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ちょっと長い、今まで濁してきた歴史のお話です。
あぁ…この日か…この日は、私の生活が一変した決断をした日だ…
決断は違うか…決定事項に近かったかな…時期を見る考慮をされただけだ…
私の家族への行いが、私の家族の運命を変えた。
お母様は望んでなかった…そんな事を昔言ってた…
でも、お父様は…それでも望みを繋ぎたかったんだろう…
少しでも長く…せめて、家族の形が残る様にと…
「お父さん、おかえりなさいっ!」
「ただいま。お母さんとジークは?」
「お母さん、今日は少しは良かったみたいでいつもより長く起きてたし、御飯もいつもより食べたよ!ジークはついさっきまで起きてたんだけど、流石に寝ちゃった。今日は、最近にしては遅かったね。何かあった?」
「あぁ、ちょっとな…お母さん、少し良さそうだったのか。顔、見たかったなぁ…なかなか起きてる時間に会えないのも、ジークとあまり遊んであげられないのも…悲しい思いをさせているだろう…」
「それは、お互い様だし…だれも悪くないよ。御飯、すぐ食べる?」
「いや、先に少し話がしたい。いいかい?」
「うん?いいけど…どうしたの?」
お父様は椅子に腰かけると、一つ息を吐いて真剣な面持ちでこちらを見た。
なんだろう…お父様の顔が…少し怖く感じる…
「この三年間、色々あったな。」
「そうだね。」
「リーゼには、苦労をかけっぱなしだったな。沢山助けてもらった。ありがとう。」
「え?お父さん、どうしたの?」
「お父さん、今日少し遅かったろ?お父さんの仕事のとりまとめを行っている伯爵様に呼び出されたんだ。」
「伯爵さまに?どうして?」
「リーゼが、三年前に効果を反転させた冷やす火の魔法の事、報告を出すって言ったのを覚えているかい?あれが、ついに正式に発表される事になったんだ。」
「え?アレ?そっか…すっかり忘れてた…もう発表されてるのかと思ってた。」
「そんな簡単な話じゃなかったんだぞ?この王国が出来る遥か昔から魔法は存在していて、その頃から今までの魔法歴史で新しい事が見つかったのは数える程だ。その歴史に残る一つをリーゼは発見してしまったんだよ?大変な事だったんだ。そりゃもう、魔法院は大荒れで毎日の様に議論と研究が為されたそうだ…。簡単に言えば、冷やすという魔法をどう定義するかだな。火の魔法で反する作用を起こしたんだ…火魔法の範疇に収めるのか、新たな属性として独立させるべきか…まぁ、我々には理解できない事柄でそれはそれは揉めたそうだ。」
「そう…だったんだ…」
「人員不足もあって、なかなか研究が進まなくてな…それで三年も月日が経ってしまった。散々議論を重ねたそうだが、他に反する作用の起こす指定文は見つけられなかったそうだ。属性も、才能の蕾の問題もあって結局火属性の効果の一つとして結論に至った。中にはリーゼに合わせろという魔法師がいて極秘にはしてあったんだが中々に苦労したぞ。」
「…ごめんなさい。そんな事になってたなんて全然知らなかった。」
「教えなかったんだから当たり前だろ?それとな、リーゼの作った計算機なんだが…」
「あれがどうかしたの?…壊れちゃった?」
「いや…。実は、随分前なんだがアレが…ばれてしまってな…国で正式採用される事になってしまった…。リーゼの計算機を元により使いやすい形のモデルが作られ、多くの工房で量産体制に入ったそうだ。」
「…え?なんでそんな凄い事になってるの…?」
「リーゼ、今驚いているとこの後の話で腰を抜かすぞ?」
「まだ何かあるのっ!?」
「あの計算機のお陰で、お父さんの所だけじゃなく。王宮にある沢山の部署が効率強化できる見込みが出来たんだ。我が国の王宮だけじゃない他国も、そして国中の…いや、大陸中の商人が欲しがるだろうと言われたよ。お父さんも驚いたさ…リーゼの優しさから生まれた計算機がここまで大きな事になるなんてな…あの時お父さんはちょっと必死で…普通じゃなかったんだ…正常な判断ができなかった。すまないリーゼ。」
「いいの!いいんだけど…それで沢山の人が喜ぶならいい事なんじゃないの?」
「まぁ、そうなんだが…報奨金と使用料がもらえる事になった…」
「え?報奨金?使用料って何!?なんの??」
「報奨金は、火魔法の反作用発見に対する物と計算機の開発による物だ。魔法の方は使用料は取れないが、計算機は十年程度を目途に王国から使用料という名目で継続報酬が支払われる。」
「…ごめんなさい。ちょっと理解が追いつかない…。」
「そうだろうな…理解するのは後でいいからしっかり聞いて欲しい。まだ試算段階だが、火魔法の報奨金が金貨5000枚、計算機が金貨5000枚、使用料として毎年金貨500枚だそうだ。」
「ご…合計…金貨15000枚!?お、お父さんの今の収入っていくらだったっけ…」
