い箱に戻す時はどうするんだ?」
「ああ、それはだな。頭の中で元に戻る様に念じるだけで良いんだ」
それだけで良いのか。じゃあ、元に戻れ。
「おお!元の箱に戻った。この大きさならギリギリ持ち運べるな」
「じゃあ、褒美はこれで良いとして。次は私が風呂へ案内しよう」
そうか、訓練の次は風呂だったな。でも、褒美の件で物凄く時間を使ったから、皆はもう風呂から上がっただろうな。
「それじゃあ、私についてこい」
それからしばらくペアについていくと、巨大な扉が目に入ってきた。
「ここが男性専用の風呂だ。ゆっくりしていくと良い」
「案内、ありがとうな」
此処が男子風呂か。しかし、とんでもなく大きな扉だな。
「早速入ってみるか」
まず中に入り着替えて、着替えを棚に置いてから浴室の扉を開ける。ん?俺の他に誰かいるみたいだが、クラスメイトか?だとしたら随分長湯だな?まあ、良いか。そして、体を洗い湯船に入る。
「失礼しますよっと」
「この時間に入ってくるなんて珍しいね?あれ、君はもしかすると今日召喚された勇者の一人かい?」
聞いた事が無い声だ。よってクラスメイトでは無いな。
「そうだが、お前は誰だ?」
「僕かい?僕の名前はアプル。この国の第二王子で宮廷魔導士長も務めている。以後、宜しく頼むよ」
………やけに権力者と出会う一日だな。
「俺は剱崎だ」
「そうかい。じゃあ剱崎は何でこんな時間に風呂へ来たんだい?他の勇者達はもう出ていったよ」
そこで、俺はこれまでの経緯を事細かに教えてやった。
「ハッハッハ!あー、面白い!実に姉さんらしい話だ!」
「どこが面白いか全くもって解らないんだが?」
「いきなり婚約を褒美にする所とか、面白いと思わないかい?」
「やられた張本人は全く面白くねーよ」
「ハッハッハ!そりゃそうだ!」
よく笑う奴だな。よほど姉さんの事が好きなんだな。
「はー、よく笑った。で、どう思っているんだい?」
「何の話だ?」
「だから、姉さんの事、どう思ってるんだい?」
こいつさっきまで笑ってたのに、急に真面目な顔になったな。
「………そうだな。正直に言ってタイプだと思う」
「おお!まあ、確かに姉さんは世界一美人だしスタイルも良いし強いしで何でも揃っているからね」
こいつシスコンかよ。ペアの事好き過ぎるだろ。
「じゃあ何で断ったんだい?」
「………俺は誰かを幸せにする事が出来ないからだ。そう気付いてしまったからだ」
「僕はそんな事は無いと思うけどね。まあ、君がそう思っているんなら今はそれで良いんじゃないかな」
………正直、助かる。
「じゃあ、こんな話もなんだから、明日教えられると思うけど君に魔法を教えようか?」
魔法ってまじか!やばいな。一気に興奮してきたんだが。
「まじか、ちょっと早く教えてくれよ!」
「いや、興奮し過ぎでしょ!」
いや、魔法だぞ魔法!男にとってのロマンだろ!
「まあ、良いんだけど。それでは魔法の講義を始めるよ。まず魔法と言うのは、体の中にある魔力を感じないと発動出来ないんだ」
魔力?何だそれは?
「魔力と言う物はどんな感じの物何だ?」
「そうだな。………例えて言うなら体の中を巡る血液みたいな物だね」
「成る程な。今、体の中に何かあったんだがこれが魔力か?」
「もう魔力を感じたのかい?もしかすると君には魔法の才能があるかも知れないね」
だとしたら最高だがな。
「そしたらそれを指先に集めるイメージをしてみて」
指先に集めるのか。………俺の全血液よ、人差し指に集え。
「したぞ」
「なら今度は発火するイメージをしてみてくれ」
指先に火が灯るイメージ。ライター位の火が指先につくイメージ。
「良し、出来た」
「じゃあ後はそのイメージを口に出すだけだ」
口に出す。言霊。言葉に魔力を込めるイメージ。
「………燃えろ」
呟いた瞬間、俺の指先に火が灯った。これは成功か。
「………まさか一発で成功するとは思ってなかったよ」
「そうなのか、普通だと大体何日位掛かるんだ?」
「普通だと一ヶ月以上は最低でも掛かるね」
そんなにか。もしかするとだが、案外魔法の才能があるのかも知れんな。
「しかも、見た事も無い魔力質をしているね」
「そうなのか?と言うか魔力質とはそもそも何なんだ?」
「魔力質と言うのは言葉の通り魔力の質なんだ。これにより使える魔法の種類が変わってくる。例えば僕の魔力質だったら火系統と土系統の魔法が使えるみたいな感じだね」
成る程。つまり相手の魔力質が分かれば相手がどんな魔法を使うか分かる訳だ。
「でも、君の魔力質はこれまでに見た事が無い。つまり全く新しい魔法が使える可能性があるって事なんだ」
最後までご覧になって下さり、ありがとうございます。
主人公最強まで後もう少しですね。それまで、しばらく説明回が続きますがご了承下さい。すいません。