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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
四章「継承者」
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「久しいな」

「ええ、そうですね」

 クノスは、つまらなさそうにつぶやいたが、感情を隠しているだけである。

ソウマも、わかっている。

だから、すました様子で自然に応じてみせた。

地球で過ごしていた時のように。

「困りましたね」

「何がだ?」

「クノスを助けに来たつもりだったのですが」

 ソウマは、からかうように告げる。

「私を助けに? そのようなことは、言っていなかった気がするがな」

「宣言して欲しかったですか?」

「なるほど、それは、ぞっとしないな」

 先の宣戦布告の中で、自身が名指しされていたら、どうなっていただろうか?

一瞬、そんな光景を夢想しただけで、クノスは眩暈を覚えた。

「さて、おしゃべりに興じていたいところだが、まずは離れるぞ」

 既に、戦況は覆っている。

赫狼が前衛の三機を、そして、天狼弓が後衛の二機を、行動不能へと追いやり、襲撃部隊の残機は三。

数的有利ではあるが、それは戦力的優位を意味しない。

赫狼と天狼弓、そして、襲撃部隊の機動装甲は、互いに牽制を続けている。

だが、その相対距離は、徐々に開き始めていた。

「行くぞ。追ってくることはあるまい」

 膠着を打破するように、天狼弓が加速し、赫狼も続く。

襲撃部隊の機動装甲も、それに呼応するように、背を向けた。

追撃はない。

 天狼弓と赫狼は、衛星の如き軌道で帝都へと、ゆっくりと近づいていく。

「ここからは、私が案内しよう」

 言いながら、クノスは天狼弓の速度をゆるめる。

「助かります。拘束されていると聞きましたが」

「ああ、そういうことになっていたな。

私は、この通りだ。裁かれる予定もない。

不服か?」

「いえいえ、そのようなことは」

 ソウマは、なだめるように否定する。

とはいえ、動機の一つを失ったことは事実であった。

「まさか、陛下の悪ふざけが功を奏したということか?」

 クノスは、自身の言葉に、はっとする。

自惚れが過ぎると、考えることさえ、否定していた。

「助けに来た」

ソウマは、確かに、そう言葉にした。

聴こえてはいたが、考えることをしなかった。

だが、振り返り、思い知り、愕然とする。

「全く、なんと愚かなのだ」

 クノスは、自身に告げた。

「耳が痛いですね」

 ソウマも、また思い知らされていた。

クノスの自由は、アイリスの嘘の証明に他ならない。

掌の上で踊らされること、それ自体が問題なのではない。

問題は、掌が何を求めているのか、わからないことである。

「とは言えだ。

感謝はしておく。

そうしておくべきなのだろう」

 ソウマとしては、苦く笑うしかない。

助けていないのだから、感謝されることもない。

そう考えていただけに、困ってしまう。

 クノスのしおらしさが、どうにもいたたまれない。

一方で、わかりやすく悩む様子は、微笑ましくも感じられた。

「どういたしまして」

 結局、選択肢の中から、ソウマが選んだのは、そんな応えだった。

気の利いていない、気の利いた言葉は、クノスの懊悩をため息に変えた。

「それに、今後の状況如何によっては、軍事法廷に召喚されないとは言い切れない。

その時はその時で、どうにかするしかないが」

「亡命をご希望であれば、いつでもお申しつけ下さい」

「軽々に危ういことを。

とはいえ、何もかも、今更ではあるか」

 この状況の発端が自身にあると言われれば、クノスは否定できない。

地球に降りたことで、現在の状況へと至っていることは、事実である。

裁かれたとしても後悔はない。

責任を認めている。

だからこそ、クノスはここにいる。

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