表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
一章「来訪者」
7/94

 逃げるという選択肢はなかった。

クノスは、予定されていたタスクをすべて破棄し、シナリオを転換した。

侵入が察知されるところから、身柄の拘束、或いは、地球外人類であることの発覚まで、状況に応じたシナリオは用意されていた。

それでも、この展開はそれなりに想定外であり、クノスを大いに動揺させた。

言うまでもなく、表には出していない。

身体は凛然とした振る舞いを誇示している。

だが、意識は時間感覚が歪むまでに深く速く試算を繰り返した。

 クノスは導かれるままに、同じ制服を着た少女の背を追いかけ、やがて辿り着いたのは、一つの円卓だった。

どう歩いたかは、視えていたし、記憶していた。

だが、そこに意識を充てるリソースはなかった。

結果として、クノスは気づけばそこに立っていたかのような錯覚に襲われた。

 クノスの正面には、一人の男性が腰掛けていた。

若者らしい瑞々しさはないが、一方で、大人らしい諦観や威厳もない。

黒い髪と黒い瞳と黒いシャツと黒いスラックス。袖口や首元から覗く白い肌はどこか病的だが、一方で、表情は柔らかく悲壮感は感じさせない。

そんな青年がいた。

 左手には、クノスに声をかけた少女が座っていた。

リムスベルト帝国の臣民は基本的に美形であり、それは遺伝子操作によって生み出されるデザイナーズチルドレンであることが一因である。

そんな美形を見慣れたクノスの感覚からしても、少女は魅力的に映った。

ふわりと揺れる美しい金色の髪。

柔らかく穏やかな表情。

その在り方は、否応なく庇護欲をかき立てる。

だが一方で、その瞳は、時折、深く鋭い輝きを覗かせ、その光と闇はクノスをより警戒させた。

 少女は、クノスに着席を促し、それを見届けてから席についた。

それから、ウェイトレスを呼ぶと、悩むことなく注文を行った。

間もなく、少女とクノスの前には紅茶が、そして、テーブルの中央に宝石のような洋菓子が並べられた三段のケーキスタンドを運ばれてきた。

結論として、現在、クノスは喫茶店のテラス席に座り、地球の紅茶に初めて口をつけようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