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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
四章「継承者」
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27

「例えば、保守を自称しながら、革新的な政策を推し進めるというのは、民衆を欺くのに実に有効な手段だとは思わないか?」

「さて、何のことですかな? 我ら中庸派は、帝国に均衡をもたらすべく、尽力してきた保守勢力です。

時に、行き過ぎた伝統派を諌めることはありますが、革新的な政策を推し進めるなど、夢にも思いません」

「卿らが革新勢力であるなどとは夢にも思っておらん。先の論旨は仮面だ」

 アイリスは、ベールの奥で口元を歪める。

「仮面ですか?」

「仮面を被り、立場を偽り、衆愚を味方にし、抵抗する勢力に混乱をもたらし、己の望みを叶えていく。

結局のところ、卿らは中立的な立場を利用し、伝統派を批判の盾にしながら、帝国を傾けてきた。

中庸派を称する者が、伝統派をも凌駕する排他的な帝国至上主義者であろうなどと、笑い話にもならぬよな?」

「我らを高く評価して頂き光栄に存じます。

しかしながら、いささか飛躍が過ぎるのではありませんか?」

「この期に及んで、つまらぬ申し開きは興が醒めるぞ?

結果が示しておるわ。

中庸派は、伝統派の保守的な政策を諌めるどころか、その背を押している」

「それは――」

「咎めるつもりはない。

これまでそうしてきたような」

 アイリスは、遮るように凛然と放ち、言葉を続ける。

「何故、余が卿らを見逃してきたかわかるか?

あまりに下らぬからよ。

いや、余だけではない。

先代の皇帝も、先々代の皇帝も、看破した上で放置していた。

皇帝がその威を以って、介入するに相応ではない。

それだけのことよ。

卿らは掌の上で踊る哀れな道化に過ぎぬ。

いや、それ以下だ」

「我らは帝国のために、この身を捧げて参りました」

 イルカーツは表情を崩さない。

だが、眼球は踊り、鼓動は暴れていた。

「いかなる時代、いかなる場所においても、私腹を肥やさんとする者は絶えぬ。

そういった者は、決まって大義を騙り、隠れ蓑にするものだが、正に笑止。

卿らの優雅な暮らしぶりは、少なからず承知しておる。

余も言えたことではないがな」

 皇帝とは言え、若輩。

そう侮っていた者に、一方的に叱責され、言葉を返すことができない。

矜持が砕かれていく。

足元が歪んでいく。

だが、どうしようもない。

イルカーツは、思い知っていた。

皇帝とは、皇帝なのだということを。

「閉じられた世界で連綿と続けられる無益で矮小な権力闘争。

砂場で右に左に、砂を取り合うのと変わりはしない。

無邪気なものだ。

そこに何の意味がある?

何を躍起になることがある?」

 そして、アイリスは触れる。

帝国の汚点。

その成立に纏わる禁忌に。

「余には、わからぬ。

この悠久に続く漂流の中にあって、何を求めるというのか?

哀れに逃れてきた過去を覆い隠し、何を誇ろうというのか?」

「陛下!」

 イルカーツは、はっとし、喉を震わせた。

荒げた声がわずかに響き、そして、失われる。

「それは、口にしてはならぬこと」

「下らぬ。

穢れを隠さねば、愛せないとは情けない。

そのようなものは愛ではない。

いや、そも愛しておらぬから、隠すのか」

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