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「ぶぅ~…」


テーブルに顎を乗せ、不満の声を上げている私を見たお父様がお母様に尋ねた。


「カテリーナ。我が家の姫君はどうしてしまったんだい?」


「また本が見られなかったんですって。」


「本って、図書館のかい?」


「そう。初級魔法の呪文書よ。」


「あ~…。あれは、中々見れないよなぁ~。困ったねぇ。」


この頃の私は魔法に夢中だった。毎日の様に開花を確認しながら少しづつ膨らむ蕾に楽しみを見出していた。しかし膨らむのは、水と風と光の蕾だけで火と土の蕾は1ミリも変化がなかった。

お父様とお母様から教わった、水と風と光の練習しやすい初級魔法だけを行っていたから当た前の事だった。


「リーゼ、ごめんな。お父さんもお母さんも火と土の初級魔法を知らなくって…。」


「いいの。しょうがないよ…。」


「友人が使ったのを見せてもらった火の上級魔法なら覚えてるんだがなぁ~。こんな事ならしっかり勉強しておけばよかった…。頼りないお父さんだよな…。」


「また図書館に行ってみるよ。大丈夫、いつかは見れると思うし。」


「でも、ここからじゃ1番に図書館に行こうと思うとかなり早くでないといけないし…あぁ、そうか!リーゼ、お父さんいい事思いついたぞ!」


「いい事!?」


「リーゼ、この王都には図書館がもう一つあるのを知っているかい?」


「え?知らない!もう一つあるの!?どこにっ!?」


「そう、もう一つあるんだっ!なんと、貴族街にあるっ!」


「え、でも…貴族じゃないから私は入れないよ…。」


「そこはほら、お父さんを頼っておくれよ。お父さん、こう見えて貴族街は毎日通ってる!なんたって、お父さんのお仕事する場所は、貴族街の一番奥だからなっ!」


「そっか!でも、本は持ち出せないよ?お父さんが写本してきてくれるの?」


「ふふん。なんと貴族街の図書館は、しっかり身分を確認できれば借りられるんだ!貸出金と保証金は納めないといけないけどな。」


「お金かかるの?」


「貸出金は、ほんのちょっとさ!保証金は高いが返却したら戻ってくるからな、心配ない!」


「本当?本当の本当?無理してない?」


「無理なんかしてないさ!毎日お母さんのお手伝いを頑張ってるリーゼにご褒美だよ。」


「わ~っ!!お父さん、ありがとうっ!!凄く嬉しいっ!貴族街の図書館か~、大きいのかなぁ?本もいっぱいあるのかなぁ?あっ!お父さんっ!貴族街って、どんなとこ?」


「リーゼは、貴族街に興味が沸いたのかい?貴族街はそうだなぁ、大きなお屋敷がいっぱいあって、馬車がいっぱい通るからどの通りも道幅が広い。建物も綺麗で、大手の商会のお店も並んでいるんだよ。」


「貴族街にもお店があるの?こっちにもいっぱいあるのに?」


「お店って言っても、こっちの商店やマーケットみたいな物じゃないんだよ。食料品とかはお屋敷に届けてくれるからマーケットは無いんだ。装飾品や衣類のお店が沢山並んでいるんだよ。あとは、大きな家具屋さんとか馬具なんかを扱うようなお店とか…とにかく、貴族向けの高級店が並んでるんだ。」


「へー、馬車で買い物するの?」


「そうだね。自分で行く時は、馬車で行くね。でも、使用人をお店に行かせて家に呼ぶ人の方が多いかな。もちろん、お店でも対応してくれるけど貴族はややこしい慣例が多いからな…その辺はまぁ、人によるかな。出歩くのが好きな人もいるから、そこは貴族も人間って事だ。」


「そっかー。自分で買いに行った方が早いのにね。面倒だね。貴族って、やっぱり怖いの?」


「うーん、貴族の振る舞いには色々と理由があるからな…一概に否定はできないけど、面倒なのは認めるよ。お父さんも昔は貴族だったからな…。ただ、今の貴族はそんなに怖くないぞ。色々あって改変が行われたからな。よっぽど無礼な事さえしなければ、そう怯える必要もないさ。」


「改変?」


「リーゼにはまだちょっと早いかな。もうちょっと大きくなったらお話しよう。魔法書は明日借りてくるよ。さぁ、もう寝なさい。おやすみ、リーゼ。」


翌日、魔法書が楽しみすぎていつもより少しだけ早く目覚めると、珍しくお母様が起きていなかった。

不思議に思い寝室の扉をノックすると、お父様が顔を出した。


「おはよう、リーゼ。」


「おはよう、お父さん。お母さんはどうしたの?」


「どうやら体調が良くないみたいなんだ。」


「お父さん、お仕事お休みする?」


「そうしたい所ではあるんだが、ちょっと時期が悪かったな。社交のシーズンが終わるから沢山の貴族が領地に帰る前なんだ。もうすぐ小麦が収穫の時期だから帳簿を整理して各領地の…あぁ、兎に角今はお休みするにはちょっとな…。幸い、熱がある訳でもない。夏にはバテる事があるから、それじゃないかなと思うんだ。」


