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「遠路はるばるよく来た。歓迎するぞ」
「再びお会いすることができ嬉しく思います」
ソウマとアイリスは、軽やかに言葉を交わした。
そこで時は止まる。
響いた麗句はすぐに失せ、静寂が訪れる。
口元の笑みににじむのは、遂に至った現在への感慨であり、或いは、諦め、呆れであった。
遂に対峙した二人は、数瞬、ただ視線を交わし、そして、結末へと一歩を踏み出した。
「卿は、帝国に何を望む? 何を求める? 何を強いる?」
「何も」
「で、あろうな」
アイリスは、わかりやすくため息をつくように告げ、言葉を接ぐ。
「だが、それは最も残酷な選択肢だ」
「そういうつもりはないのですが」
「つもりはなくとも、そうなのだ。
力があるのであれば、腕を引き導けばいい。
だが、卿らはそうはしない。
女々しくも我らが傅くのを待っている。
つまるところ責任を取りたくないのだろう?」
「なるほど、そうかもしれません」
ソウマは、頷く。
アイリスの言葉は的を射ていた。
これまで主導的な対応ができなかったのは、帝国の未来に責任を持てなかったからである。
帝都に侵攻するという判断も、ただ時計の針を進めるために、舵を切ったに過ぎない。
クノスを救出するという名目の先に、何らかの思惑があったわけではない。
省みれば、帝国に選択を迫るというだけの、おざなりで、卑怯なやり方であった。
事ここに至っては、命じるべきなのかもしれない。
だが、それでも、ソウマは、選ぶことを選ばない。
「謙遜は支配者の美徳ではない」
「胸に刻みます。
次があれば、少しだけ参考にさせて頂きます」
困ったように笑い、ソウマは応えた。
「卿が、真に侵略者然としていれば、他に道もあったのだろうがな。
だが、だからこそ」
アイリスは、責めるように、だが、慈しむように、言葉を抑えた。
この不毛な問答を続けられないことが惜しくあった。
だが、時間は多く残されているわけではない。
「ティアス、前に出よ」
「はい」
突然、名を呼ばれたことに一瞬驚きながらも、ティアスは確かに応じ、足を踏み出す。
「よくやった」
アイリスは告げ、そして、微笑んだ。
その醜い笑みを覗けるものはいない。
「えっ?」
アイリスはゆらりと立ち上がり、そして、跳んだ。
放たれた刃は、ティアスの首へと吸い込まれた。




