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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
四章「継承者」
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「前陣艦隊、全艦艇の応答が途絶。制御を完全に奪われた模様です」

 通信士の報告が、守都艦隊旗艦トラスベイルの艦橋に虚しく響いた。

 戦闘開始直後の混乱はすぐに収束した。

光学映像では、艦艇に対する被害が一切視認できなないのだから、気づかない筈がない。

参謀本部は、すぐに艦隊統制ネットワークへの論理攻撃であるという結論に達した。

だが、そこまでである。

解ったところで、なす術はなかった。

制御を奪還しようとしたが、経路の一切が遮断されており、手立てがなかった。

結果、守都艦隊は、整然と壊滅するに至った。

だが、それは前陣艦隊に限ったことである。

 シャルケの指揮は、迅速であり、また、賢明であった。

為す術なしと判断するや、後陣に配していた分艦隊の指揮を高級士官に託し、帝都へと後退させた。

戦おうにも、戦いにすらならないことは、明らかであった。

結果、守都艦隊は半数以上の艦艇を戦域から離脱させ、組織的な抵抗力を堅持することとなった。

 それはソウマとしても、望ましいことであった。

守都艦隊が文字通り、全滅したとなれば、帝国の臣民に与える影響は、計り知れない。

帝国に求めたいものは、議論であり、混乱ではない。

「さて、どうにかなったようですね」

「想定通りの結果です」

 ソウマが、ため息をつくように言うと、ソラは静かに応じた。

天烏の艦橋から緊張がほどけていく。

「後ろに控えていた艦隊も、大方が引いてくれたようですね。

こちらとしても助かりますが」

 艦橋の情報窓に展開する宙域図と光学映像から、ソウマは状況を確かめる。

そこには既に大艦隊の姿はない。

だが、立ち塞がるもの全てが失われたわけではなかった。

先刻の布陣と比較すれば余りに矮小ではあったが、確かに帝国の艦艇が整然と隊列を組み、待ち構えていた。

「中央にいるのは、守都艦隊の旗艦トラスベイルです」

 小集団の中央に鎮座する大型艦。

ティアスは、その外観に覚えがあった。

「なるほど、少数ながら堂々とした布陣です。

殿を務めるという、意気込みなのかもしれません。

追撃する気はないのですが」

「向かう先は同じく帝都です。

果たして信じてくれるでしょうか?」

 旗艦トラスベイルは、護衛艦と共に、戦域に留まっていた。

天烏の追撃を遅延させるためと考えれば、全く無意味というわけでもない。

だが、どれ程の抵抗ができるかは、推して知るべしであり、シャルケも理解している。

それでもそうしたのは、命じられたからである。

抵抗の最中に届いた一通の署名通信が、シャルケをその場に留まらせた。

不服はない。

命令は、シャルケの矜持に応えるものであったからだ。

制御を奪われたとはいえ、艦艇と人員は健在であり、それを見捨てるようにして、指揮官だけが逃げ延びるなど、恥でしかない。

「賢帝アイリスフィアか」

 この命令にどれほどの意味があるかは解らない。

だが、シャルケの心情を読んだ上でのものであれば、認めざるを得なかった。

「敵艦に通信要請を、時間を稼ぐ」

 シャルケは、優れた指揮官であり、気高さを旨とする帝国軍人であった。

それ故に、アイリスの愚かな企みを推し量ることはできなかった。

「報告:帝国艦隊の旗艦から相互通信の要請です」

「時間稼ぎだろうな。とはいえ、無碍にするのも――」

「報告:アイリスフィアから通信です。添付情報を展開します」

「これは、まさか!」

 ティアスは、はっとし、声を上げる。

天烏の艦橋に再び緊張がもたらされる。

「これはこれは、ご丁寧に」

 もたらされた情報とは、即ち予告であった。

ソウマは、口元を歪め、彼方の少女を睨みつける。

「話している時間はなくなった。

追撃の意図がないこと、

全艦艇の安全を保証することを伝えたら、制御を奪え」

「わかりました」

 天烏は、羽ばたいた。

蒼穹を往く猛禽が如く翔けた。

風に流れるような柔らかさと、そして、風を裂くような鋭さが織り成す軌道。

それは、ただ最適であり、それ故に、美しい。

 艦隊旗艦を守るように組まれた堅固な防御陣の上後方左側面へ、天烏は、回り込み、態勢を整える。

立ち塞がるものを倒すためではない。

立ち塞がるもののために、立ち塞がるためである。

「きます」

 ソラが、静かに告げ。

そして、遠く宇宙が輝いた。

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