「年間、金貨30枚だ。この三年は請け負い分を足して、金貨40だな。」
「平民にそんなにお金払うって…なんか、まずくないの?怖い!そんな大金、家に置いて置けないよ!!金庫!金庫買わなきゃ!!お父さん、金庫!大きいやつ!警備の人雇わないとだめかも!?どうしよう、お父さん!!」
「リーゼ、落ち着いて!まだ、話は終わってないんだ!」
「これ以上何があるのっ!?もう、心臓痛くなって来たっ!」
「解るよ…お父さんも、どうやって家に帰って来たか覚えてないんだ…」
「…。ちょっと、飲み物取ってくる…。」
私は、カラカラになった喉を潤す為に冷やしておいたウィーティを取りに台所に行った。
金貨15000枚。金貨1枚10万円位の価値がある。日本円に直すと、その額¥1,500,000,000‐。なんと、15億円。宝くじの前後賞合わせても届かない額だ。眩暈がする…。
「はい、お父さんの…。」
「ありがとう、助かる。お父さんも喉がカラカラだったんだ。」
「…」
「…」
「…」
「それで、本題なんだが…」
「はっ!?今までのは本題じゃなかったの!?」
「さっき、リーゼが言っていただろ?平民にはまずくないのかって…」
「うん。偉業だったとしても、平民にポンと国が出していい額じゃないと思う。」
「少し、この国の話をしよう。お父さんとお母さんの過去にも関わる話だ…
今の王様の前の王、前王ヤン=フェリックス・オーステル陛下は元々王位継承権第二位だった。
しかし、王位継承権第一位であったヤン=インクヴァー殿下は当時の王の政策と対立し…大きな騒動にまで発展した。結果、王位継承権第二位だったヤン=フェリックス殿下が王太子となり後継者とされた。
暫くの間は静かな国政が行われたが、陛下が崩御されヤン=フェリックス王太子が王の座について数年後に事は起こった。
ヤン=フェリックス・オーステル陛下の毒殺だ。
犯人など解り切っていた。王国中の貴族が知っていた。様々な対策がされ、警備も厳重に行われていた中の犯行だった。家臣が疑心暗鬼になり国中が荒れた。
しかし、前王ヤン=フェリックス・オーステル陛下は死の間際に一つの手を打っていた。祭事としての行いこそまだであったが、正式な手続きで当時3歳であった王子が王太子として受理されていたのだ。正式に王太子になっていたツァハリーアス殿下が三歳にして即位され、現在の王ツァハリーアス・オーステル陛下が誕生した。
だが、ヤン=インクヴァー様は王になる事ができなかったが混乱の最中、多くの味方をつける事に成功していた。
結果、国の貴族の大半が飲み込まれ…幼き王ツァハリーアス・オーステル陛下は、ヤン=インクヴァー様の傀儡となってしまった…。
そして月日が立ち、オーステル国は腐敗しきっていた。
山と海に囲まれていて他国から侵略され難いこの地と、魔法部隊という他国にはない戦力に守られたオーステル国。
ヤン=インクヴァー様は、大公という新たな地位に自分を据え国を掌握し、国防を最小限にし、民を虐げ増税を重ね、逆らうものを逆賊として処刑した。
ある時、噂が流れた。
オーステル王国の北に位置する大国ベーレンブルッフ帝国が新たな船の開発に成功したと…
民は戦慄した…
国防を最小限にしたオーステル王国は、帝国に海から攻められると…
北から山を越えるには細い谷を越え、砦を二つ越えなくては王国までたどり着けない。
しかし、海からならばどうか…新たな船がどの様な物かは解らないが既に悪政で疲弊していた民達は不安に不安を重ね、憶測に憶測を乗せ、海に近い村から順に王都方面に向かい逃げ出した。
国は正常な機能を失い、更に混乱した。
しかしその時、ツァハリーアス・オーステル陛下が立ち上がった。
傀儡となったのは上辺だけで、信頼のできる少数の家臣と共に大公ヤン=インクヴァーを国家に対する反逆者として内乱罪を適応し処刑したのだ。
そこからオーステル王国は、革新的な勢いで改変が成された。
大公ヤン=インクヴァーに組した貴族達を次々ととらえ、一族大連座が行われた。
オーステル王国は、実に半数以上もの貴族を失ったが新しい統治法を用い、準貴族と言う立場を作り人員を補充し国としての体制を保ち、現在のオーステル王国となった。
これが大まかな近年の王国の歴史だ。リーゼ、わかるかい?」
「…うん。たぶん、解った…と思う。」
「お父さんの家族は、この一族大連座で全員処刑された。もう、お父さん以外残ってない。お父さんは、お祖父ちゃんがどんどん毒されてダメになるのが許せなかったんだ…それで喧嘩をしてしまってね…どうせ、家を継ぐような立場にないし、少しばかり頭が良くても国政に関われるほどではなかったからね…家出して商人になろうとしたんだ。前にお父さんのお友達のダニロの話をしたろ?それでダニロと一緒に商売をはじめたんだ…それから数年で一族大連座だ。お父さんは、お父さんが思っていたよりもお祖父ちゃんを怒らせていたようでな…家出のつもりだったんだが、除籍になっていた…。それで連座から免れたんだ。でも、お父さんはやっぱりお祖父ちゃんの子供だし、免れたとは言え罪人の子だ。商売は信用が第一だ。ダニロに迷惑が掛かると思ってな、止めるのを振り切って逃げだしたんだ。」
