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「お待たせしました。さぁ、この平民の娘を連れて行って下さい。」


「ハッ!え?…この女の子をですか…?」


ヴォルフラムが庇う様に立つ後ろに小さく見える私を覗き込み躊躇する兵士。

何か誤解を解いて、連れていかれない手は無いものか…


「そうです。その娘です。罪状は、保証金の着服そして私への貴族侮辱罪です。」


「違うっ!こいつはやってない!!」


「本当です!私は受け取っていない保証金を受け取りたいだけなのですっ!着服なんかしていません!荷物を見て貰って構いませんっ!確認してください!!」


貴族の御令息という恰好のヴォルフラムに庇われて、しっかりと主張する幼気な少女を見た兵士は明らかに困惑している様子だ。同じ図書館に勤める立場でも若干受付男性の方が立場が強そうではある。力関係が全く見えないので兵士へ主張したところで無駄なのかもしれない…どうする…


「では、失くしたのを私のせいにしようとしてるのでしょう。侮辱罪だけでも十分罪です。さぁ、連れて行って下さい!このままでは他の利用者の迷惑になります。さぁ!」


「…解りました。お嬢さん、こっちにおいで。お話を聞こうか。」


「駄目だっ!嘘を付いてるのはその男だっ!」


もっと上の人に掛け合うしかないかもしれない。

嘘つきの貴族を相手にと権力の低い兵士では分が悪い。もっと話の分かる人がいないと…


「失礼致します。差し出がましい様ですが、お話に加えて頂いても宜しいでしょうか?」


突然の声に振り返ると、利用者の一人である執事の様な衣装を着た青い髪の人の付き人が真後ろに来ていた。全く気が付かなかった。声を掛けられるまで気配を感じなかった…。


「あの…貴方は?」


「これは失礼致しました。わたくしは、チェスクッティ侯爵家御長子ヒューベルト様にお仕えしております、執事のイグナーツと申します。」


「チェスクッティ侯爵家の執事殿がどういった御用でしょうか?騒がしくしてしまった事は申し訳ありませんが、間もなく片付きます。どうぞ、御令息の元へお戻りください。」


受付男性が少々嫌そうに執事に声を掛けたが、執事は一切表情を崩す事無く一瞥して一歩引くとそこには青髪の男…少年が立っていた。

長い前髪で目が全く見えない…ヴォルフラムと同じような上等な衣装に身を包み静かに立っていた。青髪の少年の斜め後ろに陣取った執事が静かに腰を畳み、青髪の少年ヒューベルトに何かを耳打ちした。


「ヒューベルト・チェスクッティです…。兵士…よ。その男の右のポケット…ハンカチの中を調べ…て下さい。金貨が入って…います。」


「ハッ!」


「おい!やめろ!何も入ってない!!」


ヒューベルトが明らかな上位者なのか、兵士がさっと動き出し、あっという間にポケットからハンカチを取り出して1枚の金貨を取り出した。


「…」


「然るべき処置を…お願いします。皆さん…行きましょう…」


私とヴォルフラムは目を合わせて瞬いた。

突然人が割って入って、ほんの少しの間に解決してしまったのだ。

ヒューベルトが入り口に向かって歩き出し、それに執事が付き従う。その様子を見て、一瞬遅れてヴォルフラムと私は小走りに図書館を後にした。


「ヒューベルト坊ちゃま、予め時間を告げておいた馬車までは少々時間がございます。今から呼んで参りますのでお待ちください。あちらのテラスであれば門番からも見えますので大丈夫でしょう。」


