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「普通」を演じよう。

私が、【転生者】でも【狂人】であっても。


そう決意したんだ。


でも、この中世ヨーロッパみたいな世界では、私の知る「普通」は「普通」じゃなかった。


後からお母様に聞いた話によれば、私には相当苦労させられたようだった。

そもそも、私が「普通」を演じようとし始める前、まだ乳児だった時から既に「普通」ではなかった。


乳児の頃の私をお母様は、「病弱」と思っていた。


1歳前まで私は、その殆どの時間を寝て過ごしていた。

私の感覚からすれば、「寝ていた」のではなく「気絶していた」だったのだが…


今思えば、発達しきっていなかった脳に多くの記憶を保持している時点で脳への負荷はとんでもなかったのだと思う。そこへ合わせて、その記憶を引き出そうとしたり、状況を理解しようとする事によって辛うじて保たれていた意識がプツンと途切れた。完全に気絶だ。脳が考える事を、負荷を掛ける行いをシャットアウトしていたのだと思う。


結果、私は乳児の一般的な睡眠時間を大幅に上回る程寝ていた。


その為、必要な栄養を摂取できず、発育不足にも陥っていた…

お母様には相当な心配を掛けていただろう…


そして、意識が保てる様になってきた1歳前後、発育不足はあるものの起きている時間が長くなった。

お母様は、少しばかり安心したそうだがそこへ更なる不安が襲った。


起きているのに声を上げなかったからだ。


寝ていた頃は、「病弱」と思い泣く力がないのかもしれないと思っていたそうだ。

しかし、起きていても私は泣かなかった。


その時の私は、思考が長く続けられる様になり必死に色々な事を考えていた。

「普通」を演じるという結論に至る事を。

その為、多くの時間を情報収集と思考に没頭していた為、乳児を演じる事ができていなかった。


泣かず、笑わず、無表情。

心配したお母様は、必要以上に私を意識しオムツ替えや授乳を細目に繰り返した。



要求せずとも応じるお母様の愛情って凄いな…そんな事を考えた記憶がある。

完全に親の心、子知らずであった。



それから、「普通」を演じる決意をした1歳半頃。

私は、お母様から見れば突然に手の掛かる子になった。


乳幼児は、感情をうまくコントロールできないのが「普通」。

不満があれば泣き、不安があれば泣き、要求があれば泣くという「普通」。

興味がある物はじっと見つめ、大袈裟に笑ってみせ、手を叩き喜んで見せるという「普通」を演じるようになった。


お母様はこの変化を、最初こそ喜んで見ていた様に見えた。


その様子を見た私は、「普通」を演じる事が出来ている。と心の中でガッツポーズをした。



そして、調子に乗った…



「普通」を演じ、お母様の期待に応えるべく意味もなく泣いた。

オムツが濡れたのか、お腹がすいてしまったのか。お母様は確認し、そうでないと解ると歌を歌って私をあやしてくれた。外を見せてくれたり様々な手を使って私を泣き止ませようとしてくれた。


泣けば、色々見せてもらえる、声を掛けて貰える、歌を歌ってくれる。

情報収集も並行して行いたい私にとっても利のある行為だと思っていた。



でも、実は違った…



私はこの時、気が付いていなかったのだ。

ここが地球ではない事を。この世界には、魔法があるという事を…


目に見える魔法は、発生する時に極小の光を発する。

それは、乳幼児の目には余り良くないとされており魔法を目にする機会がなかった。いや、見せない様にとお母様は対応していた。



しかし実は、目に見えていないだけで魔法は発生していた。



お母様の手から、時には歌に乗せて。

沈静化の魔法や睡眠へ誘う魔法、私が心地よく過ごせる様にと微風の吹く魔法。


言語を理解しきれていなかった私が話かけられていると思ってた言葉は詠唱だった…。


最初は、安心感から眠くなったり、泣く気が失せたりしているのかと思っていた。

私が落ち着いてしまえばお母様は私から離れてしまう。


早く言語を理解したい!もっと構って貰いたい!寝るなっ!抗えっ!

そんな思いからの行動は…お母様の魔法への抵抗だった。



お蔭様で、私は私が意図しない状態へ導こうとする現象に対する抵抗がついた。



この時、初めて「神の声」と言われる声を聞いた。



鈴の音とも鐘の音と違う、心地よい金属音が聞こえた。


『啓示。既定に達する行いを収めた為、汝に【完全状態異常耐性】を付与します。』


「あぁ?」


思わず、ガンを飛ばされたとイチャモンを付ける不良の第一声の様な声が出た。突然、脳内に直接響く様な声と、この世界の言語を理解していないはずなのに理解できる言葉に驚いたんだ。


さっきの声がお母様に聞こえたかもしれないと思い、慌てて寝たふりをしながら考えた。


なんだかRPGロールプレイングゲームの様だ…耐性を手に入れたって事は、私が抵抗という経験をい積んだからって事?状態が異常になる事なんてあったっけ…え?もしかして…



