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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
四章「継承者」
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 帝都防衛の中枢をになう守都艦隊旗艦の艦橋に警報が鳴り響いた。

「司令、警報です」

「わかっている」

 守都艦隊を統率するシャルケ司令は、参謀の言葉にやれやれと応じた。

艦橋に緊迫感はなかった。

 帝都の予定進路となる宙域には、分艦隊が派遣され調査と警戒にあたっている。

危険が想定されれば報告がなされ、進路の修正が検討される。

つまり、帝都、及び、守都艦隊が航行する宙域は、一定以上の安全性が約束されていた。

即応すべき事態に直面するなど、ありえないことであり、あってはならないことであった。

 事実、警報が鳴ったとして、誤報か、或いは、些末な報告であることが殆どであり、

あわてる必要はないというのが、艦橋にいる者の共通認識であった。

 帝国は建国以来、外敵からの襲来に備え、軍事力を強化してきた。

一方で、守都艦隊が、その職責を全うする機会が訪れることはなく、存在が形骸化して久しい。

守都艦隊司令という役職も、一線を退いた者が就く名誉職として捉えられるのが常であった。

それでも、シャルケは、その地位に誇りを持っており、日々粛々と任務をこなしていた。

「報告」

 シャルケは、艦橋の空気を引き締めるように声を張ってみせるが、

如何せん、空回りしている感は否めない。

「前衛艦隊から入電。予定進路上に重力異常が感知されたとのことです」

 艦橋の前面に情報窓が展開され、宙域図が表示される。

異常が認められた地点は、帝国の基準で近からず、遠からずといった距離にあった。

帝都の歩みは慎重であり、数日で到達できる距離にはない。

だが、時間があるとは言いがたい。

進路変更はすぐにできるものではない。

「浮遊惑星か、或いは、黒色矮星か。

何であろうと、事前調査が十分でなかったのであれば問題だな。

映像を出せるか」

「観測映像入ります」

 映像に艦橋がにわかにざわめく。

「なんだこれは?」

 その光景に、シャルケは、言葉を失う。

暗闇の空間と、彼方で輝く星々。

あるべきものがそこにはあった。

他に、何かがあったわけではない。

ただ、歪んでいた。

レンズ、水鏡、或いは、透明な何か。

そこには巨大な円形の歪みが揺れていた。

ゆっくりと波を打つように、音を刻むように、光を捻り佇んでいた。

「これを説明できるものは?」

「データベースを検索。該当がありません」

 答えを持つ者はいない。

それは帝国が初めて遭遇する未知の現象であった。

「対象に動き!」

 映像が変化を捉える。

穏やかであった表層の波紋が、大きく、速く、鼓動を刻み始めた。

球面はその歪みを強くし、やがて、解くようにして、それが現出をはじめる。

 宇宙が同期していく。

暗闇が裂かれていく。

白銀の輝きが放たれていく。

歪みの膜を抜け、錐形の構造物が、ゆっくりと、その姿を顕わにしていく。

その輪郭は、鋭角であり、左右対称であった。

その姿は、硬質であり、人工的なものであった。

それは、船を連想させるものだった。

「守都艦隊司令本部の名をもって、旗下全艦隊に特別警戒警報を発令。

敵性存在の現出を想定し、速やかに迎撃態勢へと移行。

指示に即応できるように備えよ」

 シャルケは、凛然と告げる。

その姿は、帝国最強の戦力である、守都艦隊を統率する者としての威厳に相応しいものであった。

「重ねて、命じる。戦闘に備えよ!」

 艦橋に詰める士官を奮い立たせるように声は響いた。

その気勢を笑う者は、既にいない。

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