「…わかった。…頼む。」


「はい、では少々お待ちくださいませ。」


執事がそう声を掛ける図書館の敷地から出て行った。


「あのっ!助けて頂いて、ありがとうございます!」


「…いい。…イグナーツが見てた…それだけ。…座る。」


ヒューベルトは人見知りなのか、口下手なのかそう言うとテラスに向かって歩き出した。

何故かそれを追いかけて、ヴォルフラムがヒューベルトより先にテラスの席についた。


「ヴォルフラム・ビッケンバーグです。覚えてい…いや、覚えておられますか?」


「…覚えてる。ビッケンバーグ辺境伯の御長男…同じ年…お父様はいない…から…普通に。」


「ならよかった。助かったよ、ヒューベルト。久しぶりだな。」


「…うん。ヴォルフラムも…相変わらずだね…」


それなりに親しそうに話し出した二人を見て驚いた。

二人が知り合いなのもそうだが、まさか辺境伯と侯爵の子とは思いもよらなかった。

せいぜい男爵の子とかその位かと思っていたので本当にビックリだ。


「ヒューベルトは、領地に戻らなかったのか?」


「ん。王都の方が…いい魔法の先生いる。から…もう少し…冬前には一度戻る…」


「そっかー。俺のとこはお母様がな~妹の新しいドレス受け取るまで帰らないの一点張りでな~。どうせ春にはまた来るのにな。他のやつらは、みーーんな領地に帰ったから暇でさー。そう、そうだ!それで、あいつが歩いてるの見て年が近そうだったし暇潰そうと思ってここに来たんだよ!」


「ふーん…ヴォルフラムが図書館にいるの…最初…見間違いかと思った…」


「だよなっ!あ!おい、お前っ!お前もこっちに座れよ!」


「は、はい!」


二人の輪に呼ばれて小走りにテラスまで近寄った。

凄い帰りたい。どういう風に振舞っていいか全然わからない。


「そうだ!あれ!あれやってくれよ!ヒューベルトは、魔法と勉強ばっかりやっててさー顔も全然動かないんだよ!アレやって驚かせてくれよ!」


そう言って奪ったままの水筒を差し出してきた。


「あの…あれは、内緒って…」


「ヒューベルト、内緒にできるよな?こいつ凄いんだよ!初級魔法しかできないのに努力してんだ!だから、俺も魔法頑張る事にしたんだ。」


「ヴォルフラムが魔法…やらないって言ってた…のに…。内緒は、得意…。…見せて。」


「あの、本当に内緒でお願いします。お父さんが、届けを出しているのでまだ人に見せたらいけないって言われているんです…。お願いします。」


「ん。…届け…新しい…魔法?…魔法は偉大。約束は、守る。見せて。」


興味を持ってしまったのか、後半には途切れる事なくスラスラと喋っていた。

魔法が好きなのか…勉強もっていってたな…それに髪…将来は、人嫌いの寡黙な魔術師かなんかになりそうだ…将来が少々心配だな…。


「本当に、お願いしますね。」


「ヒューベルト、しっかり見とけよっ!」


「炎に仕えし聖霊よ─熱を散らし冷気を与え賜え─ヒート」


「やった!」


ヴォルフラムが私の手から奪う様に水筒を取り、口を開けて飲み始めた。


「カーーッ!うめぇ!」


「指示文が…熱を散らす?どういう事?初めて聞いた。それ、どうなったの?」


「いいから、飲んでみたらわかるって!絶対うまいから!ウィーティ?って言う珍しいお茶なんだってよ!ウィーティ自体もうまいけど、この魔法でさらにうまくなるんだ!」


ヴォルフラムから水筒を受け取り、躊躇する事無く水筒に口を付けた。


「冷たい。飲みやすくて、美味しい。このお茶自体も香ばしくて飲みやすいけど、冷たい事でもっと飲みやすくなっている。何故?どうしてこうなるの?まるで、冬の川の水みたいだ。」


凄い…めっちゃ喋ってる…。


「そのあたりも含めて、お父さんがどこかに届けを出していると思うので…正式な発表までお待ちください。」


「いつ!?いつ公表されるの!?」


ヒューベルトが椅子から立ち上がって訴えかけてきた。…知らんがな。


「アハハハハ!ヒューベルト、すげー驚いてる!おもしれー!!」


「驚くに決まってる!既存の魔法で違う事をしたんだよ!?凄いことだ!」


「だろ?こいつ初級しか使えないのに努力でこうなったんだ!すげーだろ!それにこれから体力をつける努力もするんだぜ?もっとすげーだろ!!」


ヴォルフラム君や、何故君が自慢しているのかね…。そして私のそっち方面の努力は決定事項なのか…体が小さいのだから多少は仕方ないと思うんだけどな…まぁ、ちょっとは頑張ろうかなと思っていたけどさ…


