15
お父様とダニロの昔話は、長く続き夕飯の時間になっても終わらなかった。
ダニロさんの分の夕飯も作り、その日はジークと一緒に寝る事にした。
翌朝、目が覚めるとダニロは居なかった。
いつもより遅れてお父様が目覚め話を聞くと、私達が眠った後少ししてから取ってあった宿屋に戻ったそうだ。流石に病人がいる家だし、明かりが乏しいこの世界で夜中にも賑わうのは酒場位なもんだ。
「明日、また来る」と言い残して帰って行ったらしい。
そして昼過ぎ、ダニロがやって来た。
「リーゼちゃん、昨日はすまなかったな。」
「大丈夫ですよ。積もる話もあったでしょうから、仕方ないですよ。」
「いやはや、頭が良いとは聞いていたが気の使い方も大人顔負けだなっ!」
「うちのリーゼは本当に凄いんだ!天使だと思っている!」
「それで、今日は大荷物で…何をはじめるんですか?」
「うん。まぁ…商談だな!リーゼちゃんを交えてお仕事の話をしようと思う。」
ダニロさんはいくつも抱えた袋の中から何かと取り出してジークを呼び寄せた。
私の影に隠れながらダニロを覗き込むジーク。まだ警戒が溶けていないようだ…
「ジーク、おじさんなお父さんとお姉ちゃんに大事なお話があるんだ。お話は長くなるかもしれない、ジークにはたぶんとっても退屈になる。だから、これをあげようっ!待っていてくれるかな?」
ジークがお父様を見上げるとお父様は頷いてみせたので、ジークは恐る恐る私の影からダニロの前まで行き両手を差し出した。その両手に少し余る大きさの袋がそっと乗せられ、ジークはそれを抱えるとまたお父様を見上げ、ダニロに視線をうつした。
「…ありがとう…?あけてもいい?」
「あぁ!構わないさ!」
その声を聴いて袋をそっと床に降ろし、絞ってあった紐を解いて袋を覗き込んだ。
「……うわー!馬車!馬車だよ!!」
中から出てきたのは、良くできた小さな荷馬車と木彫りの馬だった。それと別に瓶が一つ。しかし、ジークはそれを気にも留めず馬車に夢中だ。
「お前…まだ木彫りの趣味があったのか。しかもかなり腕前があがったな…。」
「よその土地で商売をするってのは難しいもんでな。俺のこの趣味が役に立ったのさ!精巧な飾りとしての品は子供には不向きだ。触らせてもらえないからな…子供への手土産として、権力者に取り入るのには丁度いいもんだったのさ。」
この世界には、子供向けの玩具が殆ど存在しない。まず、子供があまり遊ばないし、表に出れば遊びなんて無限大にあるので無い存在の玩具を欲しがる事もない。子供向けの玩具の様なものとして、小さな木の剣や簡単な物語の本が存在しているが、学ぶ一段階前の真似事の様な物だ。
その点、ダニロの持ってきた馬車と木彫りの馬は飾り気など一切なく、それと解るギリギリのラインを責められたまさに子供向けと言っていい品で、作るのに手間こそ掛かるがわざわざ子供の為に玩具を作る人もいないので付加価値のあるお土産としては十分だ。
権力者を得る為に、まずは子供を攻める。素晴らしい発想だと思った。
「子供用か…商品としては採算は取れないが、土産としては抜群だな。」
「だろ!俺は小さい時、親父の所にあった宝石だらけのあの馬車が欲しくて欲しくてしかたなかった。もちろん、宝石が欲しかったんじゃない、馬車が欲しかったんだが…触らせてもらえなかったからなぁ」
「己の思いから生み出すか…招魂逞しいな…お前も十分リーゼと変わらない発想力だよ。」
「よせよせっ!俺のと、リーゼちゃんのは全然違うからな!」
「それで、あの瓶はなんだ?」
「あぁ、あれな。本当にちょっとだが砂糖菓子が入ってる。貴族になるならこの先見る事も多いだろうが、まぁちょっとした旅土産だよ。家族で食え。」
「ありがとうな。砂糖菓子なんて食べさせてやった事がない。きっと、カテリーナも喜ぶよ。」
ジークが嬉しそうにダニロにもう一度お礼を言った後、商売の話が始まった。
「そうか、発想としては解った…今や小麦に取って代わられた大麦を使ういい考えだ。すごい物だと思うし、売れると思う…が、弱いんだよな…」
「弱いのか?新しい品だぞ?売れるだけじゃだめなのか?」
「おいおい、貴族様よ!だからお前は計算が出来てもものにならなかったんだぞ!?計算能力は高い癖に発想が商売に向いてない!これから貴族でやってくんだからもうちっと考えろ。この先、領地を貰ったらどうするんだ?」
