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「お口に合いますか?」
クノスの唇がティーカップから離れると、少女はすかさず、声をかけた。
「問題ない」
口から鼻に抜ける芳醇な花の香りに、クノスは静かにため息をついた。
とても美味しいと感じていたが、それを素直に口に出したりはしない。
侮られてはならない。
「では、はじめますか?」
「そうですね。では、まずは自己紹介から」
少女が目配せすると、男は静かに頷き、そう応えた。
「私は、望月未来と言います。大鳥学園の生徒です」
「蒼祠零です。私に関しては、追って詳しく説明をいたしますが、
貴方が対峙するに足る存在であることはお約束させて頂きます」
「ソウマと言ったな。いつから気づいていた?」
「最初からです。ですので、予定を変えて、こちらに降りて貰いました」
「なるほど、あれは貴君らの工作だったということか」
未確認構造体の接近による軌道の修正。降下目標地点の変更。クノスは思い至り、苦く笑う。
「はい、他の場所に降りられると、色々と面倒だったもので」
「この期に及んで、とぼけても意味がないようだ。認めよう。リムスベルト帝国特別審判官クノスだ」
「リムスベルト帝国ですか?」
未来は聞き覚えのない国名に首を傾げる。
「彼女には、貴方をこの場所にお連れするようにお願いしただけで、何も話してはいません。
つまるところ、何も知らない地球人類の代表として、ここにいるということです」
未来は微笑みを崩さず、ソウマを睨みつけ、不服を訴える。
「帝国の存在は機密ということか、理解はできる。だが、それなら、そもミライを同席させるべきではないのではないか?」
「先に言った通りです。何も知らない地球人類の代表だと」
「地球人類の流儀ということか? それなら私が口を挟むことではないが」
クノスは釈然としないが、敢えて、抗弁するような話でもないので、深く追求はしない。
「そうですね。誤解があるようですので、まずは説明をさせて頂きます。
単純な話ですので、すぐに理解して頂けると思います」
「聞こう」
クノスの態度は尊大であった。だが、それは国家の代表として、この場に臨んでいることの表れであり、
同時に、ただ尊大なだけではなく、そこには優雅さと敬意が伴われていた。
それ故に、状況を理解していない未来であっても不快感を覚えることはなかった。
「リムスベルト帝国、或いは、特別審判官である貴方が下した地球人類の文明に対する評価ですが、修正の必要はありません」
「異な事を、であれば、何故、私がここに招かれ、貴君と話をしているのか説明がつかないが」
ソウマは、やや困ったような笑顔をつくり、クノスに敵意がないことを示した上で、告げた。
「私は、地球人類の代理人ではありません」
「つまり――いや、まさか、そういうことか」
クノスの表情から一瞬で余裕が消え失せる。
その可能性に考え至り、クノスは、ソウマと未来、未来とソウマ、視線を彷徨わせる。
「この地球には、二つの全く異なる文明が存在しています」