「体力もつけるの?魔法で凄い事をしてるのに?」


「はい。流石にヴォルフラム様の様に剣は無理ですが、文武両道と言いますし、片方だけでなく多方面から努力する事で相乗効果も生まれるかもしれません。」


「文武両道…はじめて聞いた。相乗効果か…」


「よっし!じゃあ、木登りしようぜ!ぶんぶんりょうどうだろ?」


「いえ、私はスカートなので…ご遠慮させて下さい。」


「女は面倒だな。ヒューベルト!登ろうぜ!!」


「僕は…いいよ…」


「ぶんぶんりょうどう!!ほら、いくぞ!」


ヴォルフラムが無理やりヒューベルトの手を取り、壁際の木まで駆けて行った。

ヒューベルトと話し始めてから随分子供らしくみえる。同じ貴族の息子と言う立場同士気を許す事ができるのだろう。やっぱり子供は無邪気に見えるほうが微笑ましい。


「なんだ、ヒューベルトも木登りできるじゃんか!」


「少しなら…できる。意味ない…から…やらないだけ。」


「ぶんぶんりょうどう!!飛ぶぞっ!ターッ!!」


ヴォルフラムが木から飛び降りた。そんなに高くは無いがヒューベルトにはちょっと危ないような気がした。


「あの、無理しないでください!あぶないです!」


焦って止めに入った。


「大丈夫…出来る。文武両道、相乗効果。僕も…出来る!エイッ!!…っあ!」


飛び降りる瞬間に長い青い髪を引っかけてしまい、バランスを崩してしまった。


「「あぶないっ!」」


慌てて駆け寄ると、バツの悪そうな顔で膝を抑えるヒューベルトが地面に座っていた。


「ちょっと…失敗した。」


「大丈夫ですか?あっ!血が出てるっ!手当します!」


私は篭からハンカチを取り出し、ウォーターの魔法で湿らせ傷口を拭き、ヒールの魔法で傷口を癒した。


「ありがとう…。凄いね、三属性…使いこなせてる。ハンカチ、ごめんね。汚してしまった…。」


「大丈夫ですよ。必要な事だったので、気にしないでください。」


「洗って返す…それ、貸して。」


「え?大丈夫ですよ?」


「いいから…貸して。」


「ヒューベルトがお願いするなんて珍しいから渡してやれって!」


そう言ってヴォルフラムが私の手からハンカチを取り上げ、起き上がったヒューベルトに手渡した。

次と言われても、もう用事がないので貴族街に来る予定もないのだが…まぁ、いいか。


そんな事を考えていると馬車の音が聞こえてきた。


「ヒューベルト坊ちゃま、大変お待たせ致しました。ご自宅に戻りましょう。ヴォルフラム様もお送り致しますのでお乗り下さい。」


「いや、俺はいいです。お母様が宝石店にいるので近くですから。」


「いいえ、そういう訳には参りません。宝石店までお送り致しますので、どうぞお乗り下さい。」


「いや…でも…」


ヴォルフラムが私をチラチラと見ている。

私を気にして馬車に乗れないでいるのだろう。優しいな。いい子だな。


「ヴォルフラム様、私は大丈夫です。お気になさらずに乗って下さい。」


「そうじゃなくて!」


「ありがとうございます。ヴォルフラム様、今日はとても楽しい1日でした。ヒューベルト様、執事さん、助けて頂いてありがとうございました。それでは、失礼します。」


私はペコリと頭を下げ、振り返って来た道を走り始めた。

結構時間が掛かってしまった。頑張れば終わりの鐘までに家に帰れるだろうか?思いもよらない大冒険になってしまった。ヴォルフラムやヒューベルトとはもう二度と会う事はないだろう。でも、怖かったけど楽しかったな。


私は転ばない様に注意をしながら貴族門を目指した。



***



「あいつ…送ってやろうと思ったのに。」


「馬車…乗れたのにね…」


「準貴族、一応平民だからな。気にしたんだろ。仲間なのに…」


「ん…。悪い事した…。あの子…何処の子?…名前…何?」


「平民街から来たって言ってた。名前は…名前…アーッ!聞くの忘れたっ!!」


「ヴォルフラム…バカ…。次…いつ来るの?」


「知らねえよ!くっそう!名前聞き忘れたっ!なんてこった!!」


「もう…会えないの…?ハンカチ…どうしよう…あっ…ハンカチ。名前あるかも?」


「本当か!?ちょっと貸せっ!見てやるっ!……あ!あった!」


「「リーゼ」」


「また、会えるよな?」


「冷やす魔法…、発表ある…だから、きっと会える…」


「そっか、そしたら会いに行こうぜ!リーゼに!」


「ん…行こう…リーゼに会いに。」

誤字脱字、矛盾や感想等 是非宜しくお願い致します。

作者は恋愛物のつもりで書いてます!

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