「夏バテ?」


「そうだな。お母さんも少し休めば治るって言って今は寝ている。」


「わかった。今日のお買い物は一人でいく!お父さんもそろそろお仕度しないと!ごはん用意するね。」


「大丈夫か?火打石は使えるか?お父さんやろうか?」


「大丈夫!」


「そうか。あ、リーゼ。お買い物行く時に、これでお母さんが食べやすそうな果物でも買ってきておくれ。おつりはリーゼの好きに使うといい。」


ここはやらねばならぬと自分に言い聞かせ台所に入った。


六歳児にとって台所と言うのは中々に活動し難い場所だった。

ほぼすべての作業に椅子を必要とするので足場が悪い。加えて、夏場と言うのもあって食材はあまりない。冷蔵庫が存在しないので、日持ちする根菜と塩や小麦粉以外は毎日の買い物でその日使う分だけを購入するのだ。

食料用の小部屋に入り、今日消費しなければならない物を持ち出した。

台所に並んだのは、ズッキーニの様な形をしたトマトの様な野菜のトゥーマ、何の肉かは解らないが5㎝程のベーコン、少し萎びてしまっているが色見の濃いレタスの様な野菜のスジェだ。

お母様は、だいたいいつも朝食にパンとスープとサラダを出す。

予想では、トゥーマとスジェのサラダ(塩味)とベーコンと根菜のスープにパンの献立だと思った。


しかし、もうそんなに時間はない。


まず、顔の大きさ程もある丸いパンをスライスしてお皿に広げた。


「泉に仕えし聖霊よ─霧となりて降り注ぎたまえ─ウォーター!」


お皿の上のパンに霧状の水が降り注いだ。

パンが硬いなら湿らせればいいじゃない!ってことで、水分を含ませた。

硬いフランスパンに霧吹き。の小技だ。


魔法の練習していて気が付いた、魔法は汎用性が高いという事。

水が出るというウォーターの魔法に「どうしたいのか」をしっかり伝えれば、霧状にも水鉄砲の様にも、コップにただ貯める事もできる。ただし、出てくる水の量は決まっている。どんな形状でだしても初級魔法のウォーターはコップ1杯分にしかならない。


すぐに霧を止め、お皿のパンを放置して次の作業に入る。


竈に火をつけ鍋に水桶から水を汲み火に掛けた。

その間にトゥーマを細かく刻む。

ぬるま湯になった鍋を引き上げスジェを潜らせる。これで少しは萎びたのが戻るはずだ。

次に、空いた竈に別の鍋を置き、刻んだトゥーマを炒めて水気を飛ばし塩を入れ味を調える。

そして、ベーコンをスライスしてフライパンで焼き目を付ける。


パンにすべてを挟み込んで「BLTサンド」改め「BSTサンド」の完成!!


本来のBLTサンドと違いトゥーマを煮詰めて塩見を利かせたのは、トマトと違って水気が多すぎるのと他に調味料の類がないのでピザソースみたいになればなって事でこうなりました。

もっと野菜を知らないと今これ以上の物はできそうもない…料理は大変だ。


「お父さーん!朝食出来たよーっ!」


「お、もう出来たのか!時間もないし、パンだけ齧って出ようかと思っていたけど早かったな。ありがとう、リーゼ。」


「ううん、一人で作ったの初めてだからちょっと心配だけど…食べてみて」


身支度を終えたお父さんがジークを抱いて食卓までやってきた。

ジークを先に座らせ、お父さんも腰かけたのでBSTサンドを運ぶ。


「ん?これは…なんだい?」


「えっと、根菜を煮込む程の時間が無かったから…パンとサラダとお肉を一緒にしちゃえばいいかなって…手で掴んで食べるんだけど…ダメだったかな?」


「いや、ありがとうリーゼ。見た事ない物が出てきて、ちょっと驚いただけだよ。リーゼは凄いね、どうしたらいいか一生懸命考えてくれたんだね。それじゃあ、いただこうかな。」


「召し上がれ。…お水もってくるね。スープないから喉詰まっちゃうかも。」


「頼むよ。」


一度台所に戻り、ジークの分のBSTサンドを一口サイズに切って食卓に戻ると…すでにお父さんのお皿からBSTサンドが消失していた。


「はい、お水。ってアレ?…もう食べたの?」


「…あぁ。」


「どうしたの?おいしくなかった?ダメだった?」


「いや、そんな事はない…リーゼ、あれは…どうやって作ったんだ!?昨日買ったはずのスジェは萎びていないし、パンもいつもより硬くない。何より、味の一体感だ!トゥーマの様でちょっと違う、あまりビチャビチャしていないし酸味と塩見がアクセントになって」


「お父さん、大袈裟…」


「何を言ってるんだ!大袈裟なもんか!正直なとこ、最初見た時はどうしようかと思ったんだ!でもリーゼが作ってくれたはじめての料理だ!しかも時間がないお父さんの為に一生懸命考えてくれた料理だ!見た目がおかしかろうと味が悪かろうと、スープがなかろうとも完食しようと思って食べたんだ!そしたら、なんと言うことだろうか!パンに挟む事で一体感が生まれ、そして食べた!という満腹感!はじめての料理でこれだよ!?リーゼは天才かっ!?なんてこった…うちには天才…いや、天使が」


「お父さん、遅れるよ。」


「あぁ、くそうっ!行きたくないっ!いや、行かねばならないんだが…」


「お父さんっ!」


「はい。いってきます。」


「いってらっしゃい!」


「リーゼ!帰ったらお話しよう!お母さんとジークを頼んだぞ!」


元々娘大好きお父様だったが、ここまで大爆発したのはこの時がはじめてだった。

苦笑いである…父は娘に甘いものだが、普段温厚で優しいお父様が口調を荒げての大絶賛の破壊力は凄まじいものがあった。


ジークに食事をさせ、一刻遊んであげるとウトウトしはじめた。

両親の寝室のベビーベットに寝かせ、お母様の様子を見た。確かに熱は無い様だが、寝苦しそうだ…本当に夏バテなのだろうか…ウィンドの魔法を使い微風を送って部屋を出た。


それから、比較的小さめの洗濯物だけを済ませ買い物に出かけた。


北居住区にほど近いマーケットまで。

家から持ち出した買い物籠は6歳児には大きく、肩に下げないと引きずる程だった。


まずは肉屋により、ベーコンを購入。

続いて八百屋でサラダに使える見た事のある野菜を1束購入し、粉屋さんへ向かった。

その途中に果物屋さんがあったので、桃の様な果物を購入した。


おつりは銅貨5枚、日本円で言えば500円程。子供には大金だ。何に使おうか…


そんな事を考えていたら粉屋についた。


「こんにちは!」


「ん?お、下か!すまんすまん、見えなかったぜ!いらっしゃいっ!何にする?」


「えっと、小麦粉が切れていたので欲しいんですけど…あんまり持てないので持てる分を買いたいです。」


「おー、そうかいそうかいっ!じゃあどうすっかな…この入れ物1杯いくらで売ってるんだが…ほれっ!もってごらん!」


「わっ!結構重いですね…2杯しか持てそうもないかも…」


「本当に2杯もてるか?おっちゃん、手伝えないぞ?」


「大丈夫です、ありがとうございます。じゃあ、この袋にお願いします。」


「あいよー!まいど!」


粉屋のおじさんが私から袋を受け取り、小麦粉のタルへ向かった。

その間に露店を眺める。粉屋なだけあって、色んな粉物から豆類があった。

塩や砂糖も置いているようだ。胡椒のような粒もあった。あれが胡椒なら欲しいな…

そんな事を考えながら代金を用意する。


「はいよっ!お待たせっ!おっ?あぁ、丁度だな。ありがとよ!」


「あの…その黒い粒は何ですか?」


「あぁ、あれは胡椒って言ってな…辛いぞ?それに、高いぞ?滅多に入ってこないんだがな、今日はたまたまだな。」


「あぁ、本当だ…高いですね。勝手に買ったら怒られちゃうな。」


「そりゃそうだ!まぁあんまり馴染みの無いもんだからな、そう直ぐには売り切れないさ。かーちゃんに相談してみなっ!はっはっはー!」


「そうですね…。あ、そうだ!大麦は、置いてますか?」


「大麦粉は残念だが扱ってないなー。只でさえ硬いパンがもっと硬くなっちまう!今時買うやつはいねぇからなぁ~」


「あ、いえ。粉じゃなくって大麦そのものがほしいんですけど…」


「大麦!?そんなん何に使うんだ?鳥の餌か?今時、大麦なんて…あぁ…そういやいるわ…大麦のオートミールが好物の爺様が…」


「あ、無いんならいいんです。」


「あるよ!脱穀はしてねーがなっ!爺様用のやつが!」


「え?本当ですか!?でも、お爺さんのじゃないんですか?」


「いつ来るかわかんねーからな!馴染みだから用意してるだけで儲けなんかこれっぽっちもねーしな!嬢ちゃんが欲しいってんなら売ってやるよ!どれだけ欲しいんだ?そんなにないけどな!」


「ありがとうございます!コップ1杯分位でいいんですが…」


「コップ1杯か…まぁいいか!」


「あ、あの…銅貨5枚しか持ってないんです。足りますか?」


「金はいらねーよ!またおいでっ!」


「おじさん!ありがとうっ!」


その足で大通りに向かい、パン屋に寄ってから自宅に帰った。

家に入って荷物をテーブルに置き、両親の寝室を静かに覗き込んだ…あ、ジークが起きてる。


「ジーク、起きてたの?大人しくしてたね。いいこ、いいこ。」


「ねーね!ねーね!」


「シィー…一緒に向こういこうか。」


「ねーね?」


私は、また微風の魔法を使ってからジークを連れて出来るだけ静かに寝室をでた。

さて…、ジークと少し遊んだら上手く出来るか解らないけどアレを作りますかっ!



誤字脱字、矛盾や感想等 是非宜しくお願い致します。

作者は恋愛物のつもりで書いてます!

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