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「この地球に現在する文明は二つ。第一の文明は、地球上で発生し、地球人類が祖となり、創り上げてきた文明。
第二の文明は、太陽系外の古代人類を祖とし、その発達した科学技術により恒星間航行を実現し、地球を訪れた文明。
つまり、我々の文明です」
ソウマは、抑揚なく告げた。ただ事実を列挙していると示すように。
「この惑星は、貴君らの植民惑星ということか?」
「我々の目的は支配ではありません。
少なくとも、現在、この惑星を実質的に支配しているのは、地球人類です。
政治体制に介入することもなければ、科学技術を供与することもありません」
「では、何をしている? 観光か?」
「誤解を恐れずに言えば、監視です。
クノスさんは、地球人類の文明をどう評価していますか?」
「ふむ、そうだな」
「未来さんのことは気にせず、話してくれて構いません」
クノスは一瞬、未来に視線をやる。
ソウマはそれに気づき、言葉を足した。
未来もやれやれと微笑み、気を使う必要はないことを示してみせる。
「未成熟で野蛮。そう評価せざるを得ない」
「未来さん、異論はありますか?」
「妥当な評価ですね。権力者や大国の横暴、それを許す民衆。
宇宙から俯瞰されれば、どう言い繕うこともできないでしょう」
「ほう、認めるか」
クノスは、つまらなさそうに、だが蔑むように言った。
同族同士で殺し合いを続ける地球人類の姿は、宇宙を漂流する孤独な民にとって、狂気でしかない。
地球の歴史を学び、現在の世界情勢に至る経緯を理解した上でも、受け入れがたく忌むべき行いであった。
「地球を支配する大国の指導者は民衆によって選ばれます。
一方で、民衆の政治参加への意識は極めて低く、
特権階級による地位の独占を黙認しているのが現実です。
それを無視して、善良な地球人類もいるなどと申し開きをしても虚しいだけです」
未来は告げると、ティーカップに口をつけ、それから、ため息をついた。
誰もが愚かだと知っていることをやめられない地球人類の姿は、宇宙からの来訪者にどのように映るだろうか?
言うまでもない。滑稽で醜悪に視えるだろう。
そして、自身も例外ではなく、侮蔑と嘲笑の対象である。
そう考えれば、未来の気が滅入るのも仕方のないことだ。
「形だけの共和制は、最も堕落し腐敗した政治形態と呼ぶに相応しい。
権力者は民衆に、民衆は権力者に責任を転嫁し、己を省みることなく、状況は悪化し続ける。
その先に待つのは破滅だ」
クノスの属するリムスベルト帝国は君主制であるが、一方で、権力の腐敗は存在しない。
それは君主をはじめとした指導者の高い倫理観と緻密に整備された法制度に依るものである。
「我々の認識も概ね同様です。ですので、破滅に向かわんとする地球人類を影で支えているわけです。
とはいえ、それは積極的なものではなく、消極的なものです。
致命的なことをやらかしそうな時に、それを止めに入る。
或いは、正しい未来に向かうための導線をそれとなく示す。
いずれにせよ、あれをしろ、これをしろと、そういったことはしていません」
「気の長い話だ。だが、地球人類と貴君らの関係性は理解できた。感謝する」
「どういたしまして、では、話を進めましょう」