「国内が安定するまで領地は無いと聞いてるし、領地経営なんて俺には…」
「んじゃリーゼちゃん、何で弱いと思う?思ったことを言ってくれよ。」
ここで私に話を振るのか…
普通でいたいからこれ以上は何かをしたくないんだけどな…
私の家族たちが普通に幸せに暮らせる為ならば考えを述べるのもやぶさかでは無いんだけど…などと考えているとお父様が問いかけてきた。
「リーゼ、思った事を言っていいんだよ?リーゼの考え方はとっても素晴らしいと思っている。きっとこの先、お父さんも沢山考えなくちゃならない事が出てくるだろう。新しい貴族が簡単に皆から受け入れられるとは思えないし、幼いリーゼに頼るのもどうかと思うが助け合って生きていきたいと思ってるんだ。だから、リーゼが何か考えているならお父さんに教えてくれないか?」
ダニロさんはお父様の大事な友人だ。この先も助けを借りる事もあるだろう…
今後の為を考えれば少しならば…
「えっと、それじゃあ…弱いっていうのは、商品そのものに対してじゃないと思う。ダニロさんは、美味しい凄いって言ってくれたから、きっとみんなに受け入れて貰える。大麦は、価格も安いし主だった用途が家畜の餌だから誰かに迷惑を掛ける事もないとたぶん…そう思う。弱いの意味は、簡単だから。誰でも真似できちゃう。最初こそ売れるけど、これから商売をしていく中で主力商品にはなれないって事だと思う。」
「なるほど…そういう事も考えられるのか…」
「ほらな?リーゼちゃんの方がよっぽど商売に向いてるよ!んじゃリーゼちゃん、どうしたらいいと思う?」
「主力商品を他にする…他の商会か、そもそもレシピを販売する…後は、隠す。かな?」
「ほー。隠すか…どうやって?大麦と水で出来てるこれを隠すのは容易じゃないぞ?」
「たぶん長くは隠せない。知名度が上がれば他の商会が出てくるよね?そうなるまでは、煮詰めた薄める前の液を売る。大麦だって事はなるべく隠す。それでどっかの商会が出てきたら…そこにレシピを売るか…製法をバラシて炒った大麦だけを売る。その頃にはノウハウも出来てるから他の商会や個人より美味しいウィーティになると思うから。最初だけ…ほんのちょっと多く利益を出して、後は老舗として高級志向にすればいい。それから、材料が簡単なのは…動物を飼育すればいいと思う。」
「目くらましか!しかし、勿体なくないか?牛や馬は、結構食うぞ?」
「じゃあ、鶏がいいかな。まだ広まる前の冷やす魔法の優位性を使えば、卵のある程度の保存が出来る様になるから…卵そのものを売るか…卵の商品を開発するか…」
「卵か…面白い。ザームエル…どうだ、この子の凄さが解ったか?」
「あぁ、まさかここまでとは…どうやら、勉強を頑張らなきゃいけないのはお父さんの方だったみたいだな…貴族のマナーなんかあっという間に覚えてしまいそうだ。」
それは買いかぶりすぎだ…少し位同じ年の子に比べて物覚えはいいかもしれない。でもそれは、同じ年の子に比べ集中力があるってだけだ。貴族のマナーという未知に対して知識として学べても所作に至るまで貴族になるにはかなり骨が折れそうだ。子供の頃から貴族として生きてたお父様とは下地が違うのだ…
「俺も貴族相手のマナーを学ばないといけねーな。こりゃ大変だ。」
「ダニロさんも?」
「そりゃそうだ!これから商会を立ち上げて、リーゼお嬢様にご意見を伺わなくてはならり…ならな…なりませんから?あーまどろっこしい!俺は、平民の権力者までが管轄だったのによー!ザームエル!恨むからなっ!」
「はははっ!お前が一緒に苦労してると思えば、俺も頑張れるな!」
「よっし、じゃあまずは俺がウィーティの炒り方を学ばねーとな!俺が手足になる!お前は他の貴族に笑われ無い様に頑張れ!リーゼちゃんは思った事をどんどん教えてくれ!」
こうして、我が侯爵家が後見人となった商会「エルローゼ」が始動した。
商会名は昔お父様とダニロが立ち上げた「エルロー」、ザームエルのエル、ダニロのロを足した安易な物に私の名を足しただけの安易に安易を重ねた商会名だった…。
その名を知ったのはウィーティの販売が始まった後で…意義を唱える余地も無かった…
誤字脱字、矛盾や感想等 是非宜しくお願い致します。
作者は恋愛物のつもりで書いてます!