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天狼弓と赫狼が誘導され、降下したのは、皇宮の中庭の一画であった。
整然とした緑の庭園にある石造りの舞台を止まり木に機体は眠りについた。
ソウマとティアスが機体を降りると、そこには憶えのある女官が待ち構えており、恭しく礼をした。
「ご案内します。こちらへ」
女官を先頭に、ソウマ、クノス、ティアスが続く。
中庭を巡るように、長い回廊を歩き、屋内へと入り、階段を昇り、また歩いた。
朽ち果ててはいない。
だが、遺跡にあるような静謐な空気がそこにはあった。
天井は高く、廊下は広い。
縦横に開けた空間に、硬質な足音が刻むように響いている。
灯りは少なく、それ故に、差し込む光が描く陰影は、より精緻に輪郭を強調する。
絵画が連なるように世界があった。
やがて、巨大な門の如き扉が現れ、女官が立ち止まると、一行も同じく足を止めた。
扉を仰いだソウマは、憶えのある紋章が刻まれていることに気づく。
それは以前、アイリスと相対した時に目にした記憶であり、ここで帝国皇帝が待っていることを察した。
「中で陛下がお待ちです」
「私は」
ティアスは、自身が続くべきか、続いてもいいのか、判断できない。
判断する立場にない。
「行きましょう」
ソウマに促され、ティアスは顔を上げる。
「構いませんね?」
「お入り下さい。陛下は存じ上げております」
クノスは、何も言わなかった。
扉は音もなく軽やかに水が流れるように開き、ソウマを先頭に一行は足を踏み入れた。
伽藍か、或いは、聖堂か。
そこに現れたのは、寺社、或いは、教会と称される巨大な神殿が如きを連想させる空間だった。
仰ぐ天は高みにあり、正対する玉座は遥か遠い。
天窓から射す光が薄闇に円を穿ち、林立する巨大な石柱に刻まれた精緻な彫刻を確かにする。
雄大かつ壮麗。
遠近感を狂わせる常軌を逸する巨大構造。
それは踏み入れたものを圧倒する聖域であった。
歩き、そして、歩く。
遠くあった玉座が近づいてくる。
そこに座す者の姿が確かになっていく。
帝国に君臨する孤高なる少女。
皇帝という存在がそこにはあった。




