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「じゃあ、いってきます!」


「気を付けてね!貴族の方に迷惑を掛けないようにするのよ!」


「はーい!」


真新しい篭の中には、初級魔法書と水筒、銅貨5枚の入った巾着、ハンカチが入ってる。

私の新しい小さな冒険のはじまりだ。


貴族街に一番近いと言っても、4歳位に見える6歳児の足だ。

お父様が、門までは四半刻、図書館までは半刻程と言っていたが倍は掛かると思う。マーケットまで私の足で半刻近く掛かるのを考えれば、小さなと言ったが大冒険になるかもしれないとドキドキしていた。


想定通り半刻掛かって貴族門が見えてきた。

大きな馬車が3台程並んでいる。御者の人が何かを手渡しているのが見えた。門番がそれを受け取り確認すると直ぐに出発していった。流石に貴族の入門審査は軽いのだろう。


貴族門の手前まできて左右を確認すると、右手の1本奥の通りで貴族街に入っていく帆馬車が見えた。きっとあそこが平民用の門なのだろう。


近くまで行くと先程の帆馬車がチラリと見えた。

審査を受けている様でタルの1個1個を確認しているところだった。帆馬車の少し後ろでそれを眺めるように順番を待っていると門番の兵士がこちらに気が付いて話しかけてきた。


「おい、お嬢ちゃん。そんなところにいたら危ないぞ。ここは遊び場じゃないからな。」


「いえ、ここを通りたくて並んでいたつもりだったのですが…。」


「ここは貴族街への門だぞ?それに洗礼前の子が一人で出歩いちゃだめだ。」


「あの…洗礼式は去年終わっていて…」


「むっ…そうなのか。あんまり小さいから勘違いした。すまないな。しかし、貴族街に通す事はできない。この先は簡単に入っていい場所じゃないんだ。わかるか?」


「えっと、お父さんがこの中でお仕事していて…それで図書館で本を借りてきてくれたんです。それを返却しなくちゃいけなくて…お父さんが門の人には話してあるって言っていたんです。」


「は~。しっかりした子だな。ちょっと待ってな。誰か話を聞いてるか確認をしてきてやる。でも誰も知らなかったら通してやる事はできない。いいね?」


「はい、お願いします。」


真面目そうな門番さんが詰め所の様な所に入っていった。

事情も知らないのに子供相手に邪見に扱わない姿勢はとっても好感が持てた。洗礼前と間違えたのは許してやろう。実際見えないし仕方ない。


少し壁際に寄って門番さんが戻るのを待った。


数分して先程の門番さんが詰め所から顔を出し、こちらに手招きしているのが見えた。私は小走りに駆け寄り扉の前に立って一礼した。


「失礼します。」


「こっちだ。話を聞いてるやつがいたが、ちょっと手が話せないから俺が対応する。」


「よろしくお願いします」


詰め所に入って受付のようなカウンターを抜けると廊下沿いの壁に3つ扉が並んでいた。その一つ目の扉を開けると簡素なテーブルとイスが並んでいた。取り調べ室みたいだなと思った。扉が開けっ放しなのは配慮かな?やっぱり真面目でいい人そうだ。


「じゃあ、そこに座って。荷物はテーブルの上に。」


「許可証の無い入場は検査が必要になる。悪い事をしてなきゃすぐ終わる。まず、身分証を出してくれ。そしたら篭の中身を全部テーブルに並べるんだ。できるか?」


「はい。できます。大丈夫です。」


首から下げ服の中に隠すようにしていた身分証を出し手渡してから、テーブルの上に荷物を並べた。

門番さんを見ると身分証にルーペの様な物を翳して何かを確認している様子だった。


「よし、身分証は大丈夫だな。確認するぞ、自分の名前と両親の名前、住んでいる通りを言ってくれ。」


「はい、名前はリーゼと言います。父は、ザームエル。母は、カテリーナです。平民街の北居住区3番通りに住んでいます。」


「ふむ。合ってるな。じゃあ、身分証は返そう。」


「どうもです。」


カリカリと木簡に何かを書き込む門番さんを横目に、受け取った身分証を首に掛けなおし服の中にしまった。あの身分証には何かを書いてあった様には見えない。一体どういう仕組みなんだろうか。


