13
宇宙を覆うように配された戦闘艦艇が一斉に荷電粒子砲を放った。
レンズが光を一点に集めるように、無数の軌跡が一点へと収束する。
夜空に穴が穿たれ、突如、太陽が姿を現すかのような幻想。
それは帝国の威光を示す遥かな輝きだった。
放たれた威力は絶大。
そこにあったものは、ただ砕け散る。
そうなる筈であった。
命じた者も、命じられた者も、そう信じていた。
疑いはない。
その筈である。だが、同時に祈ってもいた。
夜明けが、終わる。
光が収束し、宇宙が静寂へと戻る。
そこにあるべきものは、なかった。
残骸は、ない。
そこにあることが証明されている。
そう誇示するかのように、ただ、光を纏う翼が、あった。
「敵艦、健在。速度を維持し、侵攻を続けています!」
「攻撃を継続!」
「効果を認められません。敵艦の周囲で散光しています」
「構わん! 撃ち続けろ!」
全面に展開する艦隊から断続的に放たれ続ける無数の砲火は、苛烈と表現するに相応しいものであった。
そのうちの一条が惑星の表面を撫でれば、そこにあるものは影さえも残さずに灼かれるだろう。
だが、そんな破壊の糸が束となっても、天烏を縫い止めることは叶わない。
青空を舞う翼の如く、悠々と前進を続けている。
「報告:全艦異常なし。帝国艦の攻撃能力は想定の範囲です」
ソラが音で告げると、ソウマは、ため息をついた。
火線の中心にあって、天烏の艦橋は平穏を保っていた。
船は、損傷を受けるに及ばず、そも揺れてすらいない。
「中々どうして、凄まじいものですね。
どうにかできたようで、ほっとしています」
困ったような笑顔を向けられるが、ティアスには返す言葉がない。
何を信じていいのかわからない。
自身が無事であるという不条理を受け止めることができない。
「どうにか、ではありません」
代わりに、言葉を返したのはソラであった。
そこには、不快感がにじんでいた。
「艦隊戦をするなんて、はじめてのことだ。仕方がないだろう」
「帝国の戦力を想定した上で、この場に臨んでいます。
あえて言うなら、地球にいるよりも安全でしょう」
「そうだな、悪かったよ」
「悪くはありません。しかし、反省はして下さい」
ソウマは、天を仰ぐしかない。
「間もなく、指定座標に到達。武装を限定解除。制圧行動を開始します」
ソラの声に、ティアスははっとした。
無惨に引き裂かれた帝国艦艇の姿が、否応なく想像された。
唇が震え、血の気が失せていく。
これは、戦いである。
撃たれているのに、撃ち返すなとは言えない。
だが、それでも、そう願った。
「レーダーに感あり。敵艦が何かを射出。数はニ」
トラスベイルの艦橋に響いた言葉は、そこにいる者全ての意識を奪った。
「雷撃か?」
「反応消失。追随せず、その場に残置されたようです」
「どういうことだ?」
「敵艦に高エネルギー反応!」
「前陣艦隊に警戒を促せ!」
シャルケの言葉の数瞬後、天烏はその威を行使した。
艦体の両翼に展開された収斂光砲が輝きを放つ。
だが、それは帝国艦隊が展開する前方に向けてではない。
照準は後方にあった。
威嚇のためではない。
放たれた一対の光刃は、先に射出され、後方左右に展開していた反射鏡体を貫いた。
瞬間、前陣艦隊の最外周、曲面の縁を形成する戦闘艦艇を閃光が撫ぜた。
一対の光刃は、それぞれを対称に半円を描き、繋がり、虚空に円弧の軌跡を残す。
それは、瞬きをする間にも、失われる光景であった。
だが、そこには確かな、爪痕が残されていた。
「報告!」
「ひ、被害甚大。
艦隊統制ネットワークから、数千以上の艦艇から同期が途絶。
緊急連絡網にも応答なし。
損傷は、それぞれ撃沈以上と想定。
跡形もなく掃滅された模様」
「数千の艦が、一瞬で、だと」
前陣艦隊の最前面、球状陣の外縁には、特に防御力の高い艦艇が集中して配備されていた。
それらが為す術もなく撃破されたということは、
つまり、攻撃に対抗しうる手段がないということを物語っていた。
「高エネルギー反応! 第二波です!」
天烏は、手を緩めない。
戦場を俯瞰し、全てを掌握せんと、攻撃を続ける。
「球状陣の中間が一掃されました! 艦隊が前後に分断されます!」
「なんという、なんということだ」
艦橋に展開する宙域図から、帝国艦の存在を示していた立体が、次々と消失していく。
シャルケも、参謀らも、その光景を、ただ呆然と眺めるしかなかった。
それが悪夢であって欲しいと願いながら。




