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「報告:指定座標に到達。都市船と軌道を同期。相対距離を維持します」
天烏は、帝都の側面へと周り込み、速度を調整する。
帝都は船であり、航行している。
並走しなければ、置き去りにされてしまう。
天烏の眼前には、守都艦隊が隊列を組んでいる。
その様相は、来賓を迎えるようでもあり、仇敵に抗わんとしているようでもあった。
「では、行きましょう」
「はい」
ソウマの呼びかけに、隣にいたティアスが応える。
二人は、既に、赫狼に乗り込み、その時を待っていた。
赫狼は単座の機体であるが、搭乗席は広く、窮屈さは感じられない。
赫狼が天烏から飛び立つ。
ティアスは、加速に備えたが、身体が圧されることはなかった。
「速度は控えめにお願いします」
ティアスの言葉は、自身の身体を慮ってのものではない。
爪を隠しておけば、いざという時の手札になる。
警戒されて良いこともない。
「はい、そのように振る舞います」
赫狼は、小惑星帯で一戦を交えた機動装甲の性能を導き、再現していた。
赫狼に及ばないとはいえ、帝国の機動装甲とて、高度な科学技術の産物である。
帝都の側面に展開する守都艦隊に近づくのに、時間はかからなかった。
守都艦隊に動きはない。
ただ、赫狼の妨げないように、隊列の中に道を形成していた。
「相変わらず、見事な艦隊運動です」
「守都艦隊は、宇宙に生きる帝国の艦隊の中でも精鋭です。
このくらいであれば、賞賛するにも値しないと首を傾げるかもしれません」
ソウマとティアスは、言葉を交わしながら、艦隊の間に形成された道をすり抜けていく。
それは巨大な鯨の群れの中を泳いでいるかのような壮大な光景だった。
距離感が狂っていたのか、或いは、狂っているのか。
巨大な艦艇とすれ違っていると、否応なく自問自答させられる。
やがて、空間が開けた。
その光景に、ソウマは、心を奪われた。
虚空の宇宙にあるはずのない青と緑が視界を覆っていた。
帝都ファランシェルトは、ただ美しかった。
ソウマは、誘導に従い、赫狼を操り、軌道を制御する。
そこで、ソラの言葉が、響いた。
「報告:人型兵器の機影八。帝都の背面より出現」
天烏が、ただ大人しく、漂っている筈がなかった。
ソラとしては、ストレスのたまる状況が続いていたが、それはさて置くとして、
弛むこなく、帝都の周辺を監視しながら、情報の収集に務めていた。
「出迎えであることを期待したいが」
「武装を確認。強襲を狙っていると判断します」
ソウマは、展開した情報窓から、不明機の軌道予測を確認し、眉間に皺を寄せる。
「どうやら、一戦交えることになるかもしれません」
告げられた言葉に、ティアスは何も応えなかった。
ただ、小さく頷いた。




