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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
四章「継承者」
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「ぐっ!」

 即座に痛覚の一部が遮断される。

流出した血液内の微小機械が凝固し、欠損した機能を補完。

身体の健全性を維持する。

 深い切創。

普通の地球人類であれば、行動に支障を来す。

だが、ソウマは、そうではない。

この程度の損傷であれば問題ならない。

 交錯の瞬間、ソウマが気遣ったのは自身の身体ではない。

敢えて攻撃を受けることで、放った一撃の威力を殺そうとまで試みた。

だが、それでも、止めきれなかった。

槍は振り抜かれ、アイリスの身体を裂いた。

 致命傷ではないだろう。

だが、浅くはない。

確かな、手応えがあった。

「どうした、表情が硬いぞ?

安心しろ。この程度では死ねぬよ」

 アイリスは、平然と告げた。

その構えに、その立ち姿に、揺らぎはない。

だが、真にソウマを驚かせたのは、その異様ではない。

アイリスの脇腹から滲む銀色の血であった。

「帝国の民の血は、地球人類と同じく赤い。

だが、皇帝のそれは、唯一異なる」

 アイリスは、悠然と言葉を接ぐ。

「宇宙を漂流し続ける中で、帝国が生きた文明と出会うことはなかった。

だが、文明の痕跡や遺産を発見することはあった。

これは、そういうことだ」

「想定外のことは起こるものですね」

 ソウマは平静を装い、穏やかに答えた。

だが、仮面の下に隠した表情は険しい。

「代々の皇帝は、帝国を負う者の責務として、この過ぎた力を継いできた。

知る者は多くはないがな」

 ティアスは、アイリスの言葉に驚きを隠せない。

語られたのは、皇帝に近い立場にある親衛隊でさえ知り得ない帝国の秘であった。

「地球での戦闘映像を観て、すぐに確信した。

卿と余は、その身に同じ血を宿しているとな。

そして、その力を完全に御し得ていることも解った。

正に、運命だ」

「わかりませんね。

それが戦うための言い訳になるのですか?」

 ソウマは、やれやれと言葉を返した。

「余は論理的だ。

少なくとも、そのつもりではいる。

理解はされないかもしれないがな。

なに、すぐにわかることだ

それに、止めることもできぬ」

 アイリスは、口元を歪め、嘲る。

胸元を抑え。

その身を呪う。

「さて、退屈な話はここまでだ。

今は、ただ純粋に刃を交える時よ」

 アイリスは、ゆらりと儀仗を構える。

「手心は不要だと、解ったであろう?

さぁ、相対し、仕合おうぞ。

でなければ、守るべき者も守れぬぞ。

さぁ、打ち祓ってみせよ」

 アイリスは、挑発するように、わざとらしく臣下を一瞥する。

胸の疼きを抑え、そして、ソウマを見据えた。

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