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「クノスは合流ができたようだな」
アイリスは、帝都の地表に建立された皇宮と称される巨大な宮殿から、領宙で繰り広げられた戦闘の様子を窺っていた。
「既に、外殻ゲートの解放を確認しております。
間もなく、帝都の空に入り、その後、皇宮に誘導されるでしょう」
「うむ、予定通りであるな。
この期に及んで、仕掛けてくることは想定外であったが、
臣民に向けての良い演出になった」
拒絶する者、迎え入れる者、傍観する者。
先に再現された状況は、鬩ぎ合う派閥の懊悩を示すものであった。
それぞれの勢力に理解を示す者がいることは自明であり、また思想自体を責めることはできない。
だが、拒絶する者は、実力行使に出たことにより、その大義を穢した。
襲撃を受けた来訪者の窮地を迎え入れる者が救い、手を携え共に戦う姿は否応なく美しく、多くの者の心を動かしたことだろう。
変革を歓迎する世論の形成こそ、アイリスの望むところであり、襲撃は正に都合のいい愚者の選択であった。
「さて、こちらも、やるべきことをやっておかねばな」
アイリスは、謁見の間に、招いた者が現れたことに気づき、ため息をつくようにつぶやいた。
招いたのは誰あろう自身であるが、会いたかったわけではない。
ただ、やっておかなければならないことではあった。
「只今、罷り越しました」
「うむ、よくきた」
アイリスは、恭しく膝をつき、頭を垂れる老年の男性に言葉を返した。
視線の先、言葉の先。
そこには中庸派と称される派閥の長、イルカーツの姿があった。
「皇帝陛下の心中をお騒がせし――」
「枕詞はよい。悠長に話している状況でもなかろ?」
アイリスは、イルカーツの言葉を遮り、言葉を接ぐ。
「何故、あのようなことをした?」
「あのようなこととは?」
「そうさな、糾すべきは数多あるが、
最も重大なものは、卿らが断行した質量兵器による地球攻撃計画。
次いで、先の襲撃であろう」
「証拠は、あるのでしょうな」
イルカーツは、一瞬だけ動揺し、それから諦めたように瞳を瞑った。
「言うまでもなかろう?」
「流石は、アイリスフィア陛下です。これまでの皇帝とは違うということですな」
イルカーツは、言いながら、ゆっくりと立ち上がり、対峙するようにアイリスと向き合った。
「貴様、不敬であろう!」
「よい」
傍に控えていた女官が声を上げるが、アイリスは気にも留めない。
上から一方的に責めるより、寧ろ、やりやすいと感じた。