「要件は、図書館への本の返却だったな。」


「はい、そうです。」


「確かに貴族街図書館の印の入った本もある…他の持ち物に異常は…その水筒の中身は?」


「ウィ…何かのお茶です。図書館までは遠いからってお母さんが持たせてくれました。」


「んー…まぁいいか。それじゃあ最後に、椅子からおりてくるっとゆっくり回ってくれ。」


「はい。」


身体チェックの一環かな?椅子から降りその場でクルリと回ってみせた。


「よし、これで終わりだ。入門証を貰ってくるから少し待っててくれ。荷物、片づけていいぞ。」


そう言い残して部屋から出て行った。篭に荷物を詰めなおして出発の準備を整えた。

少しして門番さんが戻ってきた。


「入門証だ。無くすなよ?帰りに詰め所に返却するように。」


「はい、わかりました。」


「あーそうだ。貴族の方がその辺を歩いてる訳ではないが、人を見たら端によれ。回り全員が自分より身分が高いと考えて行動しろ。図書館の人間でもな。わかったか?」


「はい!ありがとうございました!」


やっぱりいい人だった。肝に銘じよう。

詰め所を出ると門番さんが見送ってくれた、少し進んで振り返ると小さく手を振っているのが見えた。私も小さく手を振り返して貴族街へと入っていった。


お父さんから聞いたのは、

「一番解りやすいのは、貴族門のある通りまで行って、中央に花壇のある交差点まで進んで左に曲がる。お店が並んでいるから道沿いに進んで一番大きな白い建物が図書館だ。」

道程はとっても簡単だ。きっと大丈夫だろう。


貴族街の建物はとても綺麗で大きかった。

平民街は木製の建物が多く目につく。基礎や一階部分が石製でも、二階以降は木製だったりする。それに比べて貴族街の建物は部分的には木製だがレンガや漆喰の様な見た目をしていて昔みたドイツの写真集のような街並みだった。


その景色に見とれつつも周りの人に気を使いながら歩道部分を進む。

大きくて綺麗な所なのに人通りはほとんどなく、路駐さてた馬車がいくつかと使用人の様な格好をした人がチラホラいる程度だった。

まぁ、貴族がうろうろ歩いている訳もないか…

景色を目に焼き付ける様に歩いていると正面に花壇のある交差点が見えてきた頃、十の鐘が鳴った。ゆっくり歩きすぎてしまった様だ。気を取り直し少し速足で交差点まで進み、左にまがった。


「一番大きい建物…一番大きい建物…全部大きいんだけど…」


一人ごちりながらも歩き続ける。迷子とは言えないが、ちょっと困った事になったなと思っていると不意に声が聞こえた。


「おい、そこのお前!」


少年の様な声がしたので辺りを見渡してみたが、横のお店にも通りに停まった馬車にも声の主がいるようには見えなかった。お店の中に見えた人影は女性だったし、馬車の横にいた御者は年配の男性だ。

気のせいかなと思い再度歩き出すとまた声が掛かった。


「そこのお前だ!白い頭のお前だよ!キョロキョロするな!上だ、上っ!」


そう言われて見上げると建物の二階の窓の手すりに捕まり、牢屋に閉じ込められた囚人のような様子で此方を見下ろしている赤い髪の少年がいた。


「えっと、私ですか?」


「そう、お前だ。見かけないやつだな。どこの者だ。」


「平民街から来ました。」


「平民か。平民にしては随分と粧し込んでいるな。何処へいく。」


「図書館に行くところです。」


「あんなとこ何が楽しい。本しかないじゃないか。」


なんか面倒なのに捕まってしまった。しかし、どうも貴族の坊ちゃんの様なので無碍にも出来ない。門番さんに優しく対応してもらった後なので余計にちゃんと対応しなくてはと考えた。


「本を返却しに行くところです。でも、本も面白いですよ?」


「お前、文字が読めるのか。平民なのに偉いな。」


「ありがとうございます。」


「誰に教わった。平民は文字が読めないと聞いた。」


「両親です。父が徴税官なので色々と教わりました。」


本当はお母様からだが納得しやすい理由で逃げようと思った。

そろそろ首が痛くなってきたし、図書館を見る時間がどんどん無くなっていく。


「なんだ、準貴族か。じゃあいいな。よし、ちょっと待ってろ!」


そう言うと顔がヒョイと引っ込んだ。

一体何がいいのだろうか…待てと言われてもなぁ…仕方ないので少しだけ待つ事にした。


お店の邪魔にならない様に、店内から見えない位置で壁際に寄った。

少し待つとお店の扉ではなく、建物の横から先程の少年がコソコソと現れた。


「待たせたなっ!見つからない様に出てくるのに時間が掛かった。」


「え?黙って出てきたんですか?大丈夫ですか?」


「お母様は、この手の店に入ると二刻は出て来ない。夢中になっているから、俺が居なくても気が付きもしないさ。そのくせ俺を連れて着たがるから困ったもんだ。」


やれやれといった様子で不満を口にした少年がクルリとこちらに背を向けて歩き出した。

それを言いに降りてきたのだろうか?と疑問に思い、立ち止まったままその背中を見ていると少年が振り返った。


「何してるんだ?行くぞ!」


「え?何処へですか?」


「図書館に決まっているじゃないか。案内してやる。さぁ、来いこっちだ。」


そう言ってまた歩き出した。

これはもしかして、面倒な事になったのかもしれない…

誤字脱字、矛盾や感想等 是非宜しくお願い致します。

作者は恋愛物のつもりで書いてます!

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