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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
四章「継承者」
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38

「報告:侵入。体内循環を確認。

胚に干渉します。成功。

励起を抑制します。成功。

逆行走査。成功。

定義式を解体します。成功。

最適化の実行を開始。

生命兆候。安定」

 ソウマは、口の中の痛みを感じながら、ソラの言葉に耳を澄ませる。

「報告:準備が完了しました。異物の除去を行って下さい」

 言葉に応じ、ソウマは、アイリスの胸を貫く。

「異物の除去を確認。

喪失した機能を確認。複製補完します。成功。

生命兆候。安定。

最適化の実行を終了。

自己診断を代理実行」

 高速で詠唱される感情のない言葉。

やがて、それらも失われ、数瞬の静寂が訪れる。

 現実か、虚構か。

意識の深層に触れ、ソラは一瞬の夢を視る。

それは、皇帝に継がれてきた彼方の記憶。

それは、美しい青の惑星が、赤く砕けていく滅びの記憶。

 何故、宇宙を漂流し続ける流浪の民が生まれたのか?

 逃れ続ける。

それが帝国の解であった。

 ソラは、理解しえない。

ただ、その光景を記録した。

「報告:施術完了しました。もう離れても問題ありません」

 そして、遂に紡がれたソラの言葉は、わずかに感情の色を窺わせた。

ソウマは、その儚い横顔を静かに覗く。

微かな呼吸の音。

静かに揺れる胸。

少女が生きている証明を確かめ、そして、優しくため息をついた。

「もう出てきても問題ないか?」

「ええ、どうにかできたようです」

 ソウマがやれやれと応えると、身を隠していたクノスが柱の影から、そっと出てきた。

「状況がわかりません」

 クノスに続くように、ティアスが姿を現し、困惑をにじませる。

「既に自壊しています。もう襲ってくることはありません。やがて気化して消えるでしょう」

 まだ一面に広がる銀の血を前に、足を竦めるクノスとティアスを安心させるように、ソウマは示す。

「一体何が起きていたんだ?」

「私の血は、純粋なものではなく、微小機械が交じっています。

それが運動、再生、循環をはじめとする身体機能を補強しています。

アイリスが行使していたものもまた、同系統の技術です。

しかしながら、その制御は不完全で限定的なものでした。

それが、アイリスが意識を奪われたことで、想定外の覚醒へと至ってしまった」

「陛下の御身に、そのような秘密があろうとはな。

既に、終わりを受け入れているようではあったが」

 クノスは、ため息をつく。

アイリスの企みを、クノスは半ば察していた。

その上で、ソウマであれば、打破できると踏んでいた。

事実、そうなった。

だが、眼前で繰り広げられた光景は想定外であった。

「意識を奪われたというのは?」

 ティアスは、ソウマの腕の中で眠るアイリスを案じながら、確かめる。

「言葉の通りです。

皇帝という存在を創り出した者たちは、備えとして安全装置を組み込んでいたようです」

「卑劣なことを」

 ティアスは、そのような勢力が帝国の中に存在していることを信じたくはない。

それでも、事実を受け入れるしかなかった。

「陛下はご無事なのですか?」

「身体的な問題に対する措置としては、私の血を経口摂取させ、それを触媒に胚の制御を最適化しました。

胚が生命を脅かすことはなくなった筈です。

精神的な問題に対する措置としては、意識を支配していた装置を除去しました。

ですので、そののうち、意識が戻るでしょう」

「感謝の言葉もありません」

 ティアスは、胸を撫で下ろし、ソウマに告げた。

「私は、私が信じたことをしている。それだけです。

地球だけでも、持て余しているくらいです。

これ以上、責務が嵩むのは、望むところではありませんから」

 アイリスが告げようとした言葉。

それを思い返し、ソウマは苦く笑った。

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