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「ところで、私の部下はどうしている?」
「こ、ここにおります」
クノスの問いかけに、じっと息をひそめていたティアスが応えた。
「壮健であったか?」
一瞬、驚いたが、すぐに我に返り、クノスは静かに問いかける。
「はい、その」
「置き去りにしたことを謝罪しなければならないな」
「いえ、最適な判断であったと考えます」
「そうか」
クノスは、柔らかくため息をつくように応え、そして、ソウマを睨むように、視線をやった。
「何もしていないだろうな?」
「おや、部下を置いていくという判断をされたのは、
私を信頼していたからこそ、ではないのですか?」
「それでも、部下の身を案じるのは責務だ」
「もちろん、帝国の客人として、然るべき待遇でおもてなしをさせて頂きました」
「自由を制限されるようなことや、発言を強制されるようなことはありませんでした。
快適な住環境を提供され――」
「そういうことではない。そんなことは解っている」
かばうように補足するティアスの言葉を、クノスはやれやれと遮り、それから、質した。
「ソウマを信頼できるか?」
「はい」
ティアスは、まっすぐと、そして、はっきりと答えた。
「なるほど、それなりに親しくなったようだな。喜ばしいことだ」
「そ、そのようなことは」
たじろぐティアスに、クノスは深くため息をつくしかなかった。
「まあ、それはいい。
良くはないが、それよりもだ」
クノスは、眼下の巨大都市船に視線をやる。
透過式ドームの外殻は走り抜けるように、そして、地表に俯瞰される自然はただ穏やかに。
それぞれの位相を示すように光景が異なる速度で流れていく。
「帝都は、貴公に、どう映る?」
「ただ、尊く美しいと」
漆黒の闇の中にある緑の大地。
それは巨大なスクリーンに映し出された幻影のようでさえあった。
余りに儚く、現実であることを疑わせる。
「そうか、安心した」
クノスは、ソウマの答えに、頷いた。
誇らしくもあった。
「帝都は我らの故郷であり、母でもある。
理解してくれとまでは言わない。
ただ、それを尊重して欲しいのだ」
「わかりました」
ソウマは、理解していた。
この光景を望んでいるだけで、涙が零れそうになる。
そこに理由はない。
原初の記憶がそうさせるのかもしれない。
慈しみたいという気持ちを、静かに胸に秘し、そして、遥か彼方にある地球を想った。
「地球にいた時に、帰りたくはなりませんでしたか?」
「そうだな。否定はしない。
地球の自然環境は素晴らしいものであったが、それでもな」
「ええ、わかります」
ソウマは、小さく頷く。
「ソウマも、同じか。
だが、そう急くな。
ゆっくりしていけ。どうせ暇だろう」
「はは」
クノスの言葉に、ソウマは口元を歪めるしかない。
自身が一体どのように映っていたのか、不安になる。




