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「数は一。間もなく、戦域に到達します」
「速いな」
ソウマは、展開した情報窓を一瞥し、眉を顰める。
不明機は帝都を大きく周回するように加速しながら、戦域に迫っている。
その速度は、これまでに遭遇した帝国の機動装甲の性能を明らかに凌駕していた。
「狙いは、交戦中の部隊を囮にした強襲ということか?」
「ですが、連携を取っているような動きでは」
ティアスの言葉は、的を射ていた。
赫狼を追う機動装甲の動きには、余裕が感じられない。
ただ、眼前の敵を追い込むことに必死であるようだった。
不明機の接近に合わせて、距離を取る気配もない。
「囮であることを意識させないために、そうしているのであれば大したものですが」
「報告:不明機から質量体を投射」
「報告:不明機から通信応答要請」
「つなげ」
続けざまに響いた言葉に、ソウマは即座に反応した。
「うまく合わせろ」
通信窓が開き、ソウマは顰めていた表情を緩めた。
そこには、見知った顔があり、見知った声が告げていた。
同時に送られてきた情報には、投射された兵器が如何なるものであるかを教えていた。
「警告:間もなく、弾頭が予告座標に到達。カウント」
「全く、お誂え向きのお土産ですね」
ソウマは、回避行動を選ばなかった。
交戦中の機動装甲部隊を引きつけ、爆心へと誘い込む。
「警告:起爆。電磁矩形波広域拡散」
瞬間、不可視の波が駆け抜けた。
衝撃はない。
不明機が投射したものは、電磁パルス兵器である。
爆薬発電によって生成された強力な電磁波は、有効範囲に存在する電子機器に障害をもたらす。
赫狼に異常はない。
だが、帝国の機動装甲は、そうではなかった。
電磁パルス兵器への対策は施されており、行動不能にまで陥った機体は存在しない。
だが、制御システムの再起動、そして、自己診断にリソースは奪われる。
それは、瞬きをするほどの時間であった。
常ならば、意識もされない一瞬。
そんな、わずかな暗転。
だが、高速戦闘の最中において、それは永遠であった。
連続する時間の中で、一瞬であっても、制御を失えば、致命的な欠落へと連鎖する。
赫狼は、喰らいついた。
その隙を見逃せるほど、ソウマは甘くはない。
「まずは一機」
言葉に応えるように、赫狼は加速する。
すれ違いざまに振り抜かれた打槍が機動装甲の脚を砕き潰す。
「次!」
赫狼は踊るように四肢を捻り、その軌道を流れるよう導く。
崩れた姿勢を立て直しながら加速する機動装甲の上を取り、その背に襲いかかる。
後方に突き出した推進翼を砕き折り、そのまま駆け抜ける。
情報窓が警告を伝え、ソウマが回避運動を取ると、それを追うように粒子砲がかすめた。
「もう持ち直したか、だが」
前衛にいた四機編隊のうち、既に二機を奪っている。
後衛は、間に合わない
問題にならない。
そう告げるように、赫狼は、点と点をつなぐように、正面から直進する。
相対する機動装甲の視線と携える銃身の角度から、弾道を予測し躱す。
的を絞らせない。
トリガを引かせない。
時間と距離を奪い、そして、視界と腕を奪った。
機動装甲のカメラがメインからサブに切り替わるが、既に、赫狼の姿はない。
ただ、手にしていた荷電粒子砲の残骸が虚しく映し出された。
「一瞬で三機か、流石だな」
「後衛を引きつけてくれたお陰です」
通信窓から伝えられた感嘆に、ソウマは言葉を返す。
そこには、クノスの姿が映し出されていた。




