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「久しいな」
「ええ、そうですね」
クノスは、つまらなさそうにつぶやいたが、感情を隠しているだけである。
ソウマも、わかっている。
だから、すました様子で自然に応じてみせた。
地球で過ごしていた時のように。
「困りましたね」
「何がだ?」
「クノスを助けに来たつもりだったのですが」
ソウマは、からかうように告げる。
「私を助けに? そのようなことは、言っていなかった気がするがな」
「宣言して欲しかったですか?」
「なるほど、それは、ぞっとしないな」
先の宣戦布告の中で、自身が名指しされていたら、どうなっていただろうか?
一瞬、そんな光景を夢想しただけで、クノスは眩暈を覚えた。
「さて、おしゃべりに興じていたいところだが、まずは離れるぞ」
既に、戦況は覆っている。
赫狼が前衛の三機を、そして、天狼弓が後衛の二機を、行動不能へと追いやり、襲撃部隊の残機は三。
数的有利ではあるが、それは戦力的優位を意味しない。
赫狼と天狼弓、そして、襲撃部隊の機動装甲は、互いに牽制を続けている。
だが、その相対距離は、徐々に開き始めていた。
「行くぞ。追ってくることはあるまい」
膠着を打破するように、天狼弓が加速し、赫狼も続く。
襲撃部隊の機動装甲も、それに呼応するように、背を向けた。
追撃はない。
天狼弓と赫狼は、衛星の如き軌道で帝都へと、ゆっくりと近づいていく。
「ここからは、私が案内しよう」
言いながら、クノスは天狼弓の速度をゆるめる。
「助かります。拘束されていると聞きましたが」
「ああ、そういうことになっていたな。
私は、この通りだ。裁かれる予定もない。
不服か?」
「いえいえ、そのようなことは」
ソウマは、なだめるように否定する。
とはいえ、動機の一つを失ったことは事実であった。
「まさか、陛下の悪ふざけが功を奏したということか?」
クノスは、自身の言葉に、はっとする。
自惚れが過ぎると、考えることさえ、否定していた。
「助けに来た」
ソウマは、確かに、そう言葉にした。
聴こえてはいたが、考えることをしなかった。
だが、振り返り、思い知り、愕然とする。
「全く、なんと愚かなのだ」
クノスは、自身に告げた。
「耳が痛いですね」
ソウマも、また思い知らされていた。
クノスの自由は、アイリスの嘘の証明に他ならない。
掌の上で踊らされること、それ自体が問題なのではない。
問題は、掌が何を求めているのか、わからないことである。
「とは言えだ。
感謝はしておく。
そうしておくべきなのだろう」
ソウマとしては、苦く笑うしかない。
助けていないのだから、感謝されることもない。
そう考えていただけに、困ってしまう。
クノスのしおらしさが、どうにもいたたまれない。
一方で、わかりやすく悩む様子は、微笑ましくも感じられた。
「どういたしまして」
結局、選択肢の中から、ソウマが選んだのは、そんな応えだった。
気の利いていない、気の利いた言葉は、クノスの懊悩をため息に変えた。
「それに、今後の状況如何によっては、軍事法廷に召喚されないとは言い切れない。
その時はその時で、どうにかするしかないが」
「亡命をご希望であれば、いつでもお申しつけ下さい」
「軽々に危ういことを。
とはいえ、何もかも、今更ではあるか」
この状況の発端が自身にあると言われれば、クノスは否定できない。
地球に降りたことで、現在の状況へと至っていることは、事実である。
裁かれたとしても後悔はない。
責任を認めている。
だからこそ、クノスはここにいる。




