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「艦隊の様子は?」
「動きはありません」
まず警戒すべきは艦砲射撃であった。
戦術としては、帝都を背に戦うことが考えられるが、それはそれで望ましくはない。
「帝都に近すぎるという判断か、或いは、艦隊も知らされていないか」
完全に罠であれば、周囲の全てが敵となる。
だが、現状では、その様子はない。
「通信傍受。艦隊は静観するようです」
「動けないのか、動かないのか、試されてるということか」
望ましい状況ではないが、一方で、最悪ではない。
ソウマは、その幸運に感謝した。
「皇帝陛下のご意思に背き、守都艦隊が攻撃をしかけてくるとは思えません」
「なるほど、帝国も一枚岩ではないということですか」
「先のこともあります。否定はできません」
ティアスは、悔しそうに言葉にした。
「何れにせよ、どうにかしてみせます」
力強く告げると、ソウマは機体を加速させる。
軌道を変え、彼方の不明機と正面から相対する。
既に、気づいていると示すように。
「これで引いてくれればよいのですが」
だが、予想通り願いは叶わない。
「不明機加速。通信拒否。干渉不可。ネットワークから孤立しているようです」
「どうしても、やる気のようですね」
赫狼の目が彼方から迫る機影を捉え、映し出す。
不明機は既に攻撃の態勢を整えていた。
射程に入り次第、撃つ。
そんな強い意思を感じさせる姿だった。
「携行しているのは荷電粒子砲ですか」
「ええ、そのようです」
不明機は、何れも荷電粒子砲を携えていた。
荷電粒子砲は、帝国の軍用機動装甲の標準装備であり、驚くべきことではない。
「皇帝陛下は、やはり、預かり知らぬことのようです。
一体どういうつもりなのか」
ティアスは確信し、不明機を睨みつける。
荷電粒子砲が赫狼に対し、有効な攻撃手段とはならないことは、小惑星帯における戦闘で証明されている。
アイリスが、それを知らない筈がない。
であれば、荷電粒子砲を携えた機動装甲を強襲に向かわせるなど、考えられないことである。
何らかの意図があり、敢えて、そうしたのかもしれない。
「さて、考える時間はここまでのようです」
「はい」
機影が迫り、軌道が交錯し、そして、光が襲う。
八機の機動装甲は、すれ違いざまに荷電粒子砲を撃ち放った。
それは明らかな敵対行動であった。
赫狼は、攻撃を軽やかに回避する。
緩急自在の立体軌道で的を絞らせない。
性能ではなく技術で躱す。
だが、それでも、限界はある。
喰らいつかれ、劣勢なのは明らかであった。
「相手も中々の手練のようです。
これは骨が折れそうです」
ただ、倒すだけであれば、現状でも、どうにかなるだろう。
だが、狙いは、搭乗者を傷つけずに、戦闘力を奪うことにあった。
「振り切れないのですか?」
「機体の制限を外せば、いけますが」
ソウマは、難色を示す。
人々が暮らす帝都の周辺で、その威を示すことは避けたかった。
映像で観る遠くの光景と、その身で知る近くの体験は、全く異なるものだからである。
既に帝国の為政者に力は示している。
この戦闘で圧倒的な技術格差で敵機を捩じ伏せても、市民に混乱と恐怖の種を蒔くだけである。
とはいえ、このままでは埒が明かない。
ティアスを乗せている以上、万が一があってはならない。
ソウマは、降り注ぐ粒子の矢を紙一重で躱しながら、検討する。
帝都に逃れるという手もあるが、それで諦めてくれる保証もない。
打開策を探す。
「報告:新たな機影を確認」
ソウマが苦虫を噛み潰していると、ソラが冷徹に告げた。
「これは、出し惜しみをしてはいられる状況ではないようですね」