ここには、「スキル」や「魔法」があるのかもしれない…。

言語を知らないだけの文明の遅れた地か、受け入れない地説が消え「異世界」疑惑が浮上した。



この時、私は初めてそう思った。

薄めを開けてお母様を確認したが、驚いている様な様子はない。

これは本人にだけ、もしくは私にだけ聞こえる声なのかもしれないと思い至った。


これは確か、2歳直前の頃だったと記憶している。

この事から、早く言語を理解しよう、余計な事を控えよう、と思いまた静かな幼児に逆戻りしお母様を大変混乱させる事となった。



この事を思えば、それ以外の「普通」を演じて失敗した経験なんて小さい事の様に思えたが、もう一つ大きな失敗をしていた。



それは、食事。


はっきり言って、全く美味しくなかった。

母乳はまぁ、記憶にない味だったのと味覚が発達していないせいなのか全く問題がなかった。

一言で言えば、「やさしい味」。


しかし、その後の離乳食から苦行が始まった。


料理をしている所を見ていた訳ではなかったので何を食べているのか理解していなかったが、恐らく芋や豆やカボチャの様な物を磨り潰してペースト状にした物が出た時はまだマシだった。

記憶にあるそれとは微かに違うような気の抜けた感じの味がするものの、素材そのままの味は単純で飽きると思う事はあっても嫌ではなかった。


しかし、それ以外の離乳食はとんでもなかった。


その辺に生えているんじゃ?と思う様な、エグい草の味と苦みの聞いた小麦粉を混ぜた様な緑色のスープ。

なんとも言えない臭みのあるドロドロとした赤黒い謎のスープ。

口に含んだ瞬間は驚く程甘いのに、後味が苦いザラザラとした口当たりの頗る悪い茶色いスープ。

既に見た目から食欲が全くわかない上に、とんでもなく渋い青色のスープ等々…


正直思い出したく無い味のオンパレードだった。


これを食べる事自体が苦行ではあったのだが、それだけではなかった。

お父様もお母様も、全く同じではないが似たような色合いの肉や野菜の入ったスープを涼しい顔で飲んでいた。もしかして…、これは美味しいの?これは「普通」の食事なの?


私はどうリアクションを取って食事をしていいのか全く理解できなかったのだ。

何が「普通」なのか、全然分からなかった。


食事の最中、お母様とお父様が優しい笑顔で何かを語り掛けてくれていたのをよく覚えている。


最初は「美味しい?いっぱい食べるのよ」とか「おかわりはいる?」とか、そう言った事や日常的な会話を話しかけられていると思っていた。


言語が理解でき始めた頃には、脱離乳食をしたが両親と同じ具材の入ったあのスープに、少し塩味のあるサラダ、外に出しっぱなしにしたんじゃないかって位に硬いパンが並ぶようになった。


両親は、相変わらず笑顔で私に語り掛けてくれてる。


そして難しい単語以外が理解出来るようになった3歳の頃、夕飯の席で衝撃的な事実が聞かされた。


「色々と心配事が多かったけど、食事は全く手が掛からない子でとっても嬉しいわ。」


「そうだな。5歳の洗礼までとは言え、大人でも躊躇する味わいだからな…。毎食ごとに「一口だけでも飲め」と強要されたこのスープがやっぱり今も苦手だよ、ははは。」


「だめよ、そんな事言っちゃ。5歳の洗礼までは、この子と一緒に頑張る約束よ?─でも、本当にこれで魔法の才能が開花するのかしら?決して安い物でもないですし…。」


「教会が支持する伝統だからな…他国では飲まない所もあると聞いたが、そことの差は歴然らしい。古くからの貴族の方々は、血筋もあって2つから3つもの才を持つのが当たり前だと聞くが、平民だって1つは持っている。この伝統を行わない国は、魔法が使えない人が圧倒的に多いらしいよ。」


「そうなのね。他国の事は良く解らないけど、魔法がないなんて不便じゃないのかしら?」


「うーん。どうなんだろうね?ただ言えるのは、山と海に囲まれていて他国から侵略され難いこの地と、魔法部隊という他国にはない戦力のお陰で戦争が起こり難いって事かな。いい事さ。」


「えぇ…。確かに、戦争で(・・・)国が苦しむ事は無かったわね。」


「おいおい、そう言う話はしてなかったはずだぞ?結果的に、今は(・・)とても幸せだと僕は思っているよ。─おっと、可愛い可愛い我が家の天使の手が止まっているよ?」


「あらあら。今日は、もうお腹一杯なのかしら?無理はしなくていいのよ?」


そんな両親の会話に呆然とし食事の手が完全に止まっていた。

色々と疑問に思う事の多い大人の話ではあったが、その時はそこをそんなに重要には考えていなかった。それが、今の我が家に繋がるこの国が崩壊しかけた程の大事件の話だったなんて少しも思っていなかった。


その時私の心にあったのは、


このスープ達が、本当にゲロマズで…涼しい顔で食べていると思っていたのは、私が嫌がらない様に食べさせる為の芝居だったと言う事と、「普通」を意識しすぎて空気を読んだ私がまんまとそれに乗せられていたと言う事。そして…



これが、あと2年も続くと言う「絶望」だった…


誤字脱字、矛盾や感想等 是非宜しくお願い致します。

作者は恋愛物のつもりで書いてます!

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