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夜明けのソラの契承者 悠久漂流帝国  作者: やたか なつき
四章「継承者」
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「こんなものかな?」

 アイリスは、ソウマとの通話会談を終えると、ため息をつき、そして、つぶやいた。

応えを求めたいわけではなかった。

だが、その瞳は、気づけば、傍にいる者を視ていた。

視線の先、そこには、クノスがいた。

 展望室の白い鳥籠の中。

完成した絵画の如く、そこにアイリスは座っていた。

永遠に、そうあることが定められているように、あるべくして、そうあった。

だが、キャンバスを広げれば、変化があった。

アイリスの正面には、クノスが座っていた。

描き足された光景は、最初からそうであったかのように自然であった。

「何が、こんなものなのですか?」

 クノスは、通話会談が始まる前からそこにいた。

言うまでもなく、会話を全て聞いている。

「おお、クノスではないか。拘束されたと聞いていたが、どうやら怪情報であったようだ。

ソウマにも伝えねばな」

 アイリスは、わざとらしく謳ってみせる。

クノスが拘束されているという話は、言うまでもなく嘘である。

「彼は賢明です。私などを材料にしたところで、揺さぶれるとも思えませんが」

「だが、そうであれば嬉しかろう?」

 クノスは、一瞬、言葉を失った。

それから、アイリスを睨み、苛立ちを示す。

「愚者は臆病であり、賢者は機を逸することを厭う。

何れにせよ、絶好の機会だ。

余であれば動くことに疑いはない」

 自身が賢者であると言っているようなものである。

自惚れも過ぎるというものだが、クノスは、敢えて何も言わない。

「そも、謙遜が過ぎる。

卿の名がでた瞬間、明らかに動揺しておったわ。

あの様子では、何もせずに、いられようはずがない」

「そうなのでしょうか?」

 クノスは、首を傾げる。

いつもどおり、端然と応じていたようにしか感じられなかった。

「かなり気に入られたようだな。誇ってよいぞ」

「気に入られているかはわかりませんが、

一定の信頼は得ているとは考えています」

「同じことよ。

惑星国家規模の話であろうと、交渉するのは人と人。

言葉を交わしている相手が信じられるか、結局それ次第だ。

好いた惚れたと変わりはせぬのだ」

 アイリスは、口元を歪め、いやらしく笑う。

お世辞にも、上品とは言えない。

「それにしては、あっさり引いたようですが?」

「まだ、認めぬか?

自身のことだからと、むきになっているのではないか?」

「なっ、そのようなことは」

 的を射ていた。

クノスは、自身を顧み、省みる。

確かに、冷静ではなかったかもしれない。

「あの場で抗っても徒労だと判断しただけだろう。

考える時間は必要だ。

とかく、何らかの反応を期待してもいい筈だ」

「どのような反応をするとお考えなのでしょう?」

「何でもよい。

会談の申し出があれば、応じよう。

帝都に招待してもよい。

或いは、卿を連れ出しに来るやも知れぬな。

それはそれで面白い。

ティアスに協力させれば、ことをうまく運べるだろう。

そうなれば、太陽系に留まる口実もできよう。

帝国の臣民を残して行くことはできないと主張してな」

「そう、うまくいくでしょうか?」

「帝国の意向は、それとなく伝わっているだろう。

これに気づいていないようであれば、救いがたい愚か者だ」

「帝国の意向ですか」

「余の意向ではないか、と言いたげだな。

だが、クノスもそうではないのか?

帝国を太陽系に残したいと、そう考えているのではないのか?」

「否定はしません。ですが、その資格があるのでしょうか?」

「資格か、確かに、都合の良い話ではある。

だが、そう考えるのであれば、尚のこと、ここに留まるべきではないのか?

そう、ここで留まるべきなのだ。

過ちを繰り返さないためにもな」

「卿の願いは既に果たされている。

大きな功労だ」

「幸運だっただけです」

「そうかも知れぬ。

だが、卿は志願し、地球に降りた。

そして、事を成した。それが全てだ。

卿でなければ、この状況は、なかったやもしれぬ。

そう、このような好機は、二度と訪れない。

そう考えるべきなのだ」

「多くを求め過ぎなのではないですか?」

 果たして、受け入れてくれるのか?

全てを明かし、拒まれた時、帝国を支えていた矜持は失われる。

汚名は地球の歴史に刻まれ、償うことのできない罪を背負い、また旅を続けることになる。

クノスは、それを危惧していた。

「最悪は免れた。

だがな、それだけでは足りない。

手を伸ばせば届くのだ。

理想を求めて、何が悪い?」

 クノスは、その言葉に、抗うことはできない。

それは同じく求めるものであった。

「代償は払わねばならんがな」

 アイリスは、そっと、つぶやき、口元を歪める。

クノスには、決して、届かないように。

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