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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
四章「継承者」
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33

 問いかけられる状況ではなかった。

「くっ!?」

 アイリスの攻撃は熾烈を極めた。

振りかざされる儀仗の速度は、常人のそれではない。

その威風を纏った立ち姿に、車椅子に座っていた少女の面影はない。

「皇帝は飾り物ではない。

余こそ帝国が誇る最大の抑止力。

決戦存在としてつくられた兵器よ」

 皇帝は睥睨し、昂然と告げる。

真白いドレスを纏い、燦爛と輝く儀仗を携える姿は、神々しくさえもある。

「怯え続ける者共が、縋る先を求めた結果でしかないと蔑んでいた。

だが、ここに至っては、全く無意味と笑えなくなった。

時に、個の力が求められることもあるということか。わからんものだな」

 ソウマは、手首を強く噛み、身体の中に封印していた武装を漏出させる。

深紅から白銀へ。

滴り落ちる雫の色相が本来のものへと還る。

血液の中に混ざり擬態していた流体金属が顕になっていく。

ソウマが腕を軽く振ると、既に掌には一条の武器が形を成していた。

「地球で機動装甲を穿った槍か。

なるほど、そのようなこともできるのか。

素晴らしいな」

 アイリスは、言いながら跳びかかる。

スカートを翻し、儀仗を振りぬく。

ソウマは引かず、踏み込んで受ける。

儀仗と銀槍が交錯し、光が散る。

「ようやく、その気になったか。嬉しいぞ」

「このままでは、話になりませんからね」

「では、なんとする?」

「そうですね。組み伏せた上で、話をしてもらいましょうか」

「魅力的な提案ではないか。

だが、そうやすやすとは叶わぬぞ」

 アイリスは、儀仗を握る手に力を入れた。

 ソウマの身体の性能は地球人類のそれではない。

汎人類種として規定されうる生物が相手であれば、圧倒できる筈である。

だが、そうはなっていない。

鍔迫り合いは、拮抗していた。

ソウマは、手を抜いてはいない。

ただ、アイリスの膂力は、ソウマの力に迫るものだった。

「車椅子は必要なかったのではないでしょうか?」

「そうか? 体調はすこぶる最悪だぞ? 今にも、倒れてしまいそうだ」

 訝しんでみせるソウマに、アイリスは悪戯っぽく微笑んでみせる。

ソウマは、ふと腕の力を緩め、アイリスの姿勢を崩しにかかる。

だが、崩れない。

アイリスは、合せるように腕を引き、ソウマの首元を狙う。

ソウマは、躱しながら、アイリスの手首を払わんとする。

一つ、二つ、三つ。

一瞬、刹那の攻防。

白い軌跡が衝突し、華を散らす。

軽やかな足捌き。

互いの視線を重ねながら、二人は踊る。

手が触れ合うことはない。

刃の結界が許さない。

 ソウマは、距離を取り、仕切りなおそうと、重心を意識する。

だが、アイリスは、それを読んでいた。

ソウマの判断を咎めるように踏み込み、追い込む。

 流れるように、儀仗が振り放たれる。

その鋭さに、ソウマは咄嗟に反応してしまった。

心の中で叫ぶが、止まらない。

 互いの刃が、互いの身体を貫き、銀の血が舞った。

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