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「ばかなのか、貴公は?」
アイリスは、開口一番、告げた。
あからさまに怒りを露わにしてはいない。
一方で、如何にも不愉快であるという声色ではあった。
「まずは、非礼をお詫びします」
罵倒された方が、謝るというのは奇妙な構図ではあるが、ソウマに躊躇いはなかった。
現状においては、罵倒されて然るべきであると自覚していた。
「その様子ですと、ご期待に沿うことはできなかったようですね」
「こんな結果を期待してたまるものか。
これほどまでに惨めな気持ちになったのは久しくないことだ。
慙愧に堪えぬ。
自己への嫌悪で、どうにかなってしまいそうだ」
アイリスの表情は、ベールに隠され窺い知れない。
だが、ソウマは、そこに凄惨な笑みを想像せざるを得なかった。
「卿は、止めなかったのか?
いや、止められなかったのか?」
アイリスは、ソウマの隣りで小さくなっているティアスに気づくと、言葉を射る。
「わ、私も、このようなことになるとは」
ティアスは、慌てて言葉を探すが、声にならない。
ただ、無意識は縋るように、ソウマの袖に指先を伸ばしていた。
「責めないで下さい。諫言は頂きました。その上で私が判断したことです」
「で、あろうな。全て貴公の責任だ」
「どうにかするつもりですよ。そのために来たのですから」
「言ってくれたな。
かびの生えた者共ほど、体裁を気にする。
帝国にも、少なからず、巣食っておる。
ここまでされては、余とて止められぬぞ?」
「止められないように、念を入れたつもりです」
「確信犯ということか。
でなければ、困るがな」
「宇宙の出会いには、戦いが必定なのでしょう」
「余も否定はせぬよ。
そう考えたからこそ、貴公の力を慎ましく測ってきた」
「お心遣い感謝します」
「帝国のためだ。気にせずともよい」
「だからこそでもあります。
気を遣われる方も、気を遣うものです。
手を伸ばされているのに、それを無視し続けるわけにはいかなかった。
こちらも、その気があるということを示さなければ、
互いに焦がれながらも、すれ違ってしまうかもしれない」
「あからさまに過ぎたか。反省せねばな」
「いえ、それはそれで良いのだと思います」
数瞬の穏やかな沈黙があり、そして、アイリスは告げる。
「貴公は、今や帝国を脅かす侵略者に他ならない」
「全く皮肉な結果です」
「この戦いで犠牲が出れば、地球への敵愾心は拭いがたいものとなろう。
それで、良いのか?」
「覚悟の上です。
解り合うためには、痛みも必要なのでしょう」
「否定はできん。だが、それは、強者の論理だ」
アイリスの言葉には、哀しみと諦めがあった。




