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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
四章「継承者」
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22

「艦隊の様子は?」

「動きはありません」

 まず警戒すべきは艦砲射撃であった。

戦術としては、帝都を背に戦うことが考えられるが、それはそれで望ましくはない。

「帝都に近すぎるという判断か、或いは、艦隊も知らされていないか」

 完全に罠であれば、周囲の全てが敵となる。

だが、現状では、その様子はない。

「通信傍受。艦隊は静観するようです」

「動けないのか、動かないのか、試されてるということか」

 望ましい状況ではないが、一方で、最悪ではない。

ソウマは、その幸運に感謝した。

「皇帝陛下のご意思に背き、守都艦隊が攻撃をしかけてくるとは思えません」

「なるほど、帝国も一枚岩ではないということですか」

「先のこともあります。否定はできません」

 ティアスは、悔しそうに言葉にした。

「何れにせよ、どうにかしてみせます」

 力強く告げると、ソウマは機体を加速させる。

軌道を変え、彼方の不明機と正面から相対する。

既に、気づいていると示すように。

「これで引いてくれればよいのですが」

 だが、予想通り願いは叶わない。

「不明機加速。通信拒否。干渉不可。ネットワークから孤立しているようです」

「どうしても、やる気のようですね」

 赫狼の目が彼方から迫る機影を捉え、映し出す。

不明機は既に攻撃の態勢を整えていた。

射程に入り次第、撃つ。

そんな強い意思を感じさせる姿だった。

「携行しているのは荷電粒子砲ですか」

「ええ、そのようです」

 不明機は、何れも荷電粒子砲を携えていた。

荷電粒子砲は、帝国の軍用機動装甲の標準装備であり、驚くべきことではない。

「皇帝陛下は、やはり、預かり知らぬことのようです。

一体どういうつもりなのか」

 ティアスは確信し、不明機を睨みつける。

荷電粒子砲が赫狼に対し、有効な攻撃手段とはならないことは、小惑星帯における戦闘で証明されている。

アイリスが、それを知らない筈がない。

であれば、荷電粒子砲を携えた機動装甲を強襲に向かわせるなど、考えられないことである。

何らかの意図があり、敢えて、そうしたのかもしれない。

「さて、考える時間はここまでのようです」

「はい」

 機影が迫り、軌道が交錯し、そして、光が襲う。

八機の機動装甲は、すれ違いざまに荷電粒子砲を撃ち放った。

それは明らかな敵対行動であった。

 赫狼は、攻撃を軽やかに回避する。

緩急自在の立体軌道で的を絞らせない。

性能ではなく技術で躱す。

だが、それでも、限界はある。

喰らいつかれ、劣勢なのは明らかであった。

「相手も中々の手練のようです。

これは骨が折れそうです」

 ただ、倒すだけであれば、現状でも、どうにかなるだろう。

だが、狙いは、搭乗者を傷つけずに、戦闘力を奪うことにあった。

「振り切れないのですか?」

「機体の制限を外せば、いけますが」

 ソウマは、難色を示す。

人々が暮らす帝都の周辺で、その威を示すことは避けたかった。

映像で観る遠くの光景と、その身で知る近くの体験は、全く異なるものだからである。

既に帝国の為政者に力は示している。

この戦闘で圧倒的な技術格差で敵機を捩じ伏せても、市民に混乱と恐怖の種を蒔くだけである。

とはいえ、このままでは埒が明かない。

ティアスを乗せている以上、万が一があってはならない。

ソウマは、降り注ぐ粒子の矢を紙一重で躱しながら、検討する。

帝都に逃れるという手もあるが、それで諦めてくれる保証もない。

打開策を探す。

「報告:新たな機影を確認」

 ソウマが苦虫を噛み潰していると、ソラが冷徹に告げた。

「これは、出し惜しみをしてはいられる状況ではないようですね」

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