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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
四章「継承者」
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37

 侵略者は、水銀の湖を往く。

未来を見据え、歩みを進める。

波紋は折り重なり、生まれては消える。

 白銀の杜。

それは、皇帝が創造した結界に他ならない。

あらゆる干渉を否定する断絶の世界。

横溢する全てが視覚であり、触覚であり、知覚である。

故に、既に、世界は敵を認識していた。

二人の視線が交錯する。

皇帝は首を傾げるような仕草を見せ、そして、告げた。

「これより粛清を実行します。

ライブラリ検索。

攻撃方程式を構築。論理統合。

形骸を移行。

――天嵐」

 瞬間、敵意が顕現した。

水銀は剣となり、爪となり、槍となり、四方から敵を襲う。

だが、その身を捉えることはない。

軌道予測により、ソウマは既に躱している。

過ぎた刃は、跳ね水の如く、また湖面へと還る。

 静謐の攻防。

侵略者は、悠然と歩みを進める。

皇帝は、そこに在り、睥睨する。

音はなく、ただ、二人を別つように、刃が往返する。

 一歩、また一歩。

近づく度に、攻撃は、その苛烈さ、繊細さを増していく。

原始的に、或いは、幾何学的に、紡がれる暴力の軌跡。

 皇帝は伸ばされた手を払う。

拒絶を示すように、触れ合うことに怯えるように。

それでも、侵略者は歩みを止めない。

「効果を認められず。

高度な力学計算による軌道予測と推定。

ライブラリ検索。

対応を再定義。

攻撃方程式を構築。論理統合。

形骸を移行。

空間を飽和攻撃します。

――落葉」

 皇帝は機械的に言葉を音にする。

頭上の銀月が裁断され、螺旋を敷くように無数の針となり、雨となる。

 ソウマは、力強く、地を踏み込む。

水面は波打ち、鏡は歪み、大理石が如き地が剥き出しになる。

一瞬、遅れて、床は崩れ、そして、陥没隆起する。

雨は忌避するように、その軌道を歪め、水面へと還る。

 天から地へ。地から天へ。

既に、その理は捉えられていた。

水銀は、引き合うことで、その威力を実現している。

故に、地を覆う水銀を除けば、自然と狙いも外れる。

「効果を認められず。

対象の位階を累進。

ライブラリ検索。

対応を再定義。

防御方程式を構築。論理統合。

形骸を移行。

侵攻を抑制します。

――月影」

 水銀の流れが撚り集まり、皇帝の周囲を覆っていく。

空間を歪めるようにして、巨大な銀球が現れる。

高密度高質量の流体障壁。

あらゆる干渉を否定する境界。 

 だが、それでも、止められない。

侵略者は、止まらない。

 ソウマは、親指を噛み、腕を振る。

赤い血が舞い、水銀の球へと吸い込まれる。

小さな波紋が打ち、そして、収束する。

一瞬の間があり、そして、球が歪む。

 紛れた異物が、いや、純粋物が、秩序を否定する。

引力の均衡は崩壊し、制御は失われる。

 銀の月は、沈むように水面へととけた。

「論理障壁第三層まで貫通。

強制干渉を確認。

基幹式に致命的な損傷。

制御を奪還。失敗。

侵食拡大。汚染隔離」

 皇帝は、機械的に実行し、機械的に詠唱する。

そこに動揺はなく、対応は最適である。

だが、それでも、遅い。

侵略者の歩みは、揺るぎなく、そして、迷いない。

 瞳に映る瞳。

色のない少女の相貌。

ただ唇だけが微かに色づいている。

侵略者は、それを慈しむように覗く。

 やがて、二人の距離は失われていた。

 ソウマは、そっと手を伸ばし、アイリスを抱き寄せ、唇を重ねる。

アイリスは抵抗しない。

力のない人形の如く、ただ奪われた。

光のない瞳は天を仰ぎ、崩れるように身体を預ける。

一瞬、身体が小さく跳ね、一筋の涙が頬を伝う。

刃が、その胸を刺し貫いていた。

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