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「どうにか、それらしく振る舞えたかな?」
「録画をご覧になりますか?」
「やめてくれ」
頭の中で言いながら、ソウマは、ジャケットの立襟に指をやり、留め具を外す。
気の抜けた様子で首をまわしていると、ふと身体が引き寄せられ、視界は少女の相貌に独占された。
それは、様々な感情に歪んでいたが、それ故に、美しくもあった。
「ばかなのですか、貴方は?」
物言いには微塵の容赦もない。
だが、言葉がソウマの感情を揺らすことはなかった。
いつものように、苦笑いを返し、なだめようとする。
表情を失ったティアスが幽鬼の如く歩み寄ってきていたことには、気付いていた。
そも、ティアスの感情を揺さぶるであろうことも、想像に難くない。
だが、全てが想定通りではない。
縋り付くようにして、ソウマを睨む瞳は、濡れていた。
「うまくやるというから、信じたのに。それが、このような愚挙に及ぶとは」
地球の存在は、帝国において極秘事項であり、
現在までの外交政策は、少数の意思決定者による独断で行われていた。
それを逆手に取り、その存在を自ら広く知らしめんとすることで揺さぶりをかけ、交渉を優位に進める。
帝都に向かうと言ったのは、そういう戦略であると、ティアスは認識していた。
帝都に接近したところで通信を送り、帰還を材料に、クノスの安否確認、或いは、引き渡しを要求する。
そういうことであると、ティアスは推測していた。
だが、期待は大きく裏切られていた。
船は、止める間もなく、帝都の懐へと入り込み、交渉を提案する間もなく、その存在が敵性であると喧伝した。
一方的な領域侵犯と宣戦布告。
もはや、関係は決裂している。
言い訳のしようがない。
ティアスは、この無策無謀と判断せざるを得ない行為を止められなかった自身が許せなかった。
だが、ティアスを慰めるソウマには、これが最適解であるという自負があった。
「言葉で解り合うのが理想です。
ですが、遅かれ早かれ、戦わざるを得なかったでしょう」
「どういう意味です」
「望む者がいて、そう導いていた。
それだけの話しです。
とはいえ、誰かのせいにするつもりはありません。
考えに賛同し、ここにいるわけですから」
「帝国と貴方の思惑が一致した結果だと?
確かに、帝国は、地球を攻撃しようとしました。
ですが、それは――」
「戦いは悪でしょうか?」
ソウマは、あえて否定せず、柔らかく質す。
「戦うことで、解り合えることもある。
戦わなければ、解り得ないこともある」
「稚拙な考えです」
ティアスは、否定できず、だが、軽蔑する。
「ですが、事実でもあります。
私とティアスも戦いました。
ですが、こうして手を繋いでいます」
「結果論です」
ティアスは、はっとして、掴んでいた手を離し、顔を背けた。
「とにかくです。
私は、期待に応えたいと考えました。
ただ、同時に、裏切りたいとも考えました」
「裏切る?」
そこで、ふと、ソラの声が告げた。
「報告:帝国から通信要請です」
「相手がわかるか?」
「アイリスフィアです」
「繋げてくれ」
ソウマは、音のない声で答え、そして、告げる。
「私は、より良い結果を導くつもりです。
彼女が求める以上の未来を」




