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大鳥島に上陸したクノスは、物流拠点となっている港湾区画を抜け、島民の生活拠点となっている都市区画へと向かった。
セントラルストリートと称されるアーケード街には、朝から既に活気があり、多くの往来があった。
クノスは、流れに身を任せるように歩きながら、街と人の様子を観察した。
銀色の髪は金色に染められ、身体の輪郭を隠さず纏われる多機能外装は、制服に隠されて見えない。
制服は大鳥島にある教育機関の学生に支給されるものを極めて精巧に再現している。
地球人類の姿を装うことには成功している。
一方で、身を隠すことに成功してはいなかった。
クノスが視線を感じているのは気のせいではなかった。
服装や行動に問題があったわけではない。
白い肌。すらりとした長い手足。ファッションモデルを連想させる均整の取れた体躯。
無垢な人形の如き表情のない表情と強い意志を感じさせる瞳。相反する要素が織り成す妖しい神聖。
クノスが視線を集めるのは、その美貌が故のことであり、仕方のないことであった。
正午に差し掛かる頃、クノスは休息する場所を探すために足を止めた。
好奇の目に晒されることなく、手持ちの補給食をかじることができれば、それだけでよかった。
だが、そういった場所は、少なくとも、小一時間歩いてきた中では、見つけることはできなかった。
予定されていた行動計画の多くが破綻をきたしたのは、正にその時だった。
クノスは声をかけられた。
「こんにちは――」
意味がわからなかった。
言葉の意味は理解している。
クノスは、地球人類が操る主要言語を学習し、一定以上の知見を得ていた。
支援AIの翻訳補助を活用すれば、専門的な知識を要する会話をも問題なくこなすことができる。
クノスの頭を支配した言葉は「何故」である。
何故、声をかけたのか。何故、声をかけられたのか。
そして、何故――
「クノスさんですね?」
彼女は、その識別子を知っているのか。