「それで、お父さんは家族の話をしなかったんだね…」
「うん。その後、国からの監視がついた。除籍とはいえ罪人の子だからね、監視の名の元に王都に徴収されて今の仕事についたんだ。一年程で監視は取れた、そこからは自由だって言われたんだけどそのまま残ったんだ。その時にお母さんと出会った。お母さんも監視を付けられ、下働きをさせられてた。お母さんの家はまだあるけど、お母さんは庶子でね。本当は貴族の扱いじゃなかったんだ。だけど、ちょうど連座の前にお母さんの家は悪い方に転落しようとしてたところで…その取引材料の為にお母さんは子爵家の次女として無理やり連れていかれて、ある家の次男と婚約させられたんだ。でも、婚約中に連座が起こって…相手の家が無くなってしまったんだ。婚約中って事でお母さんは助かったんだけど…子爵家からはまた捨てられてしまったんだ。」
「酷いっ!酷すぎるっ!!!許せない!!そんな奴、家族じゃない!!」
「そうだな…。お母さんもそう思ってない…お母さんの家族は、お母さんのお母さんと我が家だけだ。でも、そんな事があったからお父さんはお母さんと出会う事が出来て、リーゼやジークが生まれたんだ。あの頃は辛かったけど、今はとっても幸せだし…家族を守りたいと思っている。」
「…うん。」
「話を続けるぞ…。まぁ、そんな流れもあって今尚この国の貴族の数は国を維持するのに必要な量に足りていないんだそうだ。国に貢献した当時の残った貴族達は、皆領地を賜り、各地を治める事に力を入れた。王都の統治は僅かな家臣を残し準貴族を雇用する事でギリギリ賄っていた。本当にギリギリで限界だったんだ。重要な仕事は爵位がないと任せられない。でも、こんな状況で爵位を新たに与える程功績をあげている人もいない。爵位を与えるって言うのは簡単な事じゃないんだ。だから、一定の評価のある準貴族に新に作った爵位を与える事になったんだ。領地を持たない統治の為の貴族、文爵と武爵だ。お父さんも、恐れ多い事に文爵のお話が来たんだ。」
「凄い!凄いよ、お父さん!!」
「あぁ、ありがとう。だけどな…、その話の後に火魔法と計算機の件が確定してな…」
「…うん?」
「それでだ……、お父さんな…子爵位を賜る事になったらしい。」
「え?えええええええええええぇぇぇぇっ!?」
終わりの鐘がから既に三刻半程経過した、この世界にでは深夜にあたる時間…
私の絶叫が世闇に響き渡り…ご近所からクレームの声が微かに聞こえた…
「シィーーー!リーゼ、静かにっ!!」
「っ!?…ごめんなさい。」
「いや、仕方ないよな…うん。本当はこんな話、リーゼにするべきか凄く悩んだんだが…家族にとって大事な話しだからな…。ごめんな。」
「ううん、いいの…私のせいもあるみたいだし…ごめんなさい。」
「謝る事は何もない!リーゼの優しさが偶然、爵位に繋がっただけだ。本当は、リーゼの手柄なのにお父さんのみたいになってしまって…申し訳ない位だ。」
「成人してないし、私は利益の為にやった訳じゃないから、いいの!」
「お父さんもそう主張したんだがな…もう決定事項で変更はできないと言われた。ただ、時期は見送れると言われた。お母さんの事があるから今爵位を賜ると、家の事をリーゼに少なからず任せる事になるし、これから貴族としての作法も学ばなくてはならくなる。とってもリーゼに負担が掛かるんだ。」
「貴族か…難しそうだね…」
「リーゼにとって、すべてが変わるくらい大きな事だ。ジークは、まだ小さい…すぐに適応できる年齢だと思う。大きくなったら平民だった頃を忘れている可能性もあるな。」
「4歳だと…そうかもしれない。」
「今貴族になると、リーゼに負担は掛かるが…お母さんに直ぐに特級の治療が可能になる。見送ると…お母さんがどうなっているか解らないからな…何とも言えないが…その…」
「貴族になるのは決定事項なんだよね?」
「そうだな、これは命令だ。絶対ならないといけない。猶予が貰えるのだってかなり特別な措置だと思う。猶予がどの程度の物なのか解らないが…1年か…2年あるのか…」
「どっちにしても、お父さんと私には負担がかかる。お母さんの治療は早い方がいいし、ジークも絶対混乱するから早い方がいいと思う。」
「そうだな…。リーゼ…いいのか?」
「お父さん…大丈夫。家族の為に…私は「普通」の貴族になり切ってみせるよ!」
誤字脱字、矛盾や感想等 是非宜しくお願い致します。
作者は恋愛物のつもりで書